甘責めがつ子の惑溺愛へのナローパス

uca

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がつ子、新しい季節の扉を開く

3.


 雨がやんだ直後こそ鮮やかな光が美しかったが、じりじりと西日が照りつけすぐに気温が上がった。やたらに蒸し暑い。

「今さらだし、いいにくいんだが」

 樹子の腰に手を回したままの広居主任が思い切って、という風情で切り出した。

「あの屋根の下で待っていてくれればよかったのに。俺はともかく、きみまでびしょ濡れになる必要、あったか?」

 ぐぬぬぬ。樹子は渾身の力で主任の胸板をぐいぐい押し全身で離れたいと主張したがまるで相手にならなかった。放してもらえない。

「ないです……。ないですけど、心配したんですよ! どうして連絡くれなかったんですか!」
「さっき、送っただろう」
「いただいておりませんが?」

 送った。
 送らない。
 二度の応酬で「見るのが早い」となった。ひとまずバス乗り場のベンチから樹子は自分と主任の鞄を、広居主任はスーツケースをレンタカーに載せる。主任は車内に置いたジャケットから、樹子は鞄の中からそれぞれスマートフォンを取り出し、身を寄せ合った。

「う……」
「たくさん、連絡きてますね」
「まいったな」

 樹子を抱きかかえた片手でスマートフォンを握り、広居主任が困り顔で濡れて落ちてきた前髪を残った片手でかき上げた。
 こういうところだ。
 無駄に色っぽい。

「はあ」

 樹子は溜め息をついた。
 これからいろいろな意味で、だいじょうぶなんだろうか。心配事も増えそうだけど

――約束する。きみを二度と、諦めない。

 信じるほかない。約束させたのは自分だ。

「まだ――怒ってる、よな」
「そんなことないっていいたいところですが、まあ。――見てください」

 チャットツールのトークルーム画面を見せる。
 主任からのメッセージはW島へ向かう機内で受信した

〈これから空港に向かいます〉

 が最後だ。

「ん? おかしいな? あれっ? ……すまない」

 声が尻すぼみになる。主任の手にあるスマートフォンをのぞき込むと未送信のメッセージが残っていた。

「送信ボタンの押し忘れでしたか」

 よほど焦っていたのだろう。

「ほんとうに、すまない」
「――で、こちらに書かれているおばあさんはご無事だったんですか」
「だいじょうぶだと、引き継いだ救急の人がいっていた」
「よかったですね」
「ん」

 広居主任が頷いた。口角がほんの少し上がった照れ顔がかわいい。
 が、見蕩れている場合ではない。

「当座やらないといけないことを整理しよう」
「まず、会社に報告です」
「だな。きみの宿の確保も」
「手分けしましょう」
「定宿にしているビジネスホテルがある。俺が手配したほうが話の通りがよさそうだ。部屋と、あと服のクリーニングの手配も必要だな」
「では、そちらお願いします。課長への報告は――」
「先に連絡を入れておいてくれ。手配が終わり次第、俺からも電話する」
「了解です」

 それぞれに電話をかける。腕を解き、互いに背を向けてはいるが体は離れがたく寄り添ったままだ。
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