聖騎士と眠りの魔女 ―ダブルワーク女子は抱き枕の身代わり―

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アウヌラ宮殿へ

6.

 辺りが明るい。洞窟から脱けて竜車が地上を走っている。シピのいうとおり、黄金色に輝く湖、薔薇色の夕陽に染まった宮殿が見えてきた。
 地下世界のアウヌラ宮へ来て数日でエステルは暗がりに慣れてしまった。久々に浴びる日の光はまばゆい。

「念のために訊くけどさ、王子、宮殿へ使いは?」

 シピが襟もとを整えながら機嫌良く問いかけた。

「いいや」
「――はい?」
「送っていない。父上を驚かせたくて」
「いやいや、ご存じなければ驚かれるだろうけどまさか、――ニムーブ門の怪物級ゴーレムを勝手に動かしたの?」
「手続き上は王太子のおまえが動かしたことになっているがな。わたしは東征将軍だが名前だけで実権はないし」
「えっ、オレがやらかしたことになってるの?」

 狼狽えるシピから、タピオは前方に迫る宮殿の門へ視線を移した。

「血のつながった後継者がいると分かれば、王位継承権もわたしに戻ってくるだろう」

 タピオの琥珀色の目に薔薇色に照り映える宮殿がどう映っているのだか、分からない。シピの様子を見るにエステルにはそう簡単に事が運ぶとも思えなかった。

――わたしは若いころ、愚かな恋をしました。

 祖母ミルヤの小さく乱れた筆跡を思い出す。重大な誤りだったからこそ、タピオは王位継承権を奪われた。

――どうすれば、いいんだろう。

 つい数日前までエステルは人間として暮らしていた。呪具師として魔人由来の技術で安眠枕をつくっていたけれど、魔人は千年来の敵で自分は人間の側にいた。恋しい人も人間だ。血のつながりが判明したからといってほいほい「じゃあこれからは魔人側につきます」とはならない。
 ご、ごご、ご。
 重くきしみ門扉が開いた。ゴーレムが恭しくお辞儀をする。美しく整えられた並木道を竜車がしずしずと進んだ。

「――げっ」

 落ち着きなく窓外へ目をやっていたシピが顔をしかめた。車寄せに怪人級ゴーレムを従えた二本角の美女が仁王立ちしている。年齢は二十代半ばにしか見えないが魔人なのでいったい何歳なのか、エステルには皆目見当がつかない。

「お帰りなさいませ、王子。そして王太子」
「や、やあ、ユリア。今戻ったよ」
「…………」

 腕組みをする美女がシピを睨んだ。冷え冷えとした目にたいそうな迫力がある。

「ニムーブ門にて変事出来しゅったいと当地のゴーレムよりしらせがありました。王がお待ちです」

 ユリアと呼ばれた美女がエステルに目を向けた。強張った顔が和らぐ。

「お嬢さんはこちらへ。謁見の前にお支度と健康診断をいたしましょう」
「では、わたしも手伝いを――」

 タピオがいいかけると

「お手伝いは不要でございます。玉座の間で王がお待ちです。おふたりとも早う」

 ぴしゃり。
 ユリアがはねつけた。つん、と麗しい顎を上げ上三白眼で睨む。その圧にたじろぎ、タピオとシピはしおしおとゴーレムに囲まれ立ち去った。
 わさ、わささ。
 蔓草の片手を牛頭の角へ持っていこうとするゴーレムたちを

「おやめなさい。皆がいっせいに角を捧げてはお嬢さんがお困りになるでしょう」

 ユリアが止めた。仕方ないわね、とつぶやく美女の表情から冷たさがだいぶ脱けている。

「どうぞ、こちらへ」

 ローブの裾を翻し、ゴーレムたちを従えユリアが前に立った。

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