我慢を止めた男の話

DAIMON

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第二十六話『冒険者ギルド・王都支部』

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「ふわぁ~~」

 あ~、よく寝た……。
 昨夜、飲み食いを終えた後、酒場近くの宿に泊まった。
 清潔で悪くない宿だった。
 おかげでぐっすり眠れた。
 昨夜はちょっと飲み過ぎたかと思ったが、二日酔いはなく、気怠さも感じない。

 ベッドから起き上がり、木製の窓を開けてみると、まだ太陽は出ておらず薄暗い。
 どうやら早朝の時間帯の様だ。

「早く起き過ぎたか」

 こんな時間では、店も開いてないだろう。
 知らない街で下手に出歩いて、迷うのは格好悪いので避けたい。

 大人しく日が昇るのを待つか。

「コーヒーでも飲みたい時間だがなぁ」

 この世界にコーヒーはあるんだろうか?
 探してみるか。

 着替えてから部屋に備えられた椅子に座り、他愛ない事を考えながら徐々に明るくなっていく外を眺めながら、ぼーっと時間を過ごす……。

コンコン

「っ」

 ノックの音に意識を引き戻される。
 ぼーっとし過ぎて半分寝ていたか?
 気付けばすっかり朝陽が昇っていた。

『ジロウー!起きてるー?』

 キャスが来たようだ。

「ああ、今開けるー」

 椅子から立ち、軽く体を伸ばしてからドアに向かう。

「おはよー、ジロウ」

「おう、おはよう、キャス」

 開けると身支度を整えたキャスがいたので、挨拶を交わす。

「もう出るのか?」

「宿に長居してもしょうがないでしょ。そろそろ店も開く頃だろうし、朝ご飯を食べてから冒険者ギルドに行きましょうよ」

「なるほどな、分かった」

 手早く荷物を纏めて、俺も部屋を出る。

 チェックアウトを済ませ街に出ると、もう人通りが増え始めていた。
 この世界の住人も、朝は結構早いみたいだ。

「さて、朝飯はどこで食うか」

「あっちから良い匂いがするわよ」

「あ、本当だ」

 鶏肉をイメージさせる、フワリと優しい匂い……これはスープか?
 ほのかに甘い様な匂いも……これはパンが焼ける時の匂いだ。

 なるほど、食欲を刺激する匂いが漂っているな。

「行ってみるか」

「ええ」

 匂いを辿って歩いて行くと、屋台が並ぶ通りに入った。
 朝から賑わっている。
 近づくと色々な食べ物の匂いで、腹が減ってきた。

 少し歩いて見て回る。
 朝食用なのか焼き立てのパンやサンドイッチ、スープや煮込みが多い様だ。
 俺は焼き立てだというライ麦パンに似たパンと野菜スープを、キャスは炙ったチーズを乗せたコッペパンの様なパンと蜂蜜入りの温かい牛乳をチョイス――。

「はぁ~、ホッとするわ~」

「結構いけるな、このスープ」

 それぞれの朝食でほっこり腹を和ませた。

 食べ終えた後、屋台の奥さんから場所を聞いて冒険者ギルドへ向かう。
 屋台の通りから少しだけ距離があり、街を見ながら歩く事になった。

「流石に王都だけあって広いなぁ」

「街の中で乗り合い馬車が走るくらいだものねぇ」

 そう、王都はマーセン等の都市の3・4倍と規模が広過ぎて、徒歩では移動し切れない。
 その為、街の中を循環する国営馬車が運行している。
 まるで、日本の路線バスの様だ。

 まあ、幸いにして冒険者ギルドは馬車に乗るほどの距離はなかったので、歩きで行ける。
 初めての街を見ながら歩くのは悪くない。

 おかげで歩き飽きることもなく、昼前に冒険者ギルド・フラムスティード支部に辿り着けた――。

「ギルドもデケぇな……」

「流石王都の支部ねぇ……」

 ぱっと見、外観はほぼ同じ感じだが、建物のサイズがマーセンや他の町の支部の倍近くある。
 それだけ、冒険者や依頼の数が多いという事だろうか?

「これは依頼も期待できそうね……!」

 キャスの目がギラリと光る。
 まあ、思う様に頑張ってくれ。
 俺も良さそうな依頼があればやってみよう。

 さて、いつまでも建物を眺めていても仕方ないので、中に入る。

 予想通りというか、ギルド内はかなり混雑していた……。
 剣に槍に斧、盾、鎧、兜、ローブ、マント、とんがり帽子、杖――多種多様な武器・防具を装備し、様々な格好になった老若男女の冒険者達で溢れている……。

「凄ぇ混んでるなぁ」

「多分、依頼書の張り出しの時間に当たっちゃったのよ。ほら、あそこ」

 キャスが指差した先には、広い掲示板があり、冒険者達が集まっていて、ギルド職員数人が紙を貼り付けている。

「盗賊退治の依頼とかねえかなぁ?」

「昇格審査が近いからな、ここらでドカッとデカい仕事を……!」

「借金返さないと……報酬の良い依頼は……」

「おい!どけよ!見えねえだろ!」

「押さないでよ!ってコラァ!どさくさに紛れてドコ触ってんのよ!?」

「おい!これは私らが取った依頼だぞ!」

「皆様ー!ギルド内での揉め事はご遠慮くださーい!」

 あの熱気の中に入っていく気にはならないな……。

 キャスは――って、いない?
 どこ行った?

 辺りを見渡すと、なんとキャスはあの人混みを抜けて掲示板の真ん前にいた。
 いつの間に……。
 流石は斥候職といったところか。

 まあいい、俺は俺で用事を済ませよう。
 受付はそれ程混み合ってはいない様だ。
 受付の人数を多くして、混雑を緩和しているのだろう。

「すいません、よろしいですか?」

 空いていた受付の受付嬢に話しかける。

「はい、お伺いします。どの様なご用件でしょうか?」

「マーセン支部の支部長ブルース・レイトン氏から、フラムスティード支部の支部長宛に手紙を預かってきました。支部長に取り次ぎをお願いします」

「マーセン支部の支部長から?すみません、そのお手紙を確認させていただけますか?あと、貴方の身分を示す者があればそちらも」

「はい、これです」

 懐からブルース支部長の手紙と、俺のギルド証を取り出す。

「Aランク……!それにこの手紙の封蝋は、間違いなくマーセン支部の支部長印……!失礼しました!すぐに支部長に知らせてきますので、少々こちらでお待ち下さい!」

 そう言うと、受付嬢は小走りに受付の奥へ入って行った。

 そして数分後――

「お待たせ致しました!ご案内しますので、こちらへどうぞ!」

 戻ってきた受付嬢に案内され、受付の脇の通路からギルドの奥へ入る。
 職員がちらほら行き交う通路、受付嬢の先導に従い、階段を上がって2階へ――また少し通路を進んだ先のドアの前で止まる。
 ドアの上を見ると『支部長室』のプレートがあった。
 最上階とかじゃないんだな。

「支部長!お連れしました!」

『どうぞ。お入りなさい』

 む?
 女の声?
 王都の支部長って女なのか?

「失礼します。さっ、お入りください」

 受付嬢がドアを開け、俺に中に入るよう促す。

「失礼します」

 一言断ってから入る。
 中はマーセン支部の支部長と殆ど同じ造りで、応接用と思われる向かい合わせのソファとその間にテーブルが置かれ、その奥に執務机がある。
 そこに座る若い女性――あんまり見る目に自信ないが、多分30代いってなさそうだ。
 長いだろう深緑の髪を頭の後ろで団子に纏め、気の強そうな吊り目、掛けている小さめの丸い眼鏡が出来るOLの様な雰囲気を醸し出している美女だ。

「では、支部長。私は通常業務に戻ります」

「ええ。ご苦労様」

 ドアが閉められ、室内に俺と王都支部長だけとなった。

「どうぞ、お座りになって」

「失礼します」

 勧められ、ソファの片方に腰掛ける。
 王都支部長も執務机から立ち上がり、対面に座った。

「初めまして、私はこのフラムスティード支部の支部長を務める、フラン・ボールトです」

「どうも、冒険者のジロウ・ハセガワです」

「早速ですが、マーセン支部のブルース支部長からのお手紙を見せていただけるかしら?」

「これです」

 封筒を取り出し、テーブルに置く。

「拝見します」

 フラン支部長は手早く封を解くと、中の手紙を取り出して読み始める。

「………………なるほど」

 フラン支部長が手紙から顔を上げた。
 1分と掛かっていないと思うが、もう読み終えたのか?

「ブルース支部長からの手紙、確かに受け取りました。冒険者ジロウさん、ご苦労様でした」

「あ、はい」

 とりあえず、手紙の依頼は完遂という事でいいらしい。
 恐らくダンジョンの件が書かれていたんだろうが、下手に突っ込むのは止めておこう。

「時にジロウさん」

「はい?」

「その背中の大剣、どちらで手に入れたか、お聞きしても?」

 青天のこと?
 何故そんなことを……?

「……質問に質問を返してすいませんが、何故そんなことを?」

「その剣の鍔部分に彫られた刻印に見覚えがありまして」

 刻印?
 青天を手に取ってみると、確かに鍔部分にマークのようなものが彫られている。
 刀身部分ばかり見ていて気付かなかった……不覚。
 このマークは、炎……いや太陽と山が彫られているのかな?

「どうやらご存じないようですが、それは幻の名匠『ブラックスミス・ダニロ』が自身の傑作にのみ刻むと言われる『真印』と呼ばれる刻印です。かなり昔に鍛冶師引退を宣言し、表舞台から姿を消し、今や存命かさえ定かではないと言われていたのですが……」

 フラン支部長の切れ目が光った様に見えた……。
 これは、もしかすると……俺が最近ダニロさんに青天を鍛えてもらった事を見抜いているな……。
 鑑定眼の持ち主ってか……。

 下手な誤魔化しは、睨まれる原因になりかねないな。

「……確かに、この剣――青天を鍛えてくれたのは、ダニロと名乗るドワーフの老人でした」

「やはりっ!ブラックスミス・ダニロはご存命でしたか!」

 うお!?
 フラン支部長がテーブルに手をついて前のめりになってきた!

「ええ、まあ……元気でしたよ」

 鍛冶仕事だってやったし、大酒も食らっていたし……。

「ダニロ氏は今どこに!?」

 それは――

「それは……言えません」

 そう、言えない。
 黙っていろと言われた訳ではないが、平穏に暮らしているダニロさんの生活を騒がせる訳にはいかない。

「っ!そう、ですか……いえ、そうでしょうね」

 フラン支部長の表情が一瞬物凄く残念そうになったが、すぐに元のクールな表情に戻り、姿勢も正された。

「んんッ、失礼しました」

「いえ」

 しかし、何故フラン支部長はダニロさんの所在を知りたがったのか……。
 武器でも造ってほしかったのか?

「質問を変えます。ジロウさん、貴方はダニロ氏と連絡を取る事は可能ですか?」

「……恐らく」

 ダニロさんがデンゼルの町に暮らし続けるなら、行けば会えると思うが……。

「では、1つ依頼を受けていただけませんか?」

「依頼?」

「はい」

 フラン支部長が立ち上がり、壁際に置かれたクローゼットを開け、中から長細いトランクのようなケースを取り出して持ってきた。

「これの修理を、ダニロ氏に頼んでほしいのです……」

 そう言ってフラン支部長がケースを開ける。

 そこには、刀身が真っ二つに折れた1本のロングソードがあった――。
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