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がつ子、初プレゼンに挑む
1.
シャワーを借りてさっぱりした。歯磨きセットと化粧直しの道具は持ち歩いていても基礎化粧品までは用意がない。洗顔後そのままで肌がかぴかぴの上にどんよりしたすっぴん顔のままだ。
「俺、――駄目だな」
キッチンでしょんぼり肩を落とす広居主任をテーブル越しに見遣り、樹子はおろおろした。
「ひとまず、ご飯いただきましょう」
「うん……」
昨晩食べ損ねた食事が余っているから食べていけといわれて樹子はご馳走になることにした。
なんと広居主任は自炊派だった。週末に平日分のご飯やおかずの作り置きをするのだという。
テーブルにほかほかと湯気を立てるご飯、角皿にデミグラスソースの煮込みハンバーグと鶏胸肉のピカタ、高野豆腐と根菜の煮物、トマトとレタスのサラダが並んでいる。
いただきます、と手を合わせて箸をとり
「おいし……!」
樹子は驚きに目を瞠った。
「すごい。料理、お上手なんですね」
「口に合ってよかった。作り置きをレンチンしてるだけ、サラダはただ切っただけだからたいしたことはしていないが」
「ご自分で作られるんですよね? 出来合いじゃなくて」
「うん、まあ。昼は外で食べるし、朝と夜だけ。必要に迫られて――」
もそもそと広居主任は俯いた。以前から筋トレの効率を上げるためにちょくちょく料理はしていたそうだ。だからまっさらの未経験スタートではなかったというがそれにしても手慣れている。独り暮らしにしては大きい冷蔵庫の冷凍スペースからぽいぽい取り出しレンジであたため、その間にてきぱき生野菜の用意も進めものの十分で食事の用意ができた。
樹子も独り暮らしだし必要にも迫られているがここまで手際よく食事の支度などできない。
「結婚資金を貯めようと思って、がんばってた。家事はできるに越したことないし。結婚した後もマンション買うのに金が要るし貯金しといたほうがいいだろうし。――まあ、俺の空回りだったわけだけど」
どうして空回りするほど頑張ったかというと、「お嬢さまっぽい美人の彼女」との幸せのためだ。なんて健気なのだろう。
きゅん、ときた。
――ややや、ちょっとだけ。ちょっとだけだから!
広居主任ががんばっているのは元カノのためであって、自分のためではない。
――何をときめいちゃってるんだ、私。
そもそも主任は樹子の好みではない。天使のような美少年でなく普段は新聞記者に身をやつしいざとなれば地球人類のため奮起するスーパーなヒーロー似のマッチョだ。ちょっと健気なところがあったり蕩け顔が意外にかわいかったりしても好みではないし、そもそも手の届く相手でもない。
樹子はうつむいた。
こんなに健気でかわいいのに――。ちはるさんとかいう元カノは中折れのせいで去っていってしまったのだ。
「……」
気まずい。
そんな不人情な女など忘れてしまえと口にするのは容易いが、そう簡単に忘れられず未練たらたらだからこそ寝言で名前を呼んでしまうし中折れにもなるわけだ。
――もやもや、するなあ。
しょんぼりとしかしきれいに箸を使う大男をちらと眺めながら樹子は煮物を口に運んだ。おいしい。高野豆腐からじゅんわりと昆布のよく利いた出汁が口中に広がる。甘みも塩気もどきつくなくやさしい味だ。
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