聖騎士と眠りの魔女 ―ダブルワーク女子は抱き枕の身代わり―

uca

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大砂龍縲緤獄

7.


「指定されているのは距離と角度といったな。角度を変えて上に向けるのは、どうだ?」
「上、ですか? 魔界の方角でなく?」
「きみがここで怪物に喰われかけていて正直、肝を潰したが何といえばいいのか――きみ、魔界の連中を恨んでいないだろう」
「すみません……」
「なぜ、謝る」
「聖騎士のあなたにとって魔人は敵だから」
「きみにとっては血のつながりのある人々だろう。非情になりきれなくて当然だ。それに、このギヨムはタピオが連れていた有翼狼だよな? こうしてギヨムを護衛につけているということは、少なくともタピオは孫娘のきみを疎かにしていないと分かる」

 呼ばれたと勘違いして寄ってきたギヨムの頭をわっしわっしと撫でてやり、ルドは笑った。

「こんなに人なつっこいんじゃ、護衛になるのか心配になるな。――よし、角度は上向きに変更で決まりだな。あとは、単位の違いか」

 腰に提げていたクラディの角を手にルドは地面にごりごりと式を立て計算を始めた。抱き枕をくくりつけた背中を横目に、エステルも鏨と槌を手に
 きち、きちち。
 一枚鏡の裏面の術式を書き換える。
 計算に勤しむ手もとに視線を据えたまま、ルドが口を開いた。

「魔人がどんどん減っていると、さっきいったな。魔界は人口問題に苦しんでいるのではないかとマウエン教会本山では推測されているが実際のところ、どうなのだろう」
「魔人には一度結ばれると子をなせるのはその相手のみという体質があって、その、私も番えるのは……」
「俺だけ、なのか」
「はい、そう診断されました」
「嬉しいよ、ステラ」

 振り返ると頬を染めて微笑むルドと目が合った。本来なら胸が高鳴るところだが、相手は背中にレースのネグリジェ着用の人型抱き枕をくくりつけてしゃがみ込み地面に計算式を書きたくっている大男だ。きゅんとくるのだがきゅんときてしまってよいのだろうか。

「よし、検算終了だ」

 クラディの角から土を払い、腰に提げ直してルドが立ち上がった。鏨と槌を細かく使い修正箇所を薄く削りとるエステルを後ろからそっと抱く。

「どうだ? 終わりそうか?」
「気が散って余計に時間を食うので放してください」
「そういわず」

 修正箇所の数字を削りとったところで、さすがにルドも離れた。
 きち、きちち。
 魔法の角度をクショフレール大公国から上空に向かうよう変更する。ルドの計算どおり、上空へ向かうだけでなく角度そのものを広くした。呪いがどう発動するか分からないが物質に似た動きをすると見越しての変更だ。

「――――終わりました」
「よくやってくれた。よし、魔界とマウエン教界、双方で呪いを分け合おう」

 ルドが一枚鏡を押し
 ぐる、ん。
 回転させた。
 かち、ん。
 厚い鏡の向こう側で術式に魔力がめぐる。
 魔法が発動した。

「お体に異変は――?」
「今のところ、感じない。きみは?」
「私も、まだ」

 エステルは腰の鞄から呪具師の診断鏡を取り出した。鏡面に映ったエステルの顔に重なって呪いの術式がくっきりと浮かび上がっている。エステルはルドにも鏡を向けた。

「……」

 纏布から銀色の髪が覗く。強い意志のうかがえる同じく銀色の眉の下に澄んだ青く、表情の鮮やかに変わる目があった。

「どうだ?」

 鏡の中のルドが面映ゆげに笑う。その笑顔に重なって複雑な紋様、呪いの術式が映っていた。「地下迷宮のお気に入り」だ。

「いつもどおり、呪われています」
「そうか。よかった」

 体に逞しい腕がまわり、抱き寄せられた。互いの鼻先をすりつけながらくすくす笑い合う。

「呪われているのによかった、だなんて」
「駄目か?」
「いいえ」

 エステルはルドと見つめ合い、自ら唇を寄せていった。堅く抱き合い、互いの唇を貪る。

「ステラ、帰ろう」

 もう一度一枚鏡を
 ぐる、ん。
 回転させて元どおりに表面を縲緤獄るいせつごくに向ける。
 金屑を始末して道具を片づけ終えると、ルドが促した。
 地下に埋まった塔のような縲緤獄の外階段をのぼり、ニムーブ門へ向かう。あと少しのところで

「エステル、クラディから縲緤獄で問題が起きたと聞いたがだいじょうぶか――、はあああ? こ、小童がどうしてここにいいい?」

 ふたりはタピオと出くわした。
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