甘責めがつ子の惑溺愛へのナローパス

uca

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がつ子、曲がるつもりのない曲がり角で立ち止まる

1.


 定時を過ぎてから戻ってきた広居主任は明らかに元気がなかった。
 課のマッチョ集団の中でだいぶマシなほうである直属の上司だ。さんざん世話になっているしいい人だ。心配にもなる。
 普段ならいかにも体温が高そうにぱつんぱつん張りつめた胸筋が心なしかしょんぼりしているように見えなくもない。

「だいじょうぶですか」
「平気だ」

 口もとはきりっと引き結ばれているがしょんぼりしている。とても平気そうには見えない。かといって体を壊しているようでもない。

「ほんとうに、だいじょうぶだから。――進捗は、どうだ?」
「今日までのものはなんとか、提出できました」
「それはよかった。問題は、週明けか」

 ふたりは書類の山をうんざりと眺めた。
 課内がハイパー産休育休ラッシュに突入し課長と主任から極力事務の負担を減らすようさんざんに念押しされただけあって、書類の集まりは悪くない。早く集まればその分イレギュラーなケースにも対応しやすい。営業資料作成だの何だのは社会経験が豊富な派遣社員に配分し、新人の樹子は管理業務に徹している。
 主任はトレイごと書類を手もとに引き寄せ、ぱらぱらとめくってざっくり確認を始めた。
 ぎゅむ。
 手が止まり、眉間に皺を寄せる。和田が放り出すように提出してきた書類だ。付箋にさらさらと指示を書き、貼りつける。

「ほんとならつきっきりのほうがいいんだが、外出が多くてすまない」

 抜き取った和田の書類を朝イチ配布用のトレイに移す。

「いいえ。お忙しいのにこうして仕事見ていただけてありがたいです」
「たいへんだろうに、顔に出さず冷静に対処していてえらいな」

 上司の手もとには書類、モニターにはタスク管理ツールと同時進行で不在時の部下の仕事をチェックしている。仕事が早い。

「確かに大変はたいへんなんですけど、皆さん協力してくださいますし、内心ヤバいと思ってもひとまず平気そうな顔をしておけと、主任に教えていただきましたし」
「進行管理がおろおろしているといたずらに不安にさせてしまうからな。必要なスキルだ。――で、どうだ。ヤバい案件はあるか」
「直近の分はなんとか。ただ、割り込みが入るときついです」
「このスケジュール、見てるはずなのになあ」

 広居主任が手もとの書類をめくる手を止め、モニターに目をやって溜め息をついた。スケジュールがガントチャートで表示されている。
 資料作成は事務担当の社員の樹子が請け、量や納期を見て派遣社員たちに依頼する一元管理のかたちをとっている。こまごまとした仕事のひとつひとつをタスク管理ツールに入力するのも手間だが、

――直接派遣さんに頼むほうが面倒がないでしょ。

 などと和田のように勝手にねじ込む輩もいる。面倒なんだが。こっちはおおいに面倒なんだが。樹子が頭を抱えるはめになるとは思いも寄らないらしい。

「極力、そういった割り込みも拾うようにしています。報告のため、というより派遣さんたちのモチベーションと作業効率を維持したいので。新人なので頼りないと思われるのもその、仕方ないんですけど――困るので」
「頼もしいな。きみは佇まいが凜としているからそこはあんまり心配してない。――が、何かあったらすぐに報告を」
「はい」
「だいじょうぶだな? ――ん、こういう訊きかたは駄目なんだった。問題ある?」
「今のところ、報告した以上のことはありません」

 疲れた笑みを交わし、ふたりはそれぞれの作業に戻った。

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