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がつ子、俯きバナナに通せん坊される
1.
しおりを挟む――ゲートウェイ先輩、元気かな。
楚々とした美人であり、妖女といっていい変人でもあった。彼女の童貞スレイヤーっぷりを知る学生たちの間での評判はすこぶる悪かったが、一度ならず迷惑を被ったにもかかわらず樹子はゲートウェイ先輩が嫌いではない。ゲートウェイ先輩はターゲットの童貞にも、ライバル認定していたらしい樹子にも教授にも大学生協のアルバイトにも、誰に対しても丁寧で態度が変わらない。彼女にとって地球上の全人類が執着の対象にならないからこそどうでもいいのだろうとも考えられたが、職位や職掌、金持ちかどうかモテるかどうかなどで他人に優劣をつけないところは潔かった。
――まず鍛えなければならないのは、鼻よ。
ゲートウェイ先輩にそう教えられたのに、樹子は結局元カレの童貞香を嗅ぎ分けることはできなかった。本人の自己申告とゲートウェイ先輩の嗅覚による保証で未経験だったであろうとぼんやり感じるのみだ。比較対象が元カレしかないのだから、童貞香なるものの嗅ぎ分けができるはずもない。統計的に有意になるレベルで童貞を狩れば香りを特定することも可能かもしれないがそもそも、統計的に有意な違いを示すエビデンスを得るために童貞を何人狩ればよいのか。無理だ。身がもたない。
広居主任は三十路直前、いわゆる魔法使いになる前に童貞を失ったことになる。
喪失から数ヶ月、しかも中折れという不幸な事故で経験値も積んでいないとなれば広居主任はセカンドバージンならぬセカンド童貞といっていいのではないだろうか。ゲートウェイ先輩がいうところの童貞香なるものが残っている可能性がある。
すん。
マッチョの肌のにおいを嗅ごうなど、まるで変態だ。しかし樹子はもともと清純な美少年を甘責めしたいという性癖の持ち主なんであって、今さら男のにおいを嗅ぐの嗅がないのを云々するレベルではない。躊躇いを捨て、目の前の分厚い胸板へ鼻先を寄せる。
すん、すん。
もっと汗臭いのかと思っていた。広居主任の肌はほのかに香ばしいにおいがする。これが童貞の残り香なのか、それとも非童貞臭なのか、主任自身の体臭なのかてんで分からない。普段の広居主任からは柔軟剤とおぼしき人工的な香料のにおいがすることはあっても、体臭を感じるところまで近づいたことがないからだ。そもそも、広居主任が童貞だったころ、樹子はまだ大学生で出会ってもいないのだから比べようがない。
――なんだか、つまんないな。
どうしてそう考えたのか、分からない。
すりすりと胸板に頬ずりしながら思うさま肌の香りと弾力を堪能していると
くちゅ。
秘所を熱い塊が撫でた。
――これは確か、朝勃ちとかいう生理現象だったような。
男性経験は学生時代の元カレひとりきりだが、ことに及ぶ前にゲートウェイ先輩から童貞殺しのお作法を叩き込まれ汎用性高めの知識を授けられている。
朝勃ちは本人の意思と関係なく起きるので勃起していてもむらむらしているとは限らない。人によっては気持ちがついてこないこともあるとか。だから配慮が必要だとゲートウェイ先輩が教えてくれた。
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