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がつ子、曲がるつもりのない曲がり角で立ち止まる
4.
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何もかも激務がいけない。疲れているからみょうちきりんなことをやらかしてしまうのだ。
「お待たせいたしましたーぁっ」
ブースへ店員がやってきた。
「唐揚げと厚焼き卵、コブサラダでございますっ」
ひょいひょい、と皿を並べ
「しっつれい、いたしましたーぁっ」
忙しなく去って行く。
「食べようか」
「はい」
疲れているはずなのに広居主任はまめだった。「腹減ったよな」と厚焼き卵をすすめサラダを「野菜もしっかり摂りなさい」と取り分ける。おかんか。さらに冷や奴だの焼き鳥の盛り合わせだの烏賊の一夜干しだの、ハイボールだのが運ばれてくる。
食べて飲むうちに、気まずい空気が解けてきた。それなのに
「――で、河合とはどうなってる?」
広居主任が爆弾をぶち込んでくる。
「どどど、どうって、どうにかなるわけ、ないじゃないですか……」
「そうなのか?」
「そうですよ」
烏賊の一夜干しをひと切れ口に放り込み、樹子は目を逸らした。
理想が服を着て歩いているかのようなアラサー合法美ショタであるエンジェル河合に心奪われていることは、
――あいつが気になるのか。
営業三課配属後早々に広居主任にバレている。樹子の矢印が向かう先にエンジェルが見えたらしい。
――違っ、かわっ、か、かわ、かわいくてそのあの、自分の中で天使というかアイドル的な存在、というか清らかな感じがするというか、決して疚しい気持ちはなくてその、っ……。
あたふたと言い繕う樹子に深々とうなずき、広居主任は雄くさい美顔面に慈母のごとき笑みを浮かべた。
――なるほど。河合はいいやつだぞ。
聞けば広居主任とエンジェルは同期で仲がよいという。
意外だ。
片や管理部所属の愛らしい合法美ショタ、片や外回りの多い営業で外宇宙出身のスーパーなヒーロー似の雄くさい美ゴリラだ。似たところなどまるでない。強いていえばふたりとも色白なところが共通しているくらいか。
しかし上司とエンジェルの仲がよいおかげで樹子は大きなメリットを得ている。
まず、エンジェルに顔と名前を覚えてもらえた。
広居主任がエンジェルに紹介してくれたのである。顔と名前の一致だけでなくエンジェルをはじめとする管理部のサポートもあってハイパー産休育休ラッシュ一回目の月締めを何とか乗り越えることができた。
次に、エンジェルのプライベートエピソードだ。
同期の中でも仲がよいだけあって、広居主任はエンジェル情報をたくさんもっている。ストーキングしたいわけではない。しかしちょっとしたエピソードを知るくらいなら許されるのではないか。樹子は主任にエンジェルの話をねだることにした。
「河合の話、か」
あんまり立ち入った話は勘弁な、と前置きして広居主任はごごっ、とハイボールを喉に流し込んだ。すかさずおかわりをオーダーする。酒は人の口をなめらかにするものだ。雄くさい美顔面の少し淡い色の目を伏せ、主任は微笑んだ。
「あいつ、仕事はちゃんとしてるのに変なところでどじっ子なんだよ」
「どじ、っ子」
「この前、駅で間違えて酒屋のポイントカードにチャージしようとして券売機に拒否られてた」
「か、かわいい……!」
天使の愛らしさに眩暈がした。「おかしいなあ」などとつぶやきながら首を傾げるところを想像しただけで天に召されそうになる。
「確かに、俺から見てもかわいいもんな」
「ですよね」
「でも本人にはいうなよ? あいつ、自分の見た目が男らしくないって気にしてるんだよ」
「そんなところも最高なのに! でも、はい、申しません……!」
拳を握りしめる樹子を見て広居主任は目を細めた。目尻がほんのり赤く染まっている。
「お待たせいたしましたーぁっ」
ブースへ店員がやってきた。
「唐揚げと厚焼き卵、コブサラダでございますっ」
ひょいひょい、と皿を並べ
「しっつれい、いたしましたーぁっ」
忙しなく去って行く。
「食べようか」
「はい」
疲れているはずなのに広居主任はまめだった。「腹減ったよな」と厚焼き卵をすすめサラダを「野菜もしっかり摂りなさい」と取り分ける。おかんか。さらに冷や奴だの焼き鳥の盛り合わせだの烏賊の一夜干しだの、ハイボールだのが運ばれてくる。
食べて飲むうちに、気まずい空気が解けてきた。それなのに
「――で、河合とはどうなってる?」
広居主任が爆弾をぶち込んでくる。
「どどど、どうって、どうにかなるわけ、ないじゃないですか……」
「そうなのか?」
「そうですよ」
烏賊の一夜干しをひと切れ口に放り込み、樹子は目を逸らした。
理想が服を着て歩いているかのようなアラサー合法美ショタであるエンジェル河合に心奪われていることは、
――あいつが気になるのか。
営業三課配属後早々に広居主任にバレている。樹子の矢印が向かう先にエンジェルが見えたらしい。
――違っ、かわっ、か、かわ、かわいくてそのあの、自分の中で天使というかアイドル的な存在、というか清らかな感じがするというか、決して疚しい気持ちはなくてその、っ……。
あたふたと言い繕う樹子に深々とうなずき、広居主任は雄くさい美顔面に慈母のごとき笑みを浮かべた。
――なるほど。河合はいいやつだぞ。
聞けば広居主任とエンジェルは同期で仲がよいという。
意外だ。
片や管理部所属の愛らしい合法美ショタ、片や外回りの多い営業で外宇宙出身のスーパーなヒーロー似の雄くさい美ゴリラだ。似たところなどまるでない。強いていえばふたりとも色白なところが共通しているくらいか。
しかし上司とエンジェルの仲がよいおかげで樹子は大きなメリットを得ている。
まず、エンジェルに顔と名前を覚えてもらえた。
広居主任がエンジェルに紹介してくれたのである。顔と名前の一致だけでなくエンジェルをはじめとする管理部のサポートもあってハイパー産休育休ラッシュ一回目の月締めを何とか乗り越えることができた。
次に、エンジェルのプライベートエピソードだ。
同期の中でも仲がよいだけあって、広居主任はエンジェル情報をたくさんもっている。ストーキングしたいわけではない。しかしちょっとしたエピソードを知るくらいなら許されるのではないか。樹子は主任にエンジェルの話をねだることにした。
「河合の話、か」
あんまり立ち入った話は勘弁な、と前置きして広居主任はごごっ、とハイボールを喉に流し込んだ。すかさずおかわりをオーダーする。酒は人の口をなめらかにするものだ。雄くさい美顔面の少し淡い色の目を伏せ、主任は微笑んだ。
「あいつ、仕事はちゃんとしてるのに変なところでどじっ子なんだよ」
「どじ、っ子」
「この前、駅で間違えて酒屋のポイントカードにチャージしようとして券売機に拒否られてた」
「か、かわいい……!」
天使の愛らしさに眩暈がした。「おかしいなあ」などとつぶやきながら首を傾げるところを想像しただけで天に召されそうになる。
「確かに、俺から見てもかわいいもんな」
「ですよね」
「でも本人にはいうなよ? あいつ、自分の見た目が男らしくないって気にしてるんだよ」
「そんなところも最高なのに! でも、はい、申しません……!」
拳を握りしめる樹子を見て広居主任は目を細めた。目尻がほんのり赤く染まっている。
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