甘責めがつ子の惑溺愛へのナローパス

uca

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がつ子、はしゃぎ過ぎの代償を払う

2.


――どういう意味? 痛いの? 痛くないの?

 主任の乳首が樹子のそれと同じ状況であればだいぶまずい。熱をもちぷっくりふくれてむずむずと簡単に刺激を拾うに違いない。
 ずっとずっと、もどかしい愛撫が続いているようなものだ。
 自分はいい。対策済みだ。
 勃ちあがったままの乳首はブラウスとスリップ、ブラジャーとさらにブラジャーのカップに包まれて外からはそうと分からない。刺激から守るために絆創膏も貼っている。

――ノーガードだ、この乳首。

 指の腹に触れるくにくにとこりこりの中間の感触からして防具は多くてシャツと肌着の二枚のみ。乳首の状態によっては肌着の繊維の毛羽がさわさわして防具どころか快楽増幅装置と化してしまう。開発に着手したばかりの主任の乳首がよわよわ敏感乳首にクラスチェンジしてしまう。主任の乳首がより感じやすく、よりえっちになるのはいっこうにかまわない。樹子自身の手によりそうなるのならむしろ大歓迎だ。が、目の届かないところで勝手に進化されては困る。
 駄目だ。
 樹子は週末の主任を思い出した。頬を上気させ切なげに眉根を寄せて潤んだ目で樹子を縋るように見つめ喘ぎをこらえる。ちょうど今のように。
 かわいいだけじゃない。えっちだ。
 色気むんむんのままで放置したらどうなるか。きっとたいへんなことになる。
 大きく分厚くごつい体型は威圧感があるが、人あたりはよいしはるか彼方の外宇宙からやってきたスーパーなヒーローを昆布のお出汁であっさり仕上げた感のある顔立ちは美しい。社内いちばんのモテ男ではないかもしれないがもともと人気が高いと聞く。課内の派遣社員反木と横道も

――ありかなしかでいったら、あり寄りのありだよね。
――めっちゃありってことお? 実際、悪くないよねえ。

 などと広居主任を評していた。
 女だけではない。雄くさい美巨漢がとろ顔を晒していたら男だってたかるに決まっている。かわいいから。
 駄目だ。絶対に、駄目だ。
 こんなにえっちでかわいい主任を衆人の――自分以外の誰かの目に晒すわけにいかない。
 駅に到着するたびに電車の混雑がひどくなっていく。人に押されて壁に突いていた広居主任の腕がずれた。支えが掌から肘になり太い腕にかけられたジャケットが車内の灯りを遮り影をつくり、目の前に分厚い胸板が迫る。抱かれているみたいだ。
 額に溜め息がかかる。顔を上げると、

「すまない、おお、じ……」

 唇を囁きがくすぐった。
 あと、少し。ほんの少しで唇が触れる。
 がたた、ん。
 揺れとともに電車が減速しはじめた。
 乗り換え駅に着く。

「トイレに寄っていく。先に行ってくれ」
「だいじょうぶですか」
「問題ない」

 苦笑いする広居主任の後ろ姿を見送って樹子はほんの少しの間、考えた。
 待たずに先に行こう。
 急ぎ足の人々の流れに乗り、つかつかと前のめりで地下鉄の駅へ向かう。

――私のせいだ。

 久々の行為ではしゃぎ過ぎたせいで広居主任の乳首がたいへんなことになっている。目に見える傷はなかったはずだが、腫れてしまっているのは確かだ。主任の乳首は未踏のフロンティアだった。いじり過ぎで腫れたときの対策も知らないはずだ。そうでなければあんなに無防備にぽっちりさせているわけがない。

――なんとかしなきゃ。

 違和感を少しでも抑えるために絆創膏と軟膏を買いに行こう。
 樹子は腕時計の文字盤に視線を落とした。
 会社最寄り駅近くのドラッグストア。その開店時刻。始業までの残り時間。だいじょうぶだ、いける。寄り道しても間に合う。

「大路さんっ」

 とたたたた。
 後ろから足音が近づいてくる。呼ばれて振り返ると

「やっぱり大路さんだ。おはよう」

 ふわふわと弾む栗色の髪。細い金縁眼鏡の奥の色素薄めのぱっちりとした目。小柄で華奢な体を明るいベージュのチェックのスーツで包み色白の頬を上気させた天使が小走りに駆け寄ってきた。ごく普通の、くるぶしが隠れる丈のはずなのに半ズボンを幻視してしまう。

「河合さん、おはようございます」
「追いついた。えへへ」

 後光が射している。まぶしい。清らかな笑みがまぶしい。エンジェルは今日もエンジェルだった。

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