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がつ子、新しい季節の扉を開く
2.
そのとき
しゃ――。
どんより暗い空港の、人の気配も絶えただだっ広い駐車場の向こうの道路に雨水を跳ね散らかしながら車が一台、突っ込んできた。樹子が立つ空港出入口前にききき、と急停車する。
勢いよくドアが開き、
「大路!」
広居主任が出てきた。大きな体が瞬く間に雨に濡れる。
樹子は他に通る車も人影もない道へ走り出た。レンタカーの後ろからドアの開いた運転席側へとまわり
「主任……っ!」
大きな人の胸に飛び込む。
よかった。無事だった。
安堵で体から力が脱ける。雨に濡れた腕が樹子を強く、つよく抱き締めた。
「すまなかった――」
「もう、っ」
雨が降る。空が割れたかのように降る。涙で震える声をかき消さんばかりに、降る。
力の限り、樹子は声を振り絞った。拳を握り、目の前の分厚い胸板をたたく。
「心配、しました! 次やったら絶対、許さない、んだか、ら……っ!」
とにかく、許さない。次は、ない。
寝言。忘れもの。遅刻――。自分でも何に激昂しているか、分からなくなってきた。
「ごめん。ほんとうに、すまなかった」
「じゃあ、もう――」
恋しい人を見上げた。濡れたシャツを掴む。
「二度と私を、諦めないで。もう会わないなんて、いわないで」
「分かった、約束する。きみを二度と、諦めない。樹子――」
両腕で掌で、額で頬で、唇で、
「愛してる」
互いを貪る。
幾度も、幾度も口づけ合ううちいつしか、雨があがっていた。
空港前、無人の駐車場と道路は通り雨で水びたしになり鏡のようだ。切れぎれの雲の間から澄んだ薄藍の空がのぞき、金色の夕日に照らされている。
数日来の心労で窶れ気味で、そのうえ大雨で服がびしょ濡れになってしまっているけれど、やわらかく微笑むその人は美しい。はるか外宇宙からやってきた太陽エネルギーを力の源とする異星人で普段は気の弱い新聞記者、ひとたび地球が危機に陥れば立ち上がるスーパーなヒーローを演じた俳優を昆布のお出汁であっさりテイストに仕上げた感があって、美しい。
「利章さん」
「ん」
この人が、好き。男らしい見た目のわりにかわいくて、繊細なところもあって放っておけなくて、そんなところも好き。ずっと、好き。
「大好き」
樹子は笑った。
黄金色の光をまぶしく照り返す水面を風が渡る。
夏だ。
隘路を抜けるとそこに、新しい季節があった。
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