我慢を止めた男の話

DAIMON

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第七話『仕事、仕事』

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「じゃあ、俺達はこれで」

「あ、ああ、ご苦労さん。報酬はギルドに預けてあるから、そっちで受け取ってくれ……」

 お仕事終了――鍛冶屋の倉庫整理、報酬金貨3枚也。

「二人とも、行くぞ」

「は、はい……!」
「承知……!」

 カサンドラとゴードンが何故か引き攣った顔で答える。

 まあ、原因は分かってる。
 俺の怪力を目の当たりにしたからだ。

 倉庫整理の仕事は、鉱石やら石炭やら壊れた金属製品やら、そういう重い物が詰まった木箱を持ち上げて運ぶところから始まる。
 当然、金属などが詰まった箱は重い。
 一箱運ぶのも数人掛かりになる、この世界にフォークリフトなんて無いからな。

 だが、今の俺にはフォークリフトに勝るとも劣らないこのチートボディがある。
 鉱石が詰まっていようが、石炭が詰まっていようが、空のダンボールも同然よ!

 まあ、ゴードンとカサンドラは一箱運ぶのにもかなり苦労していた様だが。
 しかし、運べなかった訳ではない。
 マッチョのゴードンはともかく、カサンドラでさえ持ち上げて運べていたのは正直驚いた。

 なんでも、2人とも【身体強化魔法】を使っていたそうだ。

「じ、ジロウ殿は、使っていないのか!?」

「さあ?使った覚えはないが」

「なんと……!?」

 強化魔法無しでの常人離れした怪力に、ゴードンは絶句していた。
 転生する時に神様が言っていたが、俺も使おうと思えば魔法が使えるはずだ。
 今度、試してみようか。

 さておき、ギルドに戻って依頼達成の報告だ――。

「も、もう終わらせてきたんですか!?」

 受付で驚かれた。
 ちゃんと依頼主の証明もあるんだから、報酬はきっちり貰う。

「これ、依頼者のサイン入り完了証書」

「は、はい、確かに……」

 受付嬢は、驚きつつも証書のサインを確認して報酬を渡してきた。
 確かに、金色の硬貨が3枚――よし。

「こちら報酬になります。どうぞ」

「どうも」

 受け取って、すぐに次の依頼を物色だ。
 まだ日暮れまでには時間があるからな。

「さて、報酬の良い依頼は~っと……2人も探せよ。とりあえず内容より報酬額だ」

「しょ、承知……」
「は、はい……」

 いつまで顔を引き攣らせてんだ、こいつら……。
 いや、まあ当然か。
 あり得ないものを見た時の人間の反応は、こういうものかも知れない。

 さておき、依頼だ――報酬優先だが、出来れば色んな種類の依頼を試してみたいな。

「ジロウ殿、これなどどうだろうか?」

 お、ゴードンが何か見つけたみたいだ。

「どれどれ」

 ゴードンが指差す先の依頼書――

『クレセントベアーの討伐:報酬一頭当たり金貨1枚』

 ふむ、数を揃えられたら悪くないな。
 しかし、今から森に入って、狩って、熊を運んで帰ってくるとなると、ちょっと遅くなるかも……。

 えーと、期日は……3日後か。
 なら受けておけば、明日、朝から探すって手もあるな。

「クレセントベアーって、強いのか?」

「そこらの山林に生息する珍しくもない魔物だ。よほど特殊な個体でもなければ、戦闘能力はそれなり、というところだ。私やカサンドラ様は勿論、一兵卒でも然程苦もなく撃退できる。間違いなくジロウ殿の敵ではない」

 ほうほう、それで一頭金貨1枚なら悪くないな。

「ん?」

 依頼書の端に何か書いてある。
 やけに小さい字だな……何々?

『ただし、毛皮や肉の状態により報酬は変動する可能性あり』

 このっ、狡っからい真似を……!
 この金貨1枚っていうのは、よっぽど状態が良い場合に限った額か!
 て事は10中8・9一頭当たり金貨1枚未満になるな。
 下手すりゃあ難癖つけられて買い叩かれる事もあり得る。
 なら数で補うか、何とか質を保って倒すしかないか。
 多少面倒だが、まあいい、金が要るんだ。

「よし、これ受けるぞ」

「承知」

 依頼書を掲示板から剥がす。

「あの、ジロウさん……こんな依頼もありましたが、どうでしょう?」

「どれ?」

 カサンドラが指差した依頼――

『城壁補修作業:報酬銀貨8枚』

 ふ~む、所謂土木作業だな。
 日が暮れるまでの作業になるのか。

 今から夕方までで銀貨8枚、日本円で考えると……大体5時間前後で8000円……時給1600円の日雇いバイトって感じか、まあ悪くないな。

「よし、これも受ける」

「はい!」

「ジロウ殿、ではクレセントベアーは明日か?」

「そうする」

「承知した」

 よし、依頼は決まった。
 受付に行って手続きだ。

「この依頼受けます。手続きお願いします」

「はい、承ります」

 特に悶着もなく手続きは完了――早速、土木作業に向かう。

 場所は城壁の東側、ギルドを出て通りを東に向かって歩けばいい。
 着いてみると、既に何人もの男達が石材や木材を運び、壁に組まれた足場に乗って作業をしていた。

 さて、俺達は何をするのかな?
 とりあえず、周りに指示を出している髭のオッサンに声をかける。

「すいません、冒険者ギルドで依頼を受けて来ました。俺達はどこで何をすればいいですか?」

「おお、追加人員か!ありがたい!じゃあ、あそこで瓦礫の撤去に加わってくれ!」

「分かりました」

 指差された場所では、崩れたと思しき瓦礫が散乱しており、男たちがツルハシやハンマーで作業をしている。

 早速行って作業に加わろう。

「すいませーん!ここに加われと言われて来ましたー!」

「おーう!じゃあそこの崩した瓦礫、向こうへ運んでくれー!道具は向こうにあるのを適当に使ってくれー!」

 1人のおっさんが指差した先には、ツルハシやハンマー、シャベルや猫車が乱雑に置かれたエリアがある。

 よし、やるか――。

「ゴードン、カサンドラ、お前らも作業に加われ」

「承知」
「分かりました」

 そこでバラけて作業に入る。
 俺は猫車で瓦礫の運搬、ゴードンはツルハシで瓦礫の破砕、カサンドラはシャベルで細かい瓦礫の除去――

「よっと」

「うお!?あんちゃん凄え馬鹿力だな!」

 人の胴体ぐらいの岩を持ち上げて猫車に乗せたら、同じ作業をしていたオッサンに驚かれた。

「ハハ、馬鹿力言わんでくださいよ」

「おっとすまねえ!」

 オッサンと軽口を交わして、岩を積んだ猫車を押して行く。

 ゴードンとカサンドラはどうかな?

「ふんっ!」

「うおお!?瓦礫が一撃で粉々に!?」

 見た目通りの腕力――と【身体強化魔法】か――で瓦礫をみるみる砂利サイズに砕いていく。

「よいしょっ!」

「こっちの姉ちゃんも凄えぞ!あの細腕のどこにあんな力があるんだ!?」

 カサンドラも砂利をパッパとシャベルで掬っていく。

 2人とも力仕事は問題ないみたいだな。



 そうして俺達は日暮れまで土木作業を行い、報酬銀貨8枚を受け取って、宿に帰った――。



「さて、あとは晩飯を食って体拭いて寝るだけなんだが、今後の事について話しておこうと思う」

 俺はベッドに腰掛け、椅子に座るカサンドラと床に座るゴードンを見据えて話し始める。

「お前らは故郷の帰りたい。だから奴隷から解放されたい。俺もお前らを解放して身軽な1人に戻りたい。ここで利害が一致している。だから、今は金を稼いでお前らをさっさと解放する!一先ずコレが最初の目標だ。その後はお前らで勝手にしたらいい」

「承知している。解放してもらえるというだけで、我らには有り難い事だ」

 ゴードンがそう言うと、カサンドラも無言で頷いた。

「で、だ。とりあえずこの都市の冒険者ギルドの依頼をざっと見た限り、報酬が頭打ちというか、ここで依頼をこなしていても効率が悪い気がするんだ」

 今日受けた、倉庫整理の報酬金貨3枚……実はあれが最高額報酬だったりする。
 それにあの依頼、恐らく本来は、終わるまでに何日も掛かる内容で、完全に終わってから報酬が支払われるはずだったんだろう。
 だからこそ、鍛冶屋の親方も、ギルドの受付嬢も驚いていたんだ。
 だから、日当という考え方をすると決して報酬は高くはならない。
 オマケに、恐らく1人でやったら終了までの日数が跳ね上がる仕事量……お世辞にも割のいい仕事とは言えない。

 他に、高報酬の依頼は張り出されておらず、殆どが雑用的な依頼で報酬額も程々……思い返せば冒険者の数も程々だったように感じる。

 つまり、言い方は悪いかも知れないが、大した依頼がないのだ。
 稼ごうと思ったら、もっと大きな都市に行く必要があるのでは、と思った訳だ。

「明日、クレセントベアーの依頼を終えたら、別の街に行く準備をする。出来次第、出発だ。異論は?」

「ない。従う」

「私も」

「よし、決まりだ」

 話は決まった。

 なら飯を食おう――という訳で一階の酒場へ移動。
 幸にして、俺達3人が座れる席が空いていた。

「女将さん、今日のおすすめを三人前。あと酒を、えーと……何があります?」

麦酒エール蜂蜜酒ミード、あとは少しお値段は高くなりますが葡萄酒ワインもありますよ」

「じゃあ、麦酒エールを。お前らはどうする?」

「いや、結構」

「私も」

「そうか。女将さん、この二人には水を」

「はい、畏まりました」

 女将さんは会釈すると木のジョッキを用意し始める。

 ちなみに、この世界では水もちゃんと金を取られる。
 現代日本のレストランみたいに、セルフサービスの飲み放題なんてない。
 しかもここは違うが、場所によっては酒より水の方が割高な事もあるらしい。

「はい、お待ちどおさま」

 料理と酒が来たので、いただく。

 何かの肉を一口大に切って、焼いたシンプルな料理だ。
 肉の感じからして、鳥ではなさそうだが、何だろう?

 先ずは一口――

「もぐもぐ……ん、美味い!」

 塩と何かのハーブが付いてるのか、鼻に抜けるスッキリした香りが良い。
 変な臭みはない。
 塩気も俺の好みだ。
 歯応えはあるが、噛みきれないという事もなく、食べ応えがあって丁度いい。

 付け合わせなのか、皿の脇に大豆の様な豆が添えられている。
 食べてみると、こっちは特に味付けがされてない様だ。
 茹でただけ、という感じ。
 しかし、塩味の肉の合間に食べると箸休めみたいな感じで悪くない。

 料理を食べたら麦酒エールを飲む。
 常温に近い温度だからか、よく飲んでいたビールと違って、少し甘い匂いがする。
 苦味は控えめで、コクがあるというか、炭酸も弱めで舌に長く残る味という感じだ。
 だが、しつこくはないので美味いと感じる。
 塩気のある肉料理との相性が最高だ。

「ゴッ、ゴッ、ゴッ、プハァ~!女将さん、おかわり!」

「はーい」

 そうして麦酒エールをおかわりすること3回、肉料理も1回おかわりして、食事を終えた。

 日本にいた頃はビールをジョッキ4杯も飲めば結構酔ったものだが、この体は全然酔わなかった。
 それはそれでちょっと物足りない……。
 かと言って、酔うまで飲んだら金が吹き飛ぶ……いつか心ゆくまで飲んでみたいものだ。
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