我慢を止めた男の話

DAIMON

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第十七話『所変わってまた面倒?』

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「だぁ~かぁ~らぁ~よッ!ねえちょっとぉあんたぁ!?聞いてんのぉ~!?」

 あ~煩え……。
 こんなことあるか……?
 旅の途中で立ち寄った宿場町の、何の気なしに入った酒場で、マーセンにいたはずのやらかし女冒険者のキャス・クライトンとかち合い、不運にも見つかって、絡まれて、訳が分からない内に同じテーブルに引っ張り込まれて……キャスの自棄酒&愚痴大会に付き合わされているなんて……。

 内容は主にマーセンの冒険者ギルドで受けた処分内容への不満と不服――悪いのは自分じゃなく、自分に怪しい魔物の撒き餌を売った行商人だろうとか、罰金が高過ぎて素寒貧になったとか、ダンジョンにも入れなくて仕事も出来なくて生きていけないだとか、俺が弁護してればもう少し罰も軽くなってたとか、ブルース支部長がずっと独身だとか……出るわ出るわ、愚痴のマシンガン。
 酒をガバガバ飲みながら喋っているものだから、もう呂律も怪しいし、言っている事は大半滅茶苦茶だったり同じことの繰り返しだったりで、かれこれ1時間は愚痴り続けてやがる……。

 俺はもうげんなりだ……1人で楽しく穏やかに飲むはずだったのに、どうしてこうなるんだ……?

「ぅぅ~~ほんとにぃ、ほんとにさぁ~……なんで、アタシが、こんな目に遭うのよぉぉ……冗談じゃぁ、ないってぇ……いう、のよ…………グゥ~……」

 あ、突っ伏していびきをかき始めた。
 やっと潰れた……やっと解放されたか。
 疲れた……。
 もう宿に引き上げよう。

「お~い、勘定頼む」

「は~い!」

 近くのウエイトレスに声をかけて会計する。

「えっと、こっちのお連れさんと合わせて、銀貨4枚と銅貨3枚ね」

 お連れさんじゃないんだが……赤の他人なんだが……。
 はぁ、でもなんかもう面倒臭いし、少しは哀れだから、酒代ぐらい払ってやるか……。

「じゃあ、これで」

「はい、毎度~」

 代金を払って、席を立つ。
 あ、一応、キャスの事は言っておいた方がいいかな。

「あ~それと、この女、別に俺の連れじゃなくて、ただ絡んできただけの酔っぱらいだから。こいつの宿とか知らないんで、適当なところで起こして自力で帰らせてくれ」

「え~?お兄さん、そりゃあちょっと冷たいんじゃないの~?」

 ヤバい、ウエイトレスが俺の事を何か変な風に見てる気がする……。
 だが、ここで流されてはいかん。

「冷たいも何も事実だ。酒と肴は奢ってやったんだ、これ以上は知らん。じゃ、そういう事で」

「はいはい~」

 ウエイトレスにチップとして銀貨1枚を渡して、俺は店を出た。
 なんだか疲れた……チートボディの筈なのに……。



 もう何かをする気になれなかったので、宿に真っ直ぐ帰り、体を拭くのも忘れてそのまま眠ってしまった……。



 そして朝が来て、宿をチェックアウト。
 どこかで朝食でも取ってから出発しようかと、荷物を背負って朝でも賑わっている町を歩いていた時だった……。

「――あーー!!見つけたーー!!」

 またあの女、キャスに見つかってしまった――なんでだ!?

「昨夜はよくも置き去りにしてくれたわね!?」

「てめえ、奢ってやったのにその言い草はなんだ……?」

「それはご馳走様!本当にありがとう!けどそれはそれよっ!おかげでアタシ、あんたに振られたみたいに見られたんだからねっ!」

「知らねえよ!なんだそりゃ!?」

「ウエイトレスさんに起こされて起きてみたらあんたがいなくて!『代金はもう払われてるから……』って生暖かい同情的な目で見られて!おまけに『これはアタシの奢りよ……』って酔い覚ましの温かいお茶をサービスされたのよ!」

 やっぱりあのウエイトレス、完璧に誤解してやがったか……!
 もうあの店には行かねえ……!

 それはそれとして――

「……サービスされたなら良かったじゃねえか」

「女としてのプライドの問題なのよ!何が悲しくて勝手に振られ女認定受けなきゃなんないのよっ!?冗談じゃないわ!」

「だから知らねえっての!」

 喧しいなあもう!

 その後、付き合いきれないと俺は無視して立ち去ろうとしたのに、キャスは何故か俺に絡み続けて、結局町の外までついて来た……。
 おかげで朝飯を食いそびれた……。

「はぁ……おい、いつまでついて来る気だ?」

「そうね、一先ずあたしの依頼制限が解除されるまでかしら?あんたはあの化け物みたいな洞窟蜘蛛を倒したって聞いたから、相当強いんでしょ?だったらあんたについて行けば稼げるって事よ!絶対逃がさないからね」

「何勝手に決めてんだよ、認めねえぞ」

「何よ、いいじゃない!あんた単独ソロでしょ?こ~んな美少女とパーティが組めるのよ?それにアタシは自慢じゃないけど斥候スカウトとしての腕前は超一流で通ってるの!旅の潤いと有能なメンバーが一度に手に入るチャンスじゃない!」

「よくそこまで自分を持ち上げられるな、お前……。マーセンでやらかした癖して……」

「だぁかぁらぁッ!あれはあの怪しい商人が全部悪いのよッ!今度会ったら只じゃ置かないわ!!」

「あっそ、そこは勝手にしてくれ。そして、パーティなんか組まんぞ。俺は気ままな1人旅が良いんだ」

「じゃあ旅は道連れね。あんたの1人旅に、アタシも1人旅で一緒に行くわ」

 このヤロウ……!

「~♪」

 睨んだら顔逸らして口笛拭き始めやがった……。
 駄目だこいつ、何言ってものらりくらりと……本当に俺にくっついて離れないつもりか?

 なんて厄介な……!
 しかし、こいつから逃げる為に全力疾走とか、道を外れて森に隠れたりとか、折角の旅を逃避行にするなんてつまらない……。
 というか、何故何も悪い事をしていない俺が逃げなければならないのか……。
 釈然としないが……もういい、気にしない!

「……はぁ~、邪魔しやがったらマジで容赦しねえからな」

「うんうん♪そうこなくっちゃっ!」

 ホントにこのヤロウ……!

 こうして無理やりにキャスがついて来ることになった……。
 俺の気を知ってか知らずか、上機嫌に横について来るのが憎たらしい……。

 2人――いやいや、1人旅と1人旅の同道となった訳だが、意外にもキャスは余計なおしゃべり等はせず、旅慣れた様子で辺りに注意を払う様に静かに歩いていた。
 それにこの辺りの道も知っていたのか、的確に休憩できそうな場所や、別れ道でどっちに行けばいいかを教えてくれたりした。
 本当に意外だったが、どうやら超一流の斥候という話も、満更自惚れから来る誇張って訳でもない様だ。
 野営で食料なり水なりを強請られるかと警戒もしていたが、キャスも自前で用意していたのでそれもなかった。

「端から他人を当てにするようじゃ冒険者なんかやってられないわよ。自分で出来る事は自分でやる。出来ない事もなるべく出来る様に訓練する。どうしても出来ない事は他人に力を借りる。勿論、しっかり代価を支払ってね。そこをきっちり出来ない奴はダメよ」

 どうもキャスなりの線引きのようなものがあるらしい。
 金でトラブルを起こしたと聞いたから、がめつい女なのかと少し誤解していたかもしれない……いやまあ、割と図々しい奴ではあると思うが……。



 ともあれ、案外不快でもないキャスとの道中――途中3つの村で補給と宿泊をして、割とのんびり歩くこと10日……俺達は、少し大きな町に辿り着いた。



「ここは、『ブルームフィルドの町』ね」

 知っているのか、キャスがそう言った。

「来たことあるのか?」

「これで3回目。ここは王都までの中継地として大きくなった町なのよ。冒険者ギルドの支部もあるし、王国軍の駐屯地もあるわ。確か、ここから少し北に行ったところに軍の砦もあるって聞いたわね」

「へえ~」

 王国軍がいるのか、だからどうって事もないが。
 それよりも冒険者ギルドがあるなら、少し依頼でも見てみるか。
 マーセンで貰った報奨金はまだ残っているが、まだ旅は続く訳だから少し稼いでおくのも悪くない。

「キャス、俺は一度冒険者ギルドに行くぞ」

「アタシも行くわ。何か稼ぎの良い仕事あったら請けてよ、手伝うからさ。報酬の分け前は6:4ロクヨンでどう?」

「請けるのはいいが、当然俺が6だよな」

「ここで『アタシが6よ』なんて言うほどがめつくないわよ」

「ならいい。でも、俺が見て、請けてもいいと思う依頼があったらだぞ?」

「そこは任せるわ。アタシも自分で請けられそうな依頼があったら自分で請けるし。あ、でも、2人なら何とかなりそうな仕事だったら手伝ってよ」

「内容次第だな」

 そう話しつつ、冒険者ギルドへ向かう――場所は知らなかったが、町の入り口からすぐの所に建っていたので探す手間が省けた。

 ちらほら入る冒険者達に倣ってギルドに入る。
 マーセンの支部より一回りぐらい小さい印象だが、内装等は殆ど同じだった。
 早速依頼の掲示板を見てみる。

「う~ん、渋いわねぇ……」

 キャスはあれこれ依頼書を眺めながら眉を顰めている。
 自分のランクで請けられる依頼を中心に全体を見渡しているようだが、どうも気に入った依頼がないらしい。  
 張り出されている依頼は、魔物討伐や薬草類の採取、荷物の運搬、倉庫整理、他の町への手紙の配達など色々あるが、報酬の額はマーセンと同じか、少しだけ安いように見える。

 ざっと見た感じ、俺もあんまり気乗りはしない。
 依頼の内容が日を跨ぐようなものだと特に……どうせこの町には休憩で立ち寄っただけだしな。
 やっぱり、依頼を請けるのは無しかな。

「ねえジロウ、これ見てよ」

「うん?」

 呼ばれて行ってみると、キャスが1枚の依頼書を指差した。
 いや、依頼書というより、これは手配書だな。

『盗賊グラハム 懸賞金:金貨70枚 目撃情報:ブルームフィルド北の街道付近』

 似顔絵も描いてある――ボサボサの髪、モミアゲから顎下まで繋がった髭、悪そうな目つき、額の左側に2本の傷跡……情報を見ると、街道を行く行商人や旅人が荷物を奪われる被害が出ているらしい。
 何度か冒険者や王国軍が討伐に乗り出すも、捕まっていないそうだ。

「ねえ、こいつ捕まえに行ってみない?」

「捕まえにって、俺達2人だけで探すのは無理があるだろ」

「探すんじゃなくて、釣り出すのよ」

「は?……あ、囮って事か」

「そうそう。アタシ達2人で旅人に扮して歩いてればイケるわよ」

「……だがよ、2人で盗賊団を相手にって無茶だろ」

「あの化け物洞窟蜘蛛を仕留めたあんたならイケるでしょ?」

「ふざけんな、俺頼みかよ!」

「ちゃんとアタシもサポートするわよっ」

 ふざけんな――再度、そう言おうとした時だった。

「失礼、ちょっといいかしら?」

 そんな女の声が掛かった。
 振り向くと、所々傷がついた金属製ライトアーマーを着た、青髪ポニーテールに同じく青い瞳の気が強そうな顔つきの結構な美人が立っていた。

「その手配書の盗賊を捕えに行くと聞こえたのだけど、その話、詳しく聞かせてくれない?」

 ニヤリと不敵な笑みを浮かべる青髪美人――

 なんだろう……また面倒の臭いがして来た気が……。
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