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がつ子、隘路を逆走する
5.
「なんだ、サボりかよ」
「違います。確認が必要な書類があって」
「そうなんだ。じゃ、先にどうぞ」
「ありがとうございます」
メモを手にバインダーの背表紙に書かれた日付や管理番号を確かめながら目的のファイルを探した。好き放題に順番がしっちゃかめっちゃかにされているので手こずってしまう。「なんだよ、ちゃんと片づけてないのかよ。これだから新人は」と鼻で嗤った和田が抱えていた段ボール箱を降ろし、同じフロアの他課の棚をのぞきながら
「広居主任ってさー――」
のんびりと声をかけてきた。
「今日まで出張だよね。出社は週明けだっけ」
「はい」
背表紙ががたごと出たり引っ込んだりしているバインダーの列から目を離さず、樹子は最低限の返事のみをぼそっと口にする。
「ふうん」
和田が「一課でつくってるリーフレットじゃん、だっさー」とぶつぶつつぶやきながらよそのキャビネットの抽斗をがっしゃんがっしゃん開けたり閉めたりした。落ち着きがない。よその課に迷惑をかけられては困る。仕方なく樹子は提案した。
「その箱の中身、書類ですよね。置いといてくだされば片づけますよ」
「いいよ、いいよ。自分でやるし」
珍しいこともあるものだ。
樹子が入社する前、和田は営業三課で最も若い社員だった。目上だらけの環境でかわいがられていたそうだが、後輩の樹子や新たに入った派遣スタッフも先輩たちと同じく和田を大事にする、そしてなぜか奉仕するものだと考えている節がある。先日はコピー機のトナー交換をしろと呼びつけられた。こちとら忙しいんじゃ、自分でやれ。断ると「えっ、オレがやんの? 社長の親戚だとトナー交換しなくていいんだー」などとまるで自分が樹子から雑用を押しつけられているかのように騒ぐので始末に負えない。雑用が好きでないから。違う。おそらく、それだけではない。依頼。懇願。命令。くだらないと考える仕事を他人が自分のいうとおりにする姿を見て和田は満足しているのだ。その仕事がくだらなければくだらないほど、満足度が上がる。上司や先輩社員からすればちょっと手のかかる後輩というだけだが、おもに雑用を押しつけられる側である樹子をはじめとする事務方はたまったものではない。
――エスカレートすると、困るな。
うっすらと、どこで歯止めをかけたものか、どう対策を練るか、誰にどう相談を持ちかけるのがいいか、考えはじめていたところだった。
雑用と和田といえばそのくらい手に負えない。それなのに「自分でやる」とはどういう風の吹き回しか。
――雑用を断らずにすむのは助かるな。
気が楽になる。が、「やっぱり頼むわー」などと掌を返されても困る。三十六計逃げるに如かず。樹子は目当てのバインダーを見つけようとごちゃついたキャビネットの中を猛然と探りはじめた。
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