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がつ子、隘路を逆走する
2.
しおりを挟む「気持ちいい、ですか?」
「ん。きもち、い……」
蕩けかけた目の広居主任と目が合った。慌てて視線を逸らすはにかんだ表情にぐっとくるが目が合ったということはこちらの欲情した顔も見られたということだ。恥ずかしくなって樹子もサイドチェストの上の時計に視線を移すふりをして目を逸らした。
「時間がありませんね」
「ん。そうなんだが――」
抱き寄せられた。
ぐりり。
衣服越しに殺意高めのブツが押しつけられる。
「主任、そろそろ」
「分かってる、んだが――」
「我慢するとそのぶん気持ちよくなるって、聞いたことあります」
シャツからのぞく首の付け根に唇を寄せると
「ぐ」
小さな呻き声が聞こえてきた。下着なしで肌に直接まとうリネンのワンピースがくしゃ、と掴まれる。たくし上げる途中で手を止めたようだ。主任の指の熱さが伝わってくる。
「翻弄されてるみたいで、なんだか――」
「昨夜あんなに、私のこと」
首すじに唇を這わせながら樹子は囁いた。
「好きに、なさったくせに」
「たしかに」
笑い合い抱き合う。しばらくのち、名残惜しく体を離し、主任は身支度を再開した。
ネクタイを渡したり、スーツの上着を後ろからはおらせたり、持ちものの確認をしたり、樹子はこまこまと手伝った。たいしてスピードアップにならないと分かっている。少しでも長く傍にいたかった。
「金曜は締日だな。――だいじょうぶか」
身支度を整えた広居主任が樹子を抱き寄せた。大きな手が髪を撫でる。樹子も上着の中へ腕を差し込んだ。シャツに皺ができないようそっと背中から腰へと手を這わせる。男の体は堅い。堅いといっても金属と違って弾力がある。生命力の漲る背中から腰の曲線が雄々しく美しい。
「手伝えなくて申し訳ない」
「だいじょうぶです」
片手を前にもどし下腹にあたる異物を撫でた。ぎちぎちと苦しげにふくらんでいる。
「ここ、いらいらしてます?」
「してない。でも撫でないで、くれ。おさまらなくなる……」
微かに喘ぎの気配のする吐息が耳を擽る。
ぎゅう。
腕がきつく体にまわり
「た、つこ」
名を呼ばれた。
「今、何て……」
驚きに目を見開き問い返そうとおののいた唇が熱くやわらかいものに包まれる。
「ん、っ、しゅに、……ふ、ぁ」
反駁を許さない口づけに蕩ける。強く抱き合って互いの欲情の徴を擦りつけ合う。
「そろそろ――」
「いってらっしゃい。お気をつけて」
「ん。いってくる」
離れていく大きな体を引き留めそうになった手を、樹子は下ろした。
――名前を呼ばれた。今まで、呼ばれたことなどなかったのに。
カーテンの隙間から梅雨どきの重く沈んだ朝日がほのかに射す。広居主任のいなくなった部屋はがらんと殺風景に見えた。
――おちんちんいらいらのまま行かせてしまった。
申し訳ない気持ちのまま浴室へ向かう。洗面所のドアを開けて樹子はがっくり肩を落とした。
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