我慢を止めた男の話

DAIMON

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第十話『また帝国絡み』

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「ゴードン、知ってんのか?」

 尋ねると、ゴードンは頷く。

「彼の名はヴィンセント、私と同じ帝国の騎士だ」

 ああ、なるほど。
 察するに同じ境遇――帝国の飛ばされ工作員か。

「よして下さい、ゴードン卿……俺は平民上がり、貴方とは違いますよ」

「剣の腕一つで騎士爵位を手にし、『皇帝直属親衛隊』に推薦された程の男が何を言う」

「……もう、昔の話ですよ」

 ふいと顔を逸らす盗賊の頭――ヴィンセントだったか。

「お久しぶり、ヴィンセント」

「!まさか、カサンドラ嬢まで……!やはり、奴らに……」

「……ええ、お察しの通りよ」

「ッ……クソッタレめ……!」

 ヴィンセントが悔しげに吐き捨てる。

「……しかし、どうして2人がここに?」

「我々も、中央から略奪を命じられていた。そして先頃、こちらのジロウ殿に倒されてな。今はカサンドラ様共々、彼の奴隷の身だ」

「っ!?」

 おい、何こっち睨んでんだ、コラ。
 喧嘩売ってんなら言い値で買ってやんぞ?

「止めて、ヴィンセント。私達はジロウさんに救われたも同然なのです」

「す、救われた……?」

「ジロウ殿は我らの事情を知った上で、奴隷から解放する為、ご尽力下さっているのだ」

「っ、そんなことが……」

 カサンドラ、ゴードンが言うと、ヴィンセントの顔から敵意が抜けた。

 ここらで釘を刺しておこう――。

「おい、言っとくがな。自分まで都合良く助けてもらえるなんて思うなよ?」

「……それは分かっている。もう覚悟は出来ている。村の女と子供達を解放したら、好きにするがいいさ」

 神妙な顔と声で言うヴィンセント。

「さっさと案内しろ。話はそれからだ」

 俺が促すと、ヴィンセントは歩き出す。
 村の入り口から道を少し歩き、若干の丘を越えて村が見えなくなってから、脇の森に入った。
 進みながら、気配探知魔法で探ってみると、少し先の所に人の気配が集まっているのを見つけた。
 これが恐らく攫われた女と子供達……そして、恐らく見張りがいるはず。

「おい、見張りは何人残してる?」

「6人だ」

「アジトはどんな場所だ?」

「森の中の少し開けた場所だ。村を襲う為の仮拠点として構えた」

 ヴィンセントの話を参考に、気配の位置から盗賊と被害者達を割り出してみる。

 密集して固まっている気配が多分、攫われた女と子供達……。
 少しだけ距離を開けて、それらを囲むように位置取っている気配が4つ……更にそこからまた少し離れているところに2つ……これが見張りだろう。

 村に来た盗賊どもの様に大穴で一網打尽は無理だな。
 なら発想の転換といこう。

 やがて、アジトが見える位置まで辿り着いた。

 では始めよう――地面に手をつき、土魔法発動。

ズゴゴゴゴゴ!

「な、なんだぁこりゃあ!?」

「壁!?」

 正解、壁――発想の転換、穴に落とすのではなく、壁で隔離する。
 俺の土魔法で地面から迫り上がる岩壁が、人質を囲って盗賊どもから隔離し、同時に外周も覆って盗賊どもを閉じ込める。

「これでよし」

「なッ……!??」

「先程の大穴といい、この壁といい……なんとデタラメな……」

「ジロウさんの規格外ぶりは、留まるところを知らないわね……」

 喧しいわ。
 出来るんだから仕方ないし、それで攫われた女と子供達が助かるんだからいいだろうが。

 一先ずゴードン達は放っておくとして、盗賊どもはどう始末するか……。
 わざわざ中に入って1人ずつ叩きのめしていくのも手間だ。

 あ、そうだ。
 閃いた。

 土魔法で作った土壁を更に操作――壁を移動させ、外周を狭めて追い詰めていく。

「こ、今度はなんだ!?」

「か、壁が迫ってくる!?」

「くそっ!?硬え!?」

 見張りどもが慌てふためく声が聞こえてくる。
 どうやら壊して脱出しようとした奴がいた様だが、想定内だ。
 壁はガチガチに硬く造ってある。

 暫くして、盗賊どもを囲った壁は半径2メートル程に窄まった。
 後はこのまま、盗賊だけを穴に落として――

「うわあぁー!?」
「なんだぁー!?」
「ぐえッ!!?」

 鉄格子で閉じ込めて、水責めで終いだ。

「よし、始末完了」

「「「…………」」」

 なんか、ゴードン達が揃ってドン引きしているが無視だ。
 悪党に慈悲など要らない。

「おら、いつまで呆けてんだ。攫われた人達を助けに行くぞ」

「しょ、承知……」
「分かりました……」
「あ、ああ……」

 本当にいつまでドン引きしてやがるか……。
 あとヴィンセント、お前は攫った側だからな?
 味方側じゃないからな?



 その後、攫われた女と子供達は無事に救出――クズに乱暴されてしまった人は無事とは言い難いが、一先ず命はあったしどこぞに売られる事も避けられた。

 盗賊どもの遺体は後で始末する事にして、先ず女と子供達を村に帰した。
 村に帰り、隠れていた村長さん達に話すと、涙を流して感謝された。

 また、その後に思い出したんだが、最初の襲撃で奪われた食料や金品も回収して村に返した。
 その時も感謝され、危うく土下座までされそうになって焦った……。

 で、最後に盗賊どもの後始末――
 先ず穴から魔法で水を抜き、土魔法で底をせり上がらせて溺死した盗賊どもを地上に出す。
 そして、奴らの所持品や装備類を全部没収、戦利品として頂く。
 特に目を引く様なアイテムは見つからなかったので、次の村や町で全部換金する。
 頂くものを頂いたら、残った盗賊の遺体は村から少し離れた森の中に穴を掘り、その中で纏めて灰になるまで燃やした。
 これはゴードン達の勧めで、そのまま埋めるだけだと運が悪ければ『アンデット』として這い出てくる恐れがあるそうだ。
 しかもそうなったら生前の怨みから村を襲うかも知れないと……。
 なので、村の安全の為にも俺の魔法で燃やし、灰にしてから地下深くに埋めた。
 せめて森の肥やしになるがいいさ。

 で、それら後始末が終わったら、俺達は早々に村を発つ事にした。
 何故なら、ヴィンセントを連れて行くから……。

 盗賊の頭として村人に顔を見られているので、村に置いておくのは村人達の精神衛生上よろしくない。
 かと言って、他の盗賊どもと同じく息の根を止めて埋めてしまうのは、今度はゴードン達の精神衛生上よろしくない。
 面倒ではあるが、解放すると約束して連れているゴードン達に落ち込まれたり恨まれたりするのはより面倒だし、俺の精神衛生上よろしくない……。

 だから、一刻も早く村から離すことに決めたのだ。
 念の為、武器や防具は取り上げて縄で縛った姿を村人達に見せて納得してもらった。



 そして、救ってもらったお礼にと食料と水を貰い、俺達は村人達に見送られながら村を後にした。



「さて、そろそろいいだろう」

 村から十分に離れたところで、ヴィンセントの縄を解く。

「……いいのか、縄を解いて……?」

「暴れたきゃ暴れろよ。容赦なく返り討ちにしてやるから」

「……それもそうか。つまらない事を言った、すまん」

「別にいい。で、お前これからどうすんだ?」

 俺が問うと、ヴィンセントは首を傾げる。

「どうする、とは……?どこかの町で、俺を王国軍に突き出すんじゃないのか?」

「俺はそうしてもいいんだが、そうするとゴードン達が面倒臭い事になりそうでな……」

 俺が軽く睨むと、ゴードンとカサンドラが気まずそうに目を逸らす。

「……まあ、知り合いが捕まったり奴隷になったりって、どう考えても気分悪いことだからな。それで側でウジウジされても、俺も気分悪い。そこでだ、ヴィンセント。ちょっと取引しないか?」

「取引?俺にどうしろと……?」

「その前に聞くが、ヴィンセントお前、指名手配されてたりするか?」

「え、いや、それは……どうだろうな?それなりに盗賊行為を働いたが、いつもバンダナを巻いていたから、もしかしたら余り人相は知られていない可能性も……」

「なら少し変装でもして、暫く俺の仕事を手伝え」

「?……話が見えないんだが……?」

「別に難しい事じゃない。まず俺は、こいつらを解放すると約束した」

 ゴードン達を親指で指す。

「犯罪奴隷のこいつらを解放するには結構な額の金が要る。それを稼ぐために手を貸せって話さ。で、さっさと目標額を稼いで解放したら、こいつらと一緒にどこでも好きなところへ行って、あとは好きにしたらいい」

「っ!そういう事か。それなら、っ……いや、しかし……」

「なんだよ?嫌なのか?」

「違う、そうじゃない。ゴードン卿とカサンドラ嬢を解放するためなら喜んで手を貸したい。だが……俺は冒険者登録が出来ない」

 登録が出来ない?
 どういう……あっ。

「登録の時に犯罪歴がバレるか」

「ああ」

 冒険者ギルドで登録の時に使ったあの登録盤って道具……登録の時には知らされなかったが、あとで犯罪歴の有無も調べられる代物だと知った。
 現代地球の機械よりそういうところは優れている。
 となると、ヴィンセントを冒険者登録させて、依頼を受けさせるのは無理か。
 それなら方法を変えるまでだ。

「じゃあ冒険者登録はしなくていい。俺が依頼を取ってくるから、それを手伝うか、或いは素材の採取やら魔獣の討伐やらの一部を任せる形でいこう。それでどうだ?」

「……分かった。そういう事なら引き受ける」

「よし、交渉成立だな」

 ヴィンセントが仲間に加わった~、なんてな。
 何はともあれ手が増えたなら、多少でも稼ぎが増加が見込める筈だ。
 ゴードンとカサンドラの解放までの時間も短縮するだろう。

「ヴィンセント、一つ気になることがあるのだが……」

 と、そこでゴードンが口を開いた。

「帝国との定期連絡はどのような形で行っていた?我々は、略奪した物品の引き渡しがソレを兼ねていたのだが……」

「俺の方もほぼ同じですよ。闇商人に扮した帝国の連絡員に定期的に食料や金品を引き渡していました」

「となると、やはり遅かれ早かれ帝国に我々が行方を暗ませた事も伝わるか……」

「でしょうね……」

「どういう事だ?」

 俺が聞くと、ゴードンとヴィンセントがこっちを向く。

「王国内には、王国の内情を探るためのスパイが複数潜入している。我々が死んでいたらともかく、こうして生きている以上、どこかで必ず我々の生存が帝国に伝わるはずだ。特に奴隷となった私やカサンドラ様は、記録が残ってしまったからな。そう遠くない先、帝国は情報を掴むだろう」

 情報……て、まさか!?

「俺の事もか!?」

「……恐らく」

 いや、頷きながら「恐らく」じゃねえんだよ!?
 それはつまり、俺も帝国に目を付けられるって事じゃないか!

「おいコラゴードンてめえふざけんなッ!!そんな重大なこと何で黙ってやがった!!」

 反射的にゴードンにコブラツイストを極める。

「ぐああぁぁッ!?す、すまないッ!私も失念していたのだッ……!!決して意図して黙っていた訳では……ッ!!」

「言い訳無用だ!コンチクショウが!!」

「ごああぁぁぁぁッ!??」

 怒りのままにたっぷりと締め上げてからゴードンを地面に放り捨てる。

 厄介なことになった……というか、なっていた!
 今の帝国中央を牛耳っている戦争継続派の敵対派閥である戦争終結派に属するレンブルトン侯爵家の令嬢であるカサンドラと、その護衛騎士のゴードンは帝国中央にとって死んでくれた方が都合が良い存在……だから海賊に扮した工作員として送り込まれていた。
 それが連中の期待に反して、2人は王国内で奴隷に堕ちたが生きている。

 そして、その2人を手元に置いている俺……帝国の戦争継続派から見たら、災いの種に映るかもしれない。
 災いの種は早めに潰した方がいいという結論に達し、ゴードンとカサンドラのついでに刺客でも差し向けられたら……!
 撃退できたとしても、それは完全に帝国を敵に回すという事……!

 ヤバい、いつの間にか戦争に巻き込まれかけている……!?

「こ、ここで幸いと言うと悪いが……俺の方は、つい数日前に略奪した物を引き渡したばかりだから、上手く立ち回ればそれなりに時間が稼げると思う……思います」

 何の慰めにもならない情報ありがとよ、ヴィンセント……! 

 これは、悠長にやっている時間はなさそうだ……。
 ゴードンとカサンドラの解放を急がねば……!
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