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大砂龍縲緤獄
8.
「ギヨム、どうして――そっかあ、エステルはわたしの孫で仲良し、エステルの仲良しはギヨムも仲良し、そうだなあ。むしろちゃんとできてえらいなギヨム」
「わっふ」
強面の有翼狼が目を細め舌を出し尻尾をぶんぶん振って喜んでいる。
「小童、貴様……」
タピオがルドの腰に提げられたクラディの角へ目をやって溜め息をついた。
「ギヨムだけでなくクラディまでも誑し込みおって。――仕方なし。こちらへ」
いいんだろうか。
先に立って階段を上り始めたタピオをじっと見ていたルドが振り返った。
「行こう」
差し伸べられた手をぎゅ、と握ると笑みとともに握り返された。
縲緤獄隣のニムーブ砦も地下にある。建物が大きいわりに、東征将軍と王の曾孫である姫を除けば飼われている魔獣とゴーレムしかいない。
「たいそう寂しいところだな」
砦の食堂でテーブルを挟みルドとエステル、向かいにタピオが座っている。
「アウヌラ国東征将軍タピオ王子。貴殿はエステル・ランキラ殿を大事にするといって俺から奪っていったはずだが。どういうことだ、これは」
「小童、こっそり砦に潜り込んでおいて何を偉そうに……!」
「偉そうに、ではない。俺はまさしく時宜を得た行いによりステラを救った。危ないところだったぞ。実際のところ偉かったのでは?」
「ぐぬ」
タピオが両拳を握りしめた。
「この暗い地下砦でずっと、ステラをひとり寂しく過ごさせるつもりだったのか? 何年も、何百年も」
「それは……。しかし、――」
悔しげに顔を上げるタピオをルドは制した。
「俺はステラに、貴国の姫に結婚を申し込む。――貴殿にはアウヌラ国側の調整を頼みたい」
「何だと?」
「俺はこれから、姫が輿入れするにふさわしい地位をもぎとってくる」
「おいおい、これからって、――だいじょうぶか小童」
「忘れてもらっては困るな。俺はさっき、姫の命を救ったのだぞ。それなりの褒美があってしかるべきだろう」
ルドはのっし、と身を乗り出した。声をひそめる。
「よくよく考えろ、タピオ。貴様と別れたあとキヴァリ殿が命をつないでくださったからこそ今ここにステラがいる」
「だ、だから、これからは祖父であるわたしが――」
「次代へ命を継ぐのに、ステラには俺が必要だ」
「分かっていてエステルを――」
「いっておくが俺がステラを見初めたのは十年前だ」
「じゅ、っ――十年前といえばエステルは十歳、幼子ではないか。だいじょうぶか、小童」
「いいたいことは分からんでもないが要点はそこではない。ステラが貴国の姫だと知る前から俺は彼女を妻に迎えるつもりだった。身分がどうだのこうだの、違いがどうだのこうだの、俺にはどうでもよいことだ。ステラが欲しい」
「小童、エステルを戦利品として持ち帰るつもりか」
「そうとってもらっても俺はいっこうにかまわない」
深く溜め息をつき、タピオが顔を上げた。
「戦争になるぞ。貴様の侵入の報はすでに西幽湖の宮殿へ送られているはずだ」
「難攻不落で知られ、千年もの間マウエン教界の人間を一切寄せつけなかったニムーブ門が破られたと――な」
「ぐぬ」
「マウエン教界とてピネッキ砦を破られ、千年続いた眠りからの覚醒を強いられた。考えてもみろ、ステラと俺の結婚は、魔界とマウエン教界の戦争を阻む最善の一手となる。――どうだ、タピオ」
テーブルを挟んで青い目と琥珀色の目が火花を散らし合う。
長いような、短いような睨み合いののち、タピオが肩の力を抜いた。
「――――乗った」
「そう来なくては。――では、ステラ」
すっくと立ち上がり、ルドは抱き枕を背負うために体にくくりつけてあった紐を解きはじめた。
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