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大馬鹿者のあなたへ
しおりを挟む私の価値は25億円になった。
世界で最も精密に作られ、人間と同様の思考回路を組み込むことに成功したドール。
人間より優れたIQを持つ上に、食事もできるし、運動もできる。
人々が美しいと感じるように無駄に凝った顔の造形は、私は好きになれないけれど。
たくさんの科学者と富豪が私を求めた。
だけど、25億円も出してまで欲しいなんて思うバカはあの人だけだった。
世界一の大馬鹿者、って私はことあるごとに言ったけど、その度にあの人は少し照れて、メガネをいじりながら嬉しそうに笑った。
私はドールだから、なんだってできるのに、あなたは一緒にお話をするとか、ご飯を食べるとか、そんな何気ない日々で私と生きることを求めた。
2つの大国の間で、紛争が起きた。
すると、沢山の権力者達が私を求めた。
戦争の道具に私を利用しようとした。
あの人は私を守ろうとした。
外に出るのは得意じゃないのに、私を遠くの地下シェルターに隠して、愛してるなんて言葉を残して、一人で行ってしまった。
戦争は1年続いた。
ある時、平和協定が結ばれ、平和になった。
私は地下シェルターから出てきた。
あの人との別荘に戻った。
あの人は帰って来なかった。
1週間、1ヶ月、1年…。
何度も町に降りて人に尋ねた。
あの人のことを知っていないか、と。
持ち主がいなくなった。
そんな噂が立ち始め、また多くの人が私を求めた。
三日月型の笑顔の奥に黒くよどんだ瞳が見えた。
私は思考回路を無理矢理破壊した。
残したのは、目と足の機能とあの人との記憶だけ。
人々は役立たずの私に興味を失った。
それで良かった。
あの人の家に戻った。
あの人が手入れしていた庭は、草と花が生え放題になっていたけれど、葉が光を反射して綺麗だった。
やがて足も上手く動かなくなった。
庭の地面に座って過ごした。
次第に蔦が私の身体に巻きつき、はじめは毎朝肩にとまっていた小鳥も来なくなった。
あなたがいない世界はこんなにも虚しい。
私は目を閉じた。
***
「遅くなってごめん、ミア」
目を開いたら、少しシワの増えたあなたが居た。
目尻のシワが涙で濡れてる。
相変わらず、泣き虫だなあ。
「直すのにまた25億円使っちゃった。前よりも貧乏暮らしになるけど……ごめん」
申し訳なさそうに眉毛を下げて、赤い目を擦るあなた。
私はあなたに優しくキスをする。
「ばーか」
世界一の大馬鹿者だね、エド。
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