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がつ子、天使と出会う
4.
つかつかと廊下を急ぎながらしばし、樹子は考えに沈んだ。
潤いがほしい。切実に、ほしい。
あくせく働き泥のように眠るだけの多忙を極める暮らしであれば恋愛など縁があるわけもない。そもそも成人して美少年との恋愛が社会的に許される年齢でなくなったからには、ときめきなど望めない。樹子はそう思っていた。忙しなくも変化のない日々になるのだ、と。
工夫はしてみるものである。
学生時代の恋に破れてのち、樹子は妄想を習得した。
脳内美少年であれば成長とともにすれて純粋さを失うことなどなく脳内樹子に翻弄されつづけてくれる。現実がいかに厳しくても、脳内であれば少年ときゃっきゃうふふしたところで罪に問われることもない。
妄想はジャンルというフレーム、ストーリーという薪、キャラクターという種火にキャラクター同士の関係性という燃焼剤が揃って初めて炎と化す。
しかしこれらすべてを脳内で調達するには、残念なことに樹子の妄想力はパワー不足であった。十分な火力を得るために、脳みその外から不足する材料を調達する必要がある。小説、映画、ドラマ、漫画、アニメ。美少年ものの創作物をあさりにあさった。が、樹子は満足できなかった。妄想するパワーの不足だけでない。樹子は夢女子であった。妄想であっても主体はオノレでなくてはならない。純朴且つ愛らしく美しい少年を樹子自身の手できゃふんきゃふん啼かせなければときめかない。その上、樹子は生もの志向であった。二次元より三次元、虚構より現実。欲望を妄想で昇華させようとしているのに、夢女子で生もの志向であるために常に燃え種不足に陥っている。
そうして突入した社会人生活。忙しさとマッチョと噛み合わない派遣社員たちにすりつぶされそうになっている樹子は天使と出会った。
――うっわ、夢か……。
会社に天使、好みの美少年がいる。
栗色の髪は癖があるのかふわふわと弾み、肌は色白、色素薄めのぱっちりとした目を長い睫毛が奥ゆかしく隠し頬に影を落とす。仕立てのよさげなチェックのスーツといい、細い金縁の眼鏡といい、いいとこのお坊ちゃん風のいでたちで樹子は社内で見かけるたびに半ズボンを幻視してしまう。
いや、美しいことは美しいが少年であるわけがない。どう若く見積もっても成人しているはずの天使――管理部の河合高雄は入社八年だという。
――実在するんだ、合法ショタ。
アラサー合法ショタは美形であった。長年美少年を求めていた目にはまぶしく映る。二十代が黄昏へ、さらに三十路にさしかかっても美しく愛らしいのだ。国宝、いや人類の宝とすべし。樹子は心の中で河合をエンジェルと呼び敬うことにした。
樹子は男に愛されたいのではない。オノレの手で男をとろとろにして愛したいのである。その結果、とろとろになった男が樹子を愛する分には吝かでない。かわいい男が蕩けて自分に愛を乞うなどという事態になったら吝かどころかむしろ萌えるし、燃える。
まだ入社一年目。新人の樹子は、たまに用をこしらえ管理部へ行って遠くからエンジェル河合を遠くから眺め潤い補給をしつつ仕事を覚える日々を過ごしている。
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