我慢を止めた男の話

DAIMON

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第二十五話『王都フラムスティード』

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「はぁ~、やれやれ……」

 バーグ砦の攻防戦が終わり、俺は1人道を歩いていた。
 向かうのは、あの妙なリザードマンに襲われていた村――キャスを置いて来た所だ。

 戦闘が終わった後、暫く様子を見ていたが、やはり帝国軍は撤退していった……。
 俺が陣地を滅茶苦茶にして物資もダメになったし、怪我人も大勢出ただろうし、侵攻の要だった大量の竜牙兵を失ったからだろう。
 帝国としては「まさか負けるとは思わなかった」といったところだろう。
 そう思えば良い気味だ、嫌な戦争に加わった溜飲も下がろうというもの。

 で、帝国軍が撤退していくのを確認してから、俺はすぐにバーグ砦を後にした。
 アニータに「砦の責任者に紹介したい」と引き留められたが、断った。
 王国の軍人だか騎士だかと面識など持ちたくない、面倒臭いからな……アニータにも俺の事は伏せてくれるように頼んでおいた。
 正式にギルドの緊急依頼に参加していない俺には、記録が残っていない。
 アニータさえ黙っていてくれれば、今回の大暴れの件で俺の名前が広まる事はない筈だ……。

 結果的に、今回の件はタダ働きになってしまったが……あのまま何もせずに後味の悪い結果にならなかっただけマシだと思う事にする。
 出来ればこれっきりにしてほしいものだが、これまでの事を思い返すと、どうやる事やら不安だ……。



「あっ!やっと帰って来た!」

 夜通し歩いて早朝になったころ、俺は件の村に到着――キャスと合流した。
 早朝にも関わらずキャスは起きていたのに少し驚いた。

「まさか、ずっと起きて待ってたわけじゃないよな?」

「それこそ、まさかよ。ここの村長が助けてくれたお礼にって家に泊まらせてくれてね。ついさっき起きて来ただけよ」

「そうか」

 ずっと起きて待っていたなら悪かったと思ったが……あ、いや。

「何にせよ悪かったな。置き去りみたいにしちまって」

「まあ、びっくりはしたけど、大して気にしないわよ。……アニータは無事だった?」

「ああ」

「そう、なら良かったわ」

 そう言った時のキャスが、小さくホッと息を吐いたのは、気付かなかった事にする。
 何のかんの言っても、キャスもアニータが心配だった様だ。

「……それで?すぐ出発する?それともジロウも休む?」

「すぐ出発したいな」

 襲われてボロボロにされてしまった村に留まるのは、何というか落ち着かない……。

「大丈夫なの?アンタ、夜通し歩いて来たんでしょ?」

「問題ない」

 気分的に疲れた感じはするが、体力は余裕だ。
 休むなら王都まで行って、ちゃんとした宿に落ち着きたいし。

「……」

「なんだよ?」

「とんでもないスピードで走るわ、夜通し歩いて疲れてないわ……集団暴走スタンピードを1人で止めた時点で思ってたけど、ジロウ……アンタ、割と化け物よね」

「うるせえ」

 チートの自覚はあるんだよ、こちとら。

「気味が悪いってんならここから別行動で良いぞ」

「嫌よ。寧ろアンタにくっついて行けばたっぷり稼げると確信したわ!前にも言ったけど、逃がさないからね」

 ウインクすな、あざとい仕草は俺には効かんぞ。

「……まあ好きにすりゃあいいが、俺は俺で好きにする。変に儲けるだの稼ぐだのは考えてないからな、そこに文句言うなよ」

「言わないっての!」

 どうだかな……まあいいか。

 キャスが持っていてくれた荷物を背負い、改めて王都を目指して村を発つ。
 ここから王都まではもう目と鼻の先、と言っても馬車で1日、歩きで2日ほどという事だから、それなりに離れてはいる。
 既に村が襲われていた旨は王都の然るべき場所に報せが行っている筈……だが、どういった対応がされるのかは分からない。
 王都から近いから、騎士団なりが出動して何らかの支援がされるといいが……この国が国民に対してどれほど誠実さと慈悲を持っているか、余所者の俺には分からないからな。

 ともあれ、王都へ向かう徒歩の旅は一先ず平穏だ。
 この辺りは王都が近く、人の往来や騎士団の巡回等も多いと聞いた。
 返す返すも、村を襲ったリザードマンは異常……やはり人為的な襲撃だったと思えてならない。

 帝国の仕業だとすれば闇を感じる……使役した魔物を嗾けるとか、魔王の所業だろう。
 これを人間がやっているというなら恐ろしいし、気に食わない。
 そうまでして他人を害したいものか?
 俺には分からん……。

 あー、いかんな……戦争というものを近く感じているせいか、思考がネガティブ寄りだ。

 早く王都に行こう。
 そして、何か気分転換をしよう。

 そんなことを考えながら、歩き、休み、また歩きと道を進む――そして一晩の野宿の後、日の出と共にまた歩く事半日、俺達は王都『フラムスティード』に到着した。

「デケぇなぁ……」

「そうねぇ……」

 俺とキャスはやや上を見上げながら呟いてしまう……。

 見えているのは上に高く、横に長い、壁――王都を覆い、護っている防壁だ。
 まだ距離はあるが、それでも高く見えるし、左右を見渡しても壁の切れ目など見えやしない。
 王都の大きさと堅牢さを見せつける様な、ある種の威圧感を放つ様な立派も立派な壁だ。

「……ていうか、キャスも初めてか?王都」

「そうなのよ。なんだかんだ縁がなくてね」

 という事は、案内は望めないか。
 冒険者ギルドとか宿とか探さないとな……と、そうだ、忘れるところだった。
 マーセンのブルース支部長から、王都のギルド支部長に手紙を預かっていたんだ。
 バーグ砦の戦いに駆け付けた時は、リザードマンに襲われていた村で荷物を置いて行ってしまったから、失くしていたらヤバかった……。
 手紙は……ちゃんとあるな、よし。

 安心したところで、門へ向かう。
 俺達と同じ様に王都へ向かう人々で、流れが出来ており、その流れを追って見れば門の前で列が出来ている。
 入る前に手続きがあるのか……結構列が長いな、これは入るまでに日が暮れそうだ。

「よし、通っていいぞ」

 予想は当たり、俺達が王都へ入れたのは夜になってからだった……。
 入る時に身分証、つまりギルド証の提示だけでなく、名前の記入を求められた。
 王都の治安を守るためなんだそうだ。

 さて、中に入れたのはいいが、今日はもう遅い。
 晩飯と晩酌を済ませて、宿に落ち着きたいところだが……どこへ行ったものか?
 王都なんて右も左も分からん……。

「……迷ってても仕方ない。とりあえず、適当に近くの酒場に入るか」

「賛成~、流石にお腹すいたわぁ……」

 という訳で、パッと目に付いた門のすぐ傍にあった酒場に入る俺とキャス――初めてである以上、最初の店はハズレでも仕方ないと割り切った。

「いらっしゃ~い!お2人様ご案内~!」

 ウエイトレスのお姉ちゃんに席に案内される。
 結構賑わっているので、大外れはないと予想。

「ご注文はお決まりですか~?」

「じゃあ、俺はとりあえず麦酒エールと塩茹で豆」

「アタシは蜂蜜酒ミードの水割り!それとチーズとパンをちょうだい!」

「は~い!承りました~!」

 ウエイトレスはキッチンに注文を通しに行った。
 ちなみにここは日本の居酒屋やレストランと違って、水やおしぼりは出てこないし、セルフサービスでもない。
 あれは近代の日本だから当たり前になっている事なのだ。
 こちらの世界では、こちらから頼まなければ出てこないし、どちらも金を取られる。

「さて、王都では何をするかなぁ?」

「先ずは冒険者ギルドでしょ。稼ぎのいい仕事を見つけないとっ」

「勤勉だな……俺はどこか見物でもと思ってるんだが?」

 まあ、ギルド支部には用があるから俺も行くが。

「見物ったって、何を見るのよ?」

「知らん」

「話になんないじゃない……」

 そんな呆れた目で見るなって。

「この国の中心なんだから、何かしら見るものはあるだろ。ブラブラ歩いて見て回るつもりだ」

「そう。アタシは明日速攻で依頼を受けるつもりよ!失くしたランクを取り戻さなくっちゃ!」

「意気込んでるところ水を差す様だが、お前確か依頼の受注制限掛けられてるんじゃないのか?」

 確か、ブルース支部長がそんな事をいっていた筈だ。

「嫌な事思い出させないでよ……。でも、制限って言っても、Dランクに戻るまで今のランクより上の依頼を受けられないってだけよ。だから、数をこなせば何とかなるわ!」

 それでモチベーションを保てるキャスは、やはり勤勉寄りの性格だと思う。
 金にがめついと聞いていたが、たかってくる訳でもないし、報酬の分け前もガッついてくるでもない。
 多分、納得のいかない事はハッキリ言う性分っていうのが本当で、その辺りで退かないから厄介に思われたんじゃないかな?
 まあ、敢えて指摘する事もないから黙っとこう。

「フッフッフッ、Dにさえ戻ればペナルティ解除!あとはジロウと一緒にガンガン依頼を受けて昇格値を稼げば、あっという間にCランクよ!そうなったらこれまでの分も取り返してやるわ!」

 うーん、思い違いか?

「……あ~……」

「ん?急にどうした?」

 突然、眉間に皺を寄せて唸り出すキャス。

「……ついでにもう1つ嫌な事思い出してムカついちゃったのよ」

「もう1つ?」

「……アタシにあのおかしな魔物の寄せ餌を売りつけてくれやがった怪しい商人の男の事よ。あいつの所為でペナルティ食らったと思うと、ムカムカする……!」

 あー、そういえばマーセンのギルド支部でそんなこと言っていたな。
 帝国の工作員の類じゃないかって輩だ。

 あの寄せ餌といい、妙なリザードマンの群れ(これは未確定だが)といい、バーグ砦を襲った竜牙兵の大群といい……帝国は魔物に関する変な技術が発達し過ぎじゃないか?
 まさか、本当に魔王の類がいる訳じゃないよな……?

 あー、止めだ止めだ!
 ここで考えても分からないし、気分が沈む!

「……まあ、気持ちは分からないでもないが、そうイライラするなって。もう過ぎた事だ」

「他人事だと思って軽く流さないでよ!」

「だってイラついて飲んだって楽しくないだろ?酒だって不味くなるし、これから上手い事やっていけばいいだろ。まだ若いんだからさ」

「いや、若いって……アンタだって言うほど歳じゃないでしょうに。って、そういえばジロウって幾つなの?」

「32」

「へ~、微妙な歳ね」

「なんだよ、微妙な歳って……」



 そうして話を逸らしたのが功を奏したか、他愛のない話をしている内に酒と肴が運ばれてきて、乾杯をして飲み始めれば、キャスも先程までの苛立ちを忘れて陽気になり、それなりに楽しい酒盛りになった。

 やがて程よく酔い、腹も膨れたところで酒場を後にし、近くの適当な宿に落ち着いて、俺達の王都初日は終わった……。
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