甘責めがつ子の惑溺愛へのナローパス

uca

文字の大きさ
39 / 125
がつ子、社会の荒波にもまれる

4.


「平気、へいき。――ほら」

 反木がモニターの陰に隠れ、マスカラの載った睫毛でくっきり縁取られた目をくるりとさせた。

「――えええ? あんなに反木さんが手伝ったのにい、進捗こんだけですかあ? ほんとにい?」

 隣の島からとぼけた声が聞こえてくる。「手伝うなんてえ、わたしひと言もいってませんけどお?」「このくらい、軽いかるーい」「がんばってえ」という横道の明るい棒読み口調に苦笑いが抑えられない。

「煽ってる、煽ってる」

 にひひ、といたずらっぽく笑った反木が

「やるだけやっちゃお。うちらは極力残業しないようにいわれてるから、定時までだけど」

 と姿勢を改めた。
 気怠く、しかしびしびしと仕事を進める反木のおかげでなんとか締日のもろもろをすませることができた。作業を終えて樹子はへろへろとくたびれマッチョ三角課長のもとへ承認を求めに向かう。

「たいへんそうだったけどォ、何とかなったわけェ?」

 分かってるんだったら営業マッチョどもに声がけくらいしろよ、と喉もとまでり上がってきたが堪える。

「はい、反木さんと横道さんに手伝っていただいてなんとか……」
「ぎりぎりのぎり、だったねェ」
「はい……」
「どう? 問題あるゥ?」

 訊かれて樹子は背筋を伸ばした。
 なんと答えたものか。
 しばらくの間、仕事をしながら考えていた。増員を頼むべきか、異動願いを出すか、辞表を出すか。締日を迎えてみれば配属されて二度目の月締めも何とかこなすことができた。危ういことは危うい。でも前月と違って

――仕事に慣れればいくらかは、スムーズになりそう。

 手応えが掴めた気がする。
 眉を上げ様子をうかがう三角課長の目を正面からしっかりと見返し、樹子は

「今のところ、問題ありません」

 答えた。

「広居も丸尾夫人もついてるし、だいじょうぶだなァ? んじゃ問題ないってことでェ」

 解放されて自席へ戻った。



 翌金曜日、樹子は屍だった。
 締日だった前日、たいして残業になったわけでもないのに疲れが残っている。

――今日一日、一日乗り切れば休み。土日は思いっきり寝る。寝るったら、寝る!

 よろよろへろへろと、休日を心の支えに出社した。


 広居主任はというと、週末のあれやこれや以前と何ら変わらない。はるか外宇宙からやってきた異星人で普段は気弱な新聞記者、ひとたびピンチに陥れば立ち上がるスーパーなヒーローを演じたマッチョ俳優を昆布のお出汁であっさり味に仕上げた感のある美ゴリラだし、ごく普通に頼りになる上司だ。意味深な視線を寄越すわけでなく、べたべたボディタッチをしてくるわけでもない。未遂に終わったとはいえ体の関係があるとは誰も思わないだろう。
 大人だ。

「昨日はたいへんだったんだって?」
「だいじょうぶです。何とかなりました」
「ほんとのところは?」
「二度と月締めやりたくありません」

 冗談めかしていうと、広居主任は雄くさい美顔面に申し訳なさそうな笑みを浮かべた。

「手伝えなくて、すまない」
「いえ、とんでもないです」

 短く言葉を交わした後、スケジュールを確認する。広居主任直属のかたちであるが、樹子は専任のアシスタントではない。事務仕事メインで課員みんなのパシりだ。締日前から残っているほうぼうからの頼まれごとのタスクをデッドラインごとに整理してToDoリストをつくり、広居主任に見てもらう。
感想 0

あなたにおすすめの小説

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)

久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。 しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。 「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」 ――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。 なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……? 溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。 王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ! ✽全28話完結 ✽辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。 ✽他誌にも掲載中です。 ✽2026.4/11 エブリスタ用に使用している表紙に変更しました。 →表紙はイラストをGrok タイトルをChatGPTでAI生成しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

繰り返す夜と嘘 〜【実録】既婚の僕と後輩の彼女、あの夜のキスから始まった13年の秘密〜

まさき
恋愛
結婚して半年の僕と、同じ職場の彼女。 出会った頃は、ただの先輩と新入社員だった。   互いに意識しながらも、 数年間、距離を保ち続けた。   ただ見つめるだけの関係。   けれど――   ある夏の夜。 納涼会の帰り道。   僕が彼女の手を握った瞬間、 すべてが変わった。   これは恋でも、友情でもない。   けれど理性では止められない、 名前のない関係。   13年続いた秘密。 誓約書。 そして、5年の沈黙。   これは――   実際にあった「夜」の記録。

触れられないはずの私が、ただ一人の彼にだけ心も体も許してしまいました

由香
恋愛
男性に触れられると体調を崩す令嬢リリア。 そんな彼女にとって唯一“触れられる”存在は――幼なじみの公爵令息レオンだけだった。 手を取られ、抱き寄せられ、当たり前のように触れられる日々。 それがどれほど特別なことなのか、彼女はまだ知らない。 やがて政略結婚の話が持ち上がり、“触れられない相手との結婚”か、“彼に触れられる人生”かを選ぶことに。 「お前に触れていいのは俺だけだ」 逃げ場のない独占と、甘すぎる溺愛。 これは、触れられないはずの少女が、ただ一人にだけすべてを許していく物語。

ズボラ上司の甘い罠

松田丹子(まつだにこ)
恋愛
小松春菜の上司、小野田は、無精髭に瓶底眼鏡、乱れた髪にゆるいネクタイ。 仕事はできる人なのに、あまりにももったいない! かと思えば、イメチェンして来た課長はタイプど真ん中。 やばい。見惚れる。一体これで仕事になるのか? 上司の魅力から逃れようとしながら逃れきれず溺愛される、自分に自信のないフツーの女子の話。になる予定。