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がつ子、はしゃぎ過ぎの代償を払う
13.
しおりを挟む電話は三コール以内に受けること。
「出ます――」
樹子は片手を挙げ受話器を取った。
課にかかってきた電話応対をし、首を伸ばして隣の島をちらりと視界におさめつつスケジューラで営業担当の現在地と次の予定を確かめながら用件をメモにとり復唱する。電話を終えてくだんの担当者が不在なら外出先で連絡を受け取れるよう社内システム経由でメールを送り、在席あるいは本来在席してしかるべきスケジュールであれば当人の席へメモを持っていく。
毎日のように繰り返せば、作業を中断して電話をとるのにも慣れてくる。
樹子はメモを手にすっく、と立ち上がるとつかつかつか、営業の島へ行きメモを和田の机に置いた。びしぃ、と少々荒い音を立ててしまうのも仕方ない。毎週月曜に出張を入れ火曜に何とか出てくるものの、まめに通い詰めるわりにさして成績が伸びているとも聞かない。そして今日は午後から在席の予定となっているにもかかわらず席にいない。管理部から戻ってきた書類が山と化しているというのに、どこをほっつき歩いているというのか。
「おおおゥい」
くたびれマッチョ三角課長がちょいちょいと樹子を手招きした。広居主任もいる。会釈をすると小さく頷き返された。
ふたりで呼ばれるなんて、どんな用だろう。
隣に立つ巨漢を見上げる。ここしばらくで急速に見慣れつつある美顔面にほんの少し硬い表情が浮かんでいる。
「やや、そんなね、改まった用でもないわけェ。――大路さんよ、どォ? 仕事、慣れたァ?」
「はい。ひとりで何もかもとはまいりませんが、以前ほど戸惑うこともなくなってきました」
「いいねェ。――ほら、広居。だいじょうぶそうだろォ? 心配することないってェ」
「しかし、まだ――」
「んん、気持ちは分かる。分かるよォ。でもほら、そろそろ、なァ? 広居も外行ってもらわんと」
三角課長のいう「外行ってもらわんと」の「外」は日帰り圏外の出張を指す。課長としては本来、新人の教育担当は課内の誰でもよかったのだが社長直々に「頼む」と預けられた以上、粗相があってはならないと課のエースに任せることにしたという。
「でもほら、エースにもがんばってもらわないとさァ、キツいわけうちの課としても」
「確かに大路の仕事の飲み込みは早いと思います。しかし――」
「んんん」
くたびれマッチョが主任の言葉を遮った。
「教育担当を降りろとはいってないわけェ。大路さんの飲み込みのよさもあるけどさ、やっぱり広居に頼んでよかったとオレは思ってるのなァ。でも以前どおりね、出張にも行ってもらいたい」
「あの」
樹子は思い切って割って入った。
「私、やってみます。だいじょうぶかどうかも、やってみなければ分からないところ、ありますし」
「ほら、なァ? 本人もこういってるんだしさァ。フォローされる立場から事務として広居をフォローする方向によォ、すぐでなくていいけどもそろそろシフトしてほしいんだよねェ。広居の心配も分からんではないがここはひとつゥ」
「分かりました」
硬い表情のまま、広居主任は頷いた。
「だいじょうぶか」
「やってみます」
「これまでどおり報告はしてくれ」
「はい」
短く言葉を交わし、それぞれ席に戻る。
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