甘責めがつ子の惑溺愛へのナローパス

uca

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がつ子、曲がるつもりのない曲がり角を曲がる

2.


「だからこそ、仕事を離れたら誰かの、大切な人の特別でありたいとも思う。思っていたんだ」

 ずず、と逞しい肩が落ちる。

「春に、いや、冬か。恋人と別れた」
「……」
「今日、――外回りの帰り、元カノが他の男と歩いているのを見かけた。別れたのはもう、何ヶ月も前のことだから俺には関係ないって分かってる。けど、彼女が楽しそうで」

 広居主任がすりすりと胸もとに頬を寄せてきた。いつもは整っている髪が乱れかけて少し幼く見える。

「俺とつきあっていたころそのままの彼女で、なんていえばいいんだろうな。俺にとって彼女は特別だったけど、彼女にとって俺は取り替えの利くパーツだったんだなって思ったら、もう過去のことなのにむなしくなって――」
「…………」

 分かる。樹子にも経験がある。失恋は、つらい。
 しかし何と声をかけてよいものか、分からない。「時間が解決しますから」と出任せで分かったような口を利くこともできる。でも、それは嘘だと樹子は知っている。別れて三年以上経つ元カレに未練など欠片も残っていない。自分が誰かの唯一でなくなったという傷は一見、痕も残さず消えてしまっているのに癒えない。今もじくじくと心の奥で疼いている。
 何もいえないまま樹子はそっと上司の頭を撫でた。
 てきぱきと仕事をこなすし、情に流されないタイプかと思っていたが意外に人がよい。樹子が広居主任の立場であれば「楽しそうにしやがって、今に見てろ、相手の男もそのうち捨てられるんだ」くらいは考える。他人の不幸を願い溜飲を下げることに思いが及ばない純な上司がかわいそうになってきた。
 主任がいうところの元カノが、和田のいっていた「お嬢さまっぽい美人の彼女」なのだろう。破局は冬だか春だかでそこそこに時間が経っていても、未練をだっぷり残していると見た。

――主任狙いだったら、やめといたほうがいいよお。

 先輩社員和田の探るような声が脳裏をよぎる。
 狙ってないっつうの。――でも恋人とすでに別れているのなら、好きになってはいけない人ではない。
 心にするん、と忍びこんできた安堵に、樹子はぎょっとした。
 まるで広居主任を好きになってしまったみたいではないか。
 ぶんぶんと首を横に振りたくなるのを堪えた。
 ない。ないったらない。
 自分が好きなのは華奢で儚げな美少年であってひとたび地球が危機に瀕すれば変身してぴっちぴちのコスチュームに身を包み力を揮うスーパーなヒーロー似の分厚い胸板をしたえっちな美ゴリラではない。断じてない。
 こうしてはいられない。
 樹子は慌てて膝立ちになって主任から離れようとした。いつの間にかベッドに乗り上げるどころかアンダーシャツにトランクスの半裸マッチョの膝にまたがっている。それだけでない。スカートがずり上がり太ももが見えてしまっている。

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