暴走赤ずきんちゃん、狼の手に堕ちる

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〈二〉

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 礼儀正しい敵国将校に連れられて入った部屋は私室とおぼしき場所だった。本棚とベッドとクローゼット。少々殺風景だがくつろげそうな雰囲気だ。

「この本、読みました! おもしろいですよね! わくわくするっていうか、はらはらするっていうか――ああっ、最新巻だ! いいなあ」

 大陸中で大人気の「晦冥かいめいより出でる」シリーズだ。シーラの母国アワグイラでは戦況の悪化もあって刊行が遅れている。本棚に駆け寄り見入るシーラの後ろでぷ、とルシアン・ハームズワースが噴き出した。

「赤ずきんちゃんが怪奇冒険小説を好むとは」
「おかしいですかっ? 赤ずきんちゃんだって本くらい読みますっ」
「何か飲むか?」

 ははは、と明るく笑い部屋の外へ飲みものを取りに行こうとする大男の袖を

「しましょう」

 シーラは引いた。

「今すぐ?」
「ええ、今すぐ」

 やる気満々に拳をきゅ、と握るシーラにハームズワースは困ったように微笑んだ。



 やろう、と持ちかけたものの何をすればいいのか、シーラには分からない。
 寝室でハームズワースとふたり、ぬぼんと立ち尽くしている。学校の成績はとてもよかったので性教育もひととおり受けていてめしべとおしべのたとえを持ち出すまでもなく知識としては知っているが、娼婦が何をするのかは学校で習わない。

「前任の赤ずきんちゃんから引き継ぎを受けていないのか?」
「蔓薔薇館は娼館であって軍隊ではないので……」

 大金を掴ませたにもかかわらず、衣装の用意や砦潜入の手配をしてくれただけで蔓薔薇館の女将は娼婦業務について

――行けば分かりますって。赤ずきんちゃんプレイっていっても男と女ですからね、やることはさして変わりやしませんよ。

 教えてくれなかった。その「男と女でやることはさして変わらない」の具体的な中身が問題なんである。
 シーラには性体験がない。
 孤児で家族の支えがなく結婚をせっつかれることのない気楽さと引き換えにシーラは自身の人生を自力で切り拓かなければならなかった。恋愛などする暇もなく勉学に励み、学校を卒業してからは研究所で研究に没頭し老後のためにひたすら蓄財した。

――貯金、ニョルンくんを自費で製造したり砦潜入に使ったりですっからかんだけど……。

 しかし、しかしである。ニョルンくんでどーんと名を上げればこれまでこつこつ貯めた金を上回る報賞金や昇格による昇給で安泰どころかうはうはの老後を過ごせるはずなんである。

「ま、まずは服を脱ぎましょう、ハームズワース隊長」
「ん」

 ハームズワースはさあ来い、と両腕を広げた。

「……」

 脱がせろ、と。しかたなくボタンを外し、ジャケットを脱がせる。

「ルシアンだ」
「はい?」
「名前を呼んでくれ」
「る、――ルシ、アン?」
「それでいい」

 シーラが武骨な軍服のボタンにもたもた悪戦苦闘しているうちにルシアンは片手で赤ずきんちゃんの赤ずきんたる所以ゆえんの赤いケープの紐を解く。手早い。赤ずきんちゃんプレイに慣れっこの手つきだ。

 引き継ぎを受けていないというと、少しの間考えあぐねたていだったルシアンが前任の赤ずきんちゃんとのプレイにについて教えてくれた。どうやら赤ずきんちゃんに扮した娼婦が狼役のルシアンにえっちないたずらをするというものらしい。顔がいいし態度は紳士的だが変態だ、こいつ。なるほど、蔓薔薇館の女将がプレイについて教えてくれないわけだ。知っていても口にするのがはばかられたのだろう。

 続いてシャツのボタンを外す。シーラが手を伸ばすとルシアンが届くようにと背を曲げた。顔が近づく。

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