甘責めがつ子の惑溺愛へのナローパス

uca

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がつ子、隘路を逆走する

10.

 裏帳簿――。
 営業三課に配属されてしばらくのころ、りりちゃん先輩が落とした付箋を拾ったことがあった。

――******、URA。

 和田があちらこちらと場所を移していた箱の中にあったバインダーの番号と似ている。URAは何かの略称か、ファイル管理のためのコードかとそのときは思ったが単に裏帳簿のURAだったというわけか。

「そろそろ内偵もおしまいなんだけど、表沙汰になるまでもうちょっとかかるから内々に、ってことで」
「分かりました」

 曇りの晴れた眼鏡のレンズ越しにりりちゃん先輩がひた、と視線を向けてくる。

「実は大路さんもね、対象だったの」
「わた、し、――ですか?」
「そ」
「まさか、小口現金の管理に問題が――」

 ぶは、とりりちゃん先輩が笑った。ふたたび湯気で眼鏡が曇る。

「そっちはだいじょうぶ。――大路さんって、調査対象のいる三課にコネで入ってきたでしょ? 例の件、あたりをつけた感じでは少額の不正だったけど、あの子ったら大路さんにやたら馴れ馴れしいし、上層部がらみの可能性もあるかもって急遽ね、裏をとることになったの」
「いやその、就活全敗で困っていたところを拾っていただいただけで――」

 純然たるコネ入社です、といいそうになって樹子は口を噤んだ。弱みがあるから怪しまれるわけだ。

――内偵、ねえ。おじさん、知ってる?
――いや。ただ――わたしが知らないからないとはいいきれない。

 ランチをご馳走になったときに、社長と次期社長候補が話していた。
 迷惑をかけてはいけない。分かっていたのに。体中の血液がす、と冷めたような気がした。

「大路さんのほうは問題なしってことに一応、なったから」
「いちおう」
「すぐ、ってわけにはいかなかったけどね。今回の調査には関係ないから報告上げてないけど、広居くんとのこともあるし」
「…………」

 樹子はカップを取り落としそうになった。

「あの、その、すみません」
「悪いなって思ったけど、こそこそされると調べなきゃだから」

 りりちゃん先輩が苦い笑みを浮かべる。

「――っていってもタイミングがタイミングだったってだけで、うちの会社、恋愛NGじゃないよ。知ってると思うけど」
「はい」

 知っている。りりちゃん先輩も社内恋愛を実らせて結婚し、今では二児の母だ。
 少し、――いや、かなり羨ましい。樹子には望みようがないから。
 りりちゃん先輩が樹子の苦い表情に気づかずくすくす笑った。

「大路さんはともかく、広居くんったら目で追ってるものね。ふたりとも仕事とプライベート、ちゃんと分けてるみたいだし、問題ないでしょ」
「あのその、――できれば、りりちゃん先輩の胸にしまっておいていただけると、助かります」
「もとよりそのつもりだけど――」

 気遣わしげにりりちゃん先輩が樹子の顔をのぞき込む。

「だいじょうぶ?」
「はい。――あの、そろそろ」
「そうね。今日、締めだもんね」
「ごちそうさまでした」
 ふたりは席を立った。

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