甘責めがつ子の惑溺愛へのナローパス

uca

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がつ子、新しい季節の扉を開く

9.

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     *     *     *

 七年後――。

 初夏だ。
 梅雨直前のこの季節、晴れると空からぎんぎんと日の光が射す。夏はこんなもんじゃすまないぞといわんばかりの苛烈な日差しで盛夏の予習をさせられているかのようだ。
 会議、外出、打ち合わせ。
 季節の変化に目を留める暇もない。樹子は社屋の廊下をかつかつと前のめりに急いでいる。

――あれとこれとこれと、それから……。

 タスクのあれやこれやを思い浮かべ優先順位を整理する。
 忙しい。


 営業三課の事務担当の女性社員が書類を抱え歩いてくるのが見えた。すれ違うとき
 かつ、ん。
 女性社員がファイルといっしょに携えていたペンが落ちた。咄嗟に腰をかがめ拾う。目の前に見慣れた大きな手が差し出された。

「どうも」

 力強い掌に片手を委ね樹子は立ち上がった。拾ったペンをはい、と持ち主へ差し出す。

「あ、りがとうございます、広居主任……」

 ぽ、と頬を赤らめお辞儀をする女性社員を見送り、樹子は利章を見上げた。

「国内営業部にご用ですか」

 はるか外宇宙からやってきた太陽エネルギーを力の源とする異星人で普段は気の弱い新聞記者、ひとたび地球が危機に陥れば立ち上がるスーパーなヒーローを演じたマッチョ俳優を昆布のお出汁であっさりテイストにした感のある雄くさい美ゴリラ。三十代を半ば過ぎた今も変わらない。
 むしろ以前より美しいと樹子は思う。
 営業から経営企画部へ異動となり数年。畑違いの予算策定や業績評価の仕事に初めのうち苦労はあったが充実が表情に表れている。

「きみに用があってね、広居主任。ランチ、いっしょにどう?」
「いいですね。――って、その呼びかた」
「懐かしくて。きみにそう呼ばれていたころがあったな、って」
「ありましたね」

 並んで歩き出し、ふたりは笑い合った。
 よく晴れていても蒸す。季節がめぐり、今年も梅雨の気配が濃くなってきた。



(了)
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