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凋落の王子、二つ名と黒歴史を得る
2.
恋をすること、そして愛し合うこと。それがこんなにも難しいとは。
ナローパス。隘路、困難な道のりを意味する。
何となく思い描いていた恋だとか愛とかのイメージと自身の欲望とが齟齬をきたしていることに気づいたのは樹子十九歳の春だった。
男を責めたい。喘ぎ乱れる男を愛でたい。
しかしいちゃ甘な恋もしたい。
後半はいい。「はいはい、スイーツ(笑)」と鼻の下を伸ばしながら話に乗ってくる男は少なからず存在する。が、責められて乱れるところを愛でられてもいいという男となるとそうそう見つからない。
その上、樹子は自分の性癖にマッチするロールモデルも見つけられなかった。
クールな女王様になってびしばしM男を責めるのはどうか。だいぶ真剣に検討したものの、違っていた。女王様になるのは難しい。中途半端に腰が引けて痛がらせてしまいそうなのものさることながら、プレイ中に頭に血が上ってオラオラしてしまいそうな自分が容易に想像できてしまう。さらに樹子は快楽に弱い。弱いからこそ相手にもとろとろになってほしいと望むのだが女王様たる者、自身の快楽をコントロールできて当然である。樹子は女王様になれない。
責めるだけでなく、ぐずぐずに蕩かしたい。
樹子は素直でかわいい男の子が好きだった。純情な童貞であればなおよい。
しかしいかんせん、性癖を自覚するのが遅すぎた。
せめて高校、できれば中学のうちに自覚しておけば恋人探しに苦労することもなかったはずだ。素直さ、かわいさ、純粋さというのは年を経れば経るほどにぎゅいんぎゅいん二次曲線を描き失われていくもの。中学のうちであれば純情少年率が高かったというのに。そして樹子自身も中学生高校生ならば少年ときゃっきゃうふふしても罪にはあたらない。だってそれは少年と少女の恋だから。
なんということだ。性癖を自覚したとたん、好みの男と恋すらできない可能性が高まるなんて。こちらが大人になってしまっては、真の美少年をたぶらかすわけにいかない。だってそれは淫行罪だから。
ええい、年齢を言い訳にしてなるものか。
樹子は奮起した。
大学にもまだ残っているはず! 素直でかわいい少年っぽい見た目の純情男子が。草食系純情ボーイを一から仕込んであまあまぐずぐずに蕩かして樹子なしでは生きられないようにしてはどうか。
つきあうならみんな、チャラチャラしてちょっと悪そうな男がいいんでしょ? もじもじした草食系少年ならよりどりみどりに違いない。――――そう思っていたころが、樹子にもあった。
たまたま在籍したころがそうだったのか。そういう校風だったのだろうか。
――大学に入るとどうしてみんなはっちゃけちゃうんだ。
まず、入学式、ガイダンスあたりでは素朴で純情そうだった男子が、しばらくすると他大学との合同サークルの新歓コンパを経てチャラチャラギラギラオラオラしはじめた。チェックの綿シャツのボタンを上まできっちり留めていたくせにいきなり無地のでろでろしたシャツに買い換えあらやだこの子ったらボタンなくしちゃったのかしらと心配になるくらい前をしどけなくびらびら開けっ放し貧弱なデコルテを見せつけはじめる。
――や、デコルテまわりが貧弱なのはかまわない。
華奢な男子は樹子の好物だ。問題はかわいくもなければ色気もないところにある。
――なんで入学後ひと月もしない間にただでさえ絶滅しかかっていたかわいい男の子が激減しちゃうの。限られた資源なの連中は。
自分の性癖がマジョリティでないことは分かっていた。
だからこそトライアンドエラーで機会を濫費するわけにいかない。一発で決めてパートナーを得て恋と性癖両方とも手に入れよう。あわよくばそのまま結婚まで持ち込み愛と欲望とを恒久的に満たしてしまえ。
樹子は逸っていた。
貴重且つ稀覯な純情美少年を探さなければ。
なぜなのだろう。いざ決意も新たに突き進めば、そこが必ず茨の道になるのって。
ナローパス。隘路、困難な道のりを意味する。
何となく思い描いていた恋だとか愛とかのイメージと自身の欲望とが齟齬をきたしていることに気づいたのは樹子十九歳の春だった。
男を責めたい。喘ぎ乱れる男を愛でたい。
しかしいちゃ甘な恋もしたい。
後半はいい。「はいはい、スイーツ(笑)」と鼻の下を伸ばしながら話に乗ってくる男は少なからず存在する。が、責められて乱れるところを愛でられてもいいという男となるとそうそう見つからない。
その上、樹子は自分の性癖にマッチするロールモデルも見つけられなかった。
クールな女王様になってびしばしM男を責めるのはどうか。だいぶ真剣に検討したものの、違っていた。女王様になるのは難しい。中途半端に腰が引けて痛がらせてしまいそうなのものさることながら、プレイ中に頭に血が上ってオラオラしてしまいそうな自分が容易に想像できてしまう。さらに樹子は快楽に弱い。弱いからこそ相手にもとろとろになってほしいと望むのだが女王様たる者、自身の快楽をコントロールできて当然である。樹子は女王様になれない。
責めるだけでなく、ぐずぐずに蕩かしたい。
樹子は素直でかわいい男の子が好きだった。純情な童貞であればなおよい。
しかしいかんせん、性癖を自覚するのが遅すぎた。
せめて高校、できれば中学のうちに自覚しておけば恋人探しに苦労することもなかったはずだ。素直さ、かわいさ、純粋さというのは年を経れば経るほどにぎゅいんぎゅいん二次曲線を描き失われていくもの。中学のうちであれば純情少年率が高かったというのに。そして樹子自身も中学生高校生ならば少年ときゃっきゃうふふしても罪にはあたらない。だってそれは少年と少女の恋だから。
なんということだ。性癖を自覚したとたん、好みの男と恋すらできない可能性が高まるなんて。こちらが大人になってしまっては、真の美少年をたぶらかすわけにいかない。だってそれは淫行罪だから。
ええい、年齢を言い訳にしてなるものか。
樹子は奮起した。
大学にもまだ残っているはず! 素直でかわいい少年っぽい見た目の純情男子が。草食系純情ボーイを一から仕込んであまあまぐずぐずに蕩かして樹子なしでは生きられないようにしてはどうか。
つきあうならみんな、チャラチャラしてちょっと悪そうな男がいいんでしょ? もじもじした草食系少年ならよりどりみどりに違いない。――――そう思っていたころが、樹子にもあった。
たまたま在籍したころがそうだったのか。そういう校風だったのだろうか。
――大学に入るとどうしてみんなはっちゃけちゃうんだ。
まず、入学式、ガイダンスあたりでは素朴で純情そうだった男子が、しばらくすると他大学との合同サークルの新歓コンパを経てチャラチャラギラギラオラオラしはじめた。チェックの綿シャツのボタンを上まできっちり留めていたくせにいきなり無地のでろでろしたシャツに買い換えあらやだこの子ったらボタンなくしちゃったのかしらと心配になるくらい前をしどけなくびらびら開けっ放し貧弱なデコルテを見せつけはじめる。
――や、デコルテまわりが貧弱なのはかまわない。
華奢な男子は樹子の好物だ。問題はかわいくもなければ色気もないところにある。
――なんで入学後ひと月もしない間にただでさえ絶滅しかかっていたかわいい男の子が激減しちゃうの。限られた資源なの連中は。
自分の性癖がマジョリティでないことは分かっていた。
だからこそトライアンドエラーで機会を濫費するわけにいかない。一発で決めてパートナーを得て恋と性癖両方とも手に入れよう。あわよくばそのまま結婚まで持ち込み愛と欲望とを恒久的に満たしてしまえ。
樹子は逸っていた。
貴重且つ稀覯な純情美少年を探さなければ。
なぜなのだろう。いざ決意も新たに突き進めば、そこが必ず茨の道になるのって。
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