暴走赤ずきんちゃん、狼の手に堕ちる

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〈一〉

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 どいつもこいつも分かってない。まるで分かっていない。生体魔導機械ニョルンは膠着こうちゃくする戦況を打開する一手となり得るというのに。
 今に見てろ! ニョルンくんの絶大な効果を見てあとで吠え面かくなよ。
 かわいくもあざとく分厚い化粧に露出度がやたらに高くスカート丈の短いエプロンドレス、赤いフード付きのケープをまとい籠を携えた赤ずきんちゃんコスの女、ウルラトゥス国トーロデア砦裏の通用門で待機列に加わったシーラ・アーヴィンの鼻息は荒い。

 シーラ・アーヴィンはウルラトゥス国と長年にわたり対立関係にあるアワグイラ国の人間だ。神童の誉れ高く学業成績優秀、軍の魔導機械研究所に入ってからも鬼才と呼ばれていたシーラだが、現在は謹慎処分を受けている。血を吐くような努力の末にやっとのことで開発した生体魔導機械ニョルンに倫理的な問題があると上層部に非難されたのだ。
 嘆かわしい。
 激化する魔法戦争に一石を投じるどころか、ニョルンくんは魔法戦術に変革をもたらすエポックメイキングな発明なのだ。上層部の連中はまるで分かってない。

 だから、シーラはニョルンくんの有用性を実地で証明することにした。謹慎中の宿舎から脱け出し敵国へ乗り込んだ今日のシーラは娼婦である。大枚をはたき蔓薔薇館という娼館の女将の手ほどきでにわか娼婦となった。どうして赤ずきんちゃんコスなのか、コスプレして検問列に並んでいる今も腑に落ちないが蔓薔薇館の女将がこれで行けというからこれでいいのだろう。とにもかくにも敵国の砦に潜入し、一騎当千、魔狼と恐れられる魔法騎士ルシアン・ハームズワースをニョルンくんで戦闘不能にしてやるのだ。ニョルンくんはできる子。ニョルンくん、最高。

 慰安事業団の娼婦たちとともに列を作り並んでいると検問の順番が回ってきた。

「手荷物をあらためる」
「どうぞ」

 精いっぱい色っぽくしなをつくり、シーラは籠を差し出した。赤ずきんちゃんといえば、籠。おばあちゃんへのお見舞いの品をつめた籠である。

「中身は?」
「口紅、白粉、それとこちらは――」

 ボトルを取り出す。きゅ、とキャップを外しシーラは細い指を一本、ボトルにひたした。

「ちょっとした潤滑剤ですの」

 引き抜いた指に
 ぬろ……。
 粘液がまとわりつく。

「き、危険物ではあるまいな?」
「まさか」

 シーラは粘液にまみれた指を
 ちゅ、ぽ。
 しゃぶって見せた。

「安全です」
「……」

 とろとろの粘液であらぬところをぬるぬるにされるのを想像したのか、検問の兵士がごくんと喉を鳴らす。

「素敵でしょ?」
「おお……」

 難なく検問を通過したシーラが娼婦たちの一団に加わろうとすると

「蔓薔薇館から来た新しい娼婦というのは――きみか」

 大きな男がやってきた。身長だけではない。肩幅が広くがっしりしていて魔法など使わなくてもじゅうぶんに強そうに見えた。そのうえ金色の髪に明るい青い目をしていて顔立ちも整っている。まわりの娼婦たちの間に歓声混じりの溜め息が広がった。その強そうで上等そうな男――ウルラトゥス国の英雄がシーラの前に立っている。

「ヴォルフ隊隊長ルシアン・ハームズワースだ」
「シーラ・アーヴィンです」

 つい差し出された手を握り、ほいほいと本名を名乗ってしまったが

――いけない、潜入中だった。

 気づいても後の祭りである。

「そそそ、そういう名前でやってるんです、ええ」
「やってるって――赤ずきんちゃんを」
「そうです、赤ずきんちゃんの名前です」
「では行こうか、赤ずきんちゃん」

 ルシアン・ハームズワースが肘を差し出した。

「はい、ハームズワース隊長」

 にっこり微笑み腕を通す。
 よし、潜入成功。ニョルンくんでこの大男をめっちょめちょにしてやる。


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