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がつ子、隘路を逆走する
15.
ゆさゆさと揺さぶる動きにつれて熱い塊が最奥をノックする。
「そこ、だめ、ぇ……っ」
「どうし、て?」
「きもちよ、く、なっちゃう、からあ、っああ」
「た、つこ……っ」
仕事用の服を着たまま快楽に流される背徳感からか、名残を惜しむだけのつもりだったのに埋み火が掻き起こされたからか、
「あ、――っあああ、しゅに、んっ」
瞬く間に樹子はのぼりつめた。
まだ射精に至らないらしい主任が切なげに溜め息をつき樹子を抱き締めて下から突き上げる。
「しゅに、ん、私もう、行かな、きゃ」
「駄目だ」
「や、やだ、ああ、ぁあっ、ん、しゅ、に、んんっ」
「樹子」
動きを緩め、広居主任が耳もとで囁いた。
「主任、主任って、――俺が昇進した後もその呼びかたのままか?」
秘所は貫かれたまま、樹子は少しだけ体を離した。涙に濡れた目を瞠る。
「昇進の、話が――?」
「残念だが今のところは、まだ。でも、――俺がいいたいこと、分かるだろ?」
「……っ」
名前だ。
樹子は言葉を呑んだ。
「もしかして俺の名前、知らない?」
「もちろん、存じております」
「じゃあ、名前を――俺を呼んでくれ、樹子」
「しゅに、――」
呼びたい。でも、できない。呼べない。
未練は残っている。これから先ずっと、ずっと残る。傷つきもしている。それでも今のままなら、痕は残っても傷はきっと――いつか――癒えるだろう。でも名を呼んでしまえば、後戻りできない。
――あのとき名前を呼ぶんじゃなかった。
間違いなく瘡蓋を何度も剥がし膿んだ傷を広げ血を流し醜く後悔しつづける。
名を呼べ、なんて。
なぜ、今になってそんなことを……。
涙で潤む視界は、梅雨晴れの日差しでハレーションを起こしたかのように明るい。
ふ。
広居主任がさびしげに笑い、目を逸らした。
「俺じゃ、駄目か」
「だめ、って――」
「やっぱり、こんなデカくてかわいげのない男じゃ、好きになれないか」
「そんな、しゅに、――」
体は熱に浮かされたまま、悲しみと諦めに心が急速に冷めていく。体の奥深くで、快楽とは違う火が点る。
「ひどいです」
「た、つ――」
「私なんてちはるさんってかたが戻ってくるまでの繋ぎってだけですよね」
「ちはるとはきみと出会う前に別れた。誰がそんなことを――」
広居主任が目を白黒させている。
「あなたです、主任」
「俺が? まさか――」
「――駄目だよちはる、って最初の朝、おっしゃいました」
怒りと憤りがどれだけ体の奥で滾っても、捌け口が見つからない。目の前のこの人が好きだ。この期に及んでまだこんなにも好きだ。
言葉を失ったまま唇を噛んで涙をこらえていると
ぴん、ぽーん。
ドアチャイムが鳴った。
「…………」
狼狽え、混乱する裸の上司と見つめ合う。さして間を置かず
ぴんぽん、ぴんぽーん。
ふたたびドアチャイムが鳴る。
ぬ、ぽ……。
喘ぎをこらえ腰を上げると、大きなものが体内から脱けていった。
「出ます」
「や、その、……」
樹子は上司の股間を見下ろした。濡れた避妊具がぴっちり貼りついた肉棒は勃起したままだ。
「そちら、なんとかしたほうがいいです。あと、早く服着てください」
「たつ、こ、待っ……」
手早く服を直し、樹子はひとり寝室を出た。拳を握り手の甲で涙を払う。背筋を伸ばす。
ぴんぽん。ぴんぽーん。
三度ドアチャイムが鳴った。宅配便だろうか。
「はい――」
解錠し、ドアを開ける。
女がいた。目鼻立ちの整った美しい顔に淡く控えめな化粧。白のボウブラウスに紺色のフレアスカート。楚々としているが、時代がかってひと昔ふた昔前のいいところのお嬢さんのようにも見える。四年前と変わらない。
童貞スレイヤーとして母校で名高かったゲートウェイ先輩、門出千春が驚きに目を丸くして立っていた。
「そこ、だめ、ぇ……っ」
「どうし、て?」
「きもちよ、く、なっちゃう、からあ、っああ」
「た、つこ……っ」
仕事用の服を着たまま快楽に流される背徳感からか、名残を惜しむだけのつもりだったのに埋み火が掻き起こされたからか、
「あ、――っあああ、しゅに、んっ」
瞬く間に樹子はのぼりつめた。
まだ射精に至らないらしい主任が切なげに溜め息をつき樹子を抱き締めて下から突き上げる。
「しゅに、ん、私もう、行かな、きゃ」
「駄目だ」
「や、やだ、ああ、ぁあっ、ん、しゅ、に、んんっ」
「樹子」
動きを緩め、広居主任が耳もとで囁いた。
「主任、主任って、――俺が昇進した後もその呼びかたのままか?」
秘所は貫かれたまま、樹子は少しだけ体を離した。涙に濡れた目を瞠る。
「昇進の、話が――?」
「残念だが今のところは、まだ。でも、――俺がいいたいこと、分かるだろ?」
「……っ」
名前だ。
樹子は言葉を呑んだ。
「もしかして俺の名前、知らない?」
「もちろん、存じております」
「じゃあ、名前を――俺を呼んでくれ、樹子」
「しゅに、――」
呼びたい。でも、できない。呼べない。
未練は残っている。これから先ずっと、ずっと残る。傷つきもしている。それでも今のままなら、痕は残っても傷はきっと――いつか――癒えるだろう。でも名を呼んでしまえば、後戻りできない。
――あのとき名前を呼ぶんじゃなかった。
間違いなく瘡蓋を何度も剥がし膿んだ傷を広げ血を流し醜く後悔しつづける。
名を呼べ、なんて。
なぜ、今になってそんなことを……。
涙で潤む視界は、梅雨晴れの日差しでハレーションを起こしたかのように明るい。
ふ。
広居主任がさびしげに笑い、目を逸らした。
「俺じゃ、駄目か」
「だめ、って――」
「やっぱり、こんなデカくてかわいげのない男じゃ、好きになれないか」
「そんな、しゅに、――」
体は熱に浮かされたまま、悲しみと諦めに心が急速に冷めていく。体の奥深くで、快楽とは違う火が点る。
「ひどいです」
「た、つ――」
「私なんてちはるさんってかたが戻ってくるまでの繋ぎってだけですよね」
「ちはるとはきみと出会う前に別れた。誰がそんなことを――」
広居主任が目を白黒させている。
「あなたです、主任」
「俺が? まさか――」
「――駄目だよちはる、って最初の朝、おっしゃいました」
怒りと憤りがどれだけ体の奥で滾っても、捌け口が見つからない。目の前のこの人が好きだ。この期に及んでまだこんなにも好きだ。
言葉を失ったまま唇を噛んで涙をこらえていると
ぴん、ぽーん。
ドアチャイムが鳴った。
「…………」
狼狽え、混乱する裸の上司と見つめ合う。さして間を置かず
ぴんぽん、ぴんぽーん。
ふたたびドアチャイムが鳴る。
ぬ、ぽ……。
喘ぎをこらえ腰を上げると、大きなものが体内から脱けていった。
「出ます」
「や、その、……」
樹子は上司の股間を見下ろした。濡れた避妊具がぴっちり貼りついた肉棒は勃起したままだ。
「そちら、なんとかしたほうがいいです。あと、早く服着てください」
「たつ、こ、待っ……」
手早く服を直し、樹子はひとり寝室を出た。拳を握り手の甲で涙を払う。背筋を伸ばす。
ぴんぽん。ぴんぽーん。
三度ドアチャイムが鳴った。宅配便だろうか。
「はい――」
解錠し、ドアを開ける。
女がいた。目鼻立ちの整った美しい顔に淡く控えめな化粧。白のボウブラウスに紺色のフレアスカート。楚々としているが、時代がかってひと昔ふた昔前のいいところのお嬢さんのようにも見える。四年前と変わらない。
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