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第三十九話『金翼の大鷲亭』
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「ここがオレ達が泊まってる『赤毛の山猫亭』さ!」
とある建物を指差してジョージが言う。
酒場を出た後、少し話している内に宿の話になり、自分達の宿を取っていなかった事を思い出した俺達は、ジョージとリリーが泊まっている宿を紹介してもらう事にしたのだ。
2人の宿ーー『赤毛の山猫亭』は、三階建てのこぢんまりとした建物だった。
酒場があった通りから外れ、ギルド支部やダンジョンから少し離れているが、喧騒から距離を取っていると見れば悪くない。
「私たちもギルドでここを紹介してもらったんです。なんでも、ここのご主人は元冒険者だそうで。冒険者向けに格安の宿を開いたって聞きました」
「へえ~」
そういう話は割と好きだ。
脱サラして自分の店を~とか昔憧れたなぁ……叶わなかったが。
「おっちゃんは厳ついし口煩いけど、部屋は綺麗にしてあるんだ」
「ーー誰が口煩いだ!小僧!」
突然の太めの声とほぼ同時に宿の扉が開く。
現れたのは、青い髪とモミアゲで繋がった顎髭を蓄えた四角い顔の厳ついオッサンーーなるほど、彼がここのご主人か。
宿の名前には赤毛とあるのに、オッサンは青毛なんだな。
「げっ、おっちゃん!」
「シャルルさん、ただいま帰りました」
「おう、リリーちゃんおかえり~♪おい小僧てめえ、『げっ』とは何だ、ああん?」
このオッサン、リリーにはデレっと笑って割と気持ち悪い声色使ったのに、ジョージには見た目通りの太い声と厳つい顔を向けやがった……。
態度が露骨過ぎる……。
てか、リリーが呼んだ『シャルル』ってこのオッサンの名前か?
似合わんなぁ……。
「しゃ、シャルルさん、今日はお客さんを連れてきたんです」
「んん?」
そこでオッサンが俺とキャスを見る。
「おお、客か!よく来たな」
「ど、どうも、お世話になります」
思わず会釈を返す。
すると、何故かオッサンが俺の事をジッと見つめてきた。
「ふぅん……」
「な、何か?」
「……おめえ、えらく強えな。ランクは、A……いや、Sか?」
ちょっと見ただけで、俺の冒険者ランクを見抜いた……?
このオッサン、もしかして出来る人っヤツか……?
「え、えと……一応、Aランクです」
「ほぉ、まだAか……実績不足ってところか」
顎髭をジョリジョリ弄りながら頷くオッサン。
「よし、おめえさん、余所行きな」
「え……?」
な、何だと……?
「おい!おっちゃん!?何言ってんだよ!?」
「うるせえ、ヒヨッコのぺーぺーは黙ってろ」
噛みつくジョージを軽くあしらい、オッサンは腕を組んでまた俺を見てくる。
何となくだが、その目と雰囲気に、嫌な感じはしない。
「おめえさんみてえな高ランク冒険者が、ウチみたいな安宿に泊まっちゃいけねえ」
オッサンーーシャルルさんが語った持論は、一言で言えば『分相応』という話だった。
俺の事を例とすれば、高ランクで稼いでいる冒険者が宿代などをケチって金貨を貯め込めば、世の中に金が回らなくなり経済が停滞する。
更に、冒険者全体が低く見られる恐れもある。
『Aランクの癖に安宿に泊まってる。冒険者なんて所詮そんなものか』
という具合に……。
大袈裟とも取れるが、頷ける話でもある。
舐められたら終わり、というのはどこの業界でもよく聞く。
冒険者も同じ様なものなんだろう。
「……話は分かりました。俺は他の宿に行きます」
「おう。追い返す詫び代わりに、俺の知り合いがやってる良い宿を紹介してやるよ」
そう言うとシャルルさんは一度宿の中に戻り、少ししたらまた出てきて折り畳まれた紙を渡してきた。
「地図と簡単な紹介状だ。行ったら、そこの主人に見せると良いぜ」
紙を受け取って開いて見てみると、確かに1枚は簡単な地図、1枚は『紹介した。泊めてやれ。シャルル』と短く書かれた本当に簡単な紹介状だった……。
これで大丈夫なんだろうか、と俄かに不安になるが、深く考えるのも面倒だ。
行ってみてダメだったら、以後このオッサンを信用しなければいいだけのこと……。
「じゃあ、これで失礼します」
「おう。しっかり名を上げるんだぜ」
シャルルさんと軽く挨拶して、次はジョージとリリーに顔を向ける。
「ジョージ、リリー、折角紹介してくれたのに悪いな」
「ごめんよ、ジロウ……まさかおっちゃんがあんなこと言うなんて思わなくて……」
「ごめんなさい、ジロウさん……」
「コラコラ、2人して謝るな。2人は何も悪くないんだから」
申し訳なさそうな顔をする2人を止める。
そんな風に謝られたら、俺が居た堪れない気持ちになる。
「縁があったら、また飯でも食おう」
そう言って俺は立ち去ーーろうとして、ひとつ忘れていた事に気付いた。
「ところで、キャスはどうする?」
「ん?どうするって何が?」
「いや、ここに泊まるか、俺と一緒にこっちの宿に行くか」
シャルルさんの紹介状を上げて示すと、キャスは「ああ、そういう話」と軽く頷く。
「そうね……オッサン、アタシはアンタんとこ泊まっていいの?」
「おう、嬢ちゃんはいいぜ。俺の見立てじゃ、DかCランクってとこだろ」
またシャルルさんは見ただけでキャスのランクをほぼ当てた。
やらかしてEランクに降格したとはいえ元はDランク、ニアピンというところを突いている。
あのオッサンの目には何が見えているんだろうか?
「そう。なら、アタシはこっちに泊まろうかしら」
「ああ、そうなのか」
てっきりキャスは俺について来て良い宿の方に泊まるかと思った。
「高い宿は、アタシの手持ちじゃあちょっと厳しいのよ……。だからってジロウに奢ってもらうのは、流石にそろそろいい加減にしないとだし」
確かにこのところ飛竜便やら飲食代やら、殆ど俺が出している。
だが、それはあくまで俺が出すと言ったんだから、キャスが気にする事じゃない。
と、思うが……多分、そういう問題じゃない、というヤツなんだろう。
キャスとしては俺に寄生する様な真似は、矜持に反するんだろう。
ならば、俺がとやかく言う事じゃない。
キャスの意志を尊重しよう。
「分かった。じゃあ、明日の朝、ギルド支部で落ち合おう」
「オッケー」
キャスとも話がついたので、俺は1人その場を離れた。
久しぶりの1人、静かな気がするがこれはこれで悪くない。
とりあえず、シャルルさんの地図を頼りに目的の宿を探す。
多少、地図が大雑把だが、まあ、何とか分かる……。
少し苦労しつつ、俺はその宿を見つけたーー。
宿は大通りに面した一等地らしき場所に建っていた。
建物は煉瓦造りの4階建て、シャルルさんの所の3倍はありそうなデカさだ。
ギルドやダンジョンからは少し離れているが、町の門には近く、馬車の駐車場に厩も完備され、何台も馬車と馬が停められていた。
繁盛しているのは結構だが、果たして空き部屋はあるんだろうか?
意を決して、中に入ってみる。
「おお……」
思わず変な声が漏れてしまう……。
ゴージャス、というと少し大袈裟かも知れないが、一流ホテルという趣きのロビーだ。
大理石の様な白く光沢のある石畳の床にフロントまで続く絨毯、天井にはシャンデリア、壁には風景の絵画……。
ヤバい、場違いな場所にいる様な気がして落ち着かない……!
とはいえ、ここで怯んで帰ってしまったら、また宿を探し直さなければならない。
一先ず、ここで空き部屋を確認して、空いていたら泊まってみよう……。
心の奥に、満室である事を願う自分がいる……。
「いらっしゃいませ。ようこそ『金翼の大鷲亭』へ」
フロントで応対してくれたのは、スーツをピシッと着こなしたオールバックの初老紳士、右目に掛けた片眼鏡がお洒落だ。
「あの、ある人から紹介を受けて来たんですが、部屋は空いていますか?」
「ほう、紹介でございますか。失礼ですが、どなたの?」
「『赤毛の山猫亭』のご主人のシャルルさんに」
「ああ、あの方ですか。もしや、紹介状などお持ちではありませんか?」
「はい、これです」
懐にしまっていたシャルルさんの紹介状を取り出して見せる。
「拝見してもよろしいですか?」
「どうぞ」
差し出すと、恭しく両手で受け取る初老紳士。
彼は紹介状を開き、片手でモノクルを支えながら眺める。
「……はぁ、全くあいつは……」
すぐに読み終えたらしく、目を閉じて溜め息を吐いた。
「あの……?」
「おっと、失礼いたしました。問題ございません。すぐにお部屋をご用意いたします」
「あ、はい、よろしくお願いします」
どうやら泊めてもらえるらしい。
初老紳士は手許の宿帳を開き、何やら記入し始める。
しかし、紹介状を見た後の慣れているというか、諦めた様な反応……。
「あの、失礼かも知れませんが……こちらの宿とシャルルさんはどういったご関係か伺っても?」
「ああ、そうですね。申し遅れましたが、私、当宿の主オズワルド・オアガンと申します」
「えっ、貴方がここのご主人!?」
思わず驚いてしまう。
これだけの規模のホテルで、主人が自らフロントに立つのか?
「ほっほっほ、驚かれましたか?お客様は自らお出迎えしたい性分でして」
「な、なるほど……?」
よく分からないが、この初老紳士ーーオズワルドさんの趣味の様な事だと理解しておく。
「シャルルとはお互い駆け出しの頃からの付き合いでしてな」
オズワルドさん曰く、凡そ30年ほど昔ーーまだ『金翼の大鷲亭』が小さな宿だった頃、同じく駆け出しの冒険者だったシャルルさんが客として泊まったのを切っ掛けに付き合いが始まったそうだ。
不思議と気が合い、友人関係を築き、宿屋と冒険者という職の違いはあれど切磋琢磨し、互いに少しずつ成功を重ね、現在までその交友関係が続いているらしい。
「シャルルは引退後、駆け出しの冒険者を支援したいと言って格安の宿を開き、また自身の経験から若者達に冒険者の知識を教えていると聞いています」
「なるほど、そういう事でしたか」
言っていなかったが、俺を泊めなかったのはそういう理由もあったからか。
信用できるか、なんて俺の取り越し苦労だった様だ。
「……まあ、少々女性に対してだらしないというか、露骨というか、少々助平な点が玉に瑕ですが……それが原因でよく奥さんに折檻されていると聞きます」
「あー……」
なるほど、シャルルさんそういう感じか……。
「おっと、少々長話が過ぎましたな。お部屋をお取りいたしました。よろしければ、うちの者にご案内させますが、いかが致しましょう?」
「では、お願いします」
「畏まりましたーー君、お客様をお部屋までご案内しなさい」
「畏まりました。それでは、ご案内いたします」
そうして俺は、オズワルドさんに指示されたホテルマンの案内で、宿泊する部屋に通された。
当然の様に清潔で、広過ぎず狭過ぎず丁度良い広さ、快適に寛げる実に良い部屋だ。
話したオズワルドさんの人柄もあってか、最初あった場違い感はすっかり消えていた。
窓からは大通りがよく見え、景色も良い。
そんな寛げる部屋だからこそ、俺はすぐに眠気に身を任せた。
何しろ輩退治に酒をしこたま飲んだのだ、チートボディのおかげで泥酔こそしないものの、ほろ酔い加減はずっとあった。
「グゥ……」
そんな訳で、ベッドに体を投げ出して数秒で眠りに落ちた……。
とある建物を指差してジョージが言う。
酒場を出た後、少し話している内に宿の話になり、自分達の宿を取っていなかった事を思い出した俺達は、ジョージとリリーが泊まっている宿を紹介してもらう事にしたのだ。
2人の宿ーー『赤毛の山猫亭』は、三階建てのこぢんまりとした建物だった。
酒場があった通りから外れ、ギルド支部やダンジョンから少し離れているが、喧騒から距離を取っていると見れば悪くない。
「私たちもギルドでここを紹介してもらったんです。なんでも、ここのご主人は元冒険者だそうで。冒険者向けに格安の宿を開いたって聞きました」
「へえ~」
そういう話は割と好きだ。
脱サラして自分の店を~とか昔憧れたなぁ……叶わなかったが。
「おっちゃんは厳ついし口煩いけど、部屋は綺麗にしてあるんだ」
「ーー誰が口煩いだ!小僧!」
突然の太めの声とほぼ同時に宿の扉が開く。
現れたのは、青い髪とモミアゲで繋がった顎髭を蓄えた四角い顔の厳ついオッサンーーなるほど、彼がここのご主人か。
宿の名前には赤毛とあるのに、オッサンは青毛なんだな。
「げっ、おっちゃん!」
「シャルルさん、ただいま帰りました」
「おう、リリーちゃんおかえり~♪おい小僧てめえ、『げっ』とは何だ、ああん?」
このオッサン、リリーにはデレっと笑って割と気持ち悪い声色使ったのに、ジョージには見た目通りの太い声と厳つい顔を向けやがった……。
態度が露骨過ぎる……。
てか、リリーが呼んだ『シャルル』ってこのオッサンの名前か?
似合わんなぁ……。
「しゃ、シャルルさん、今日はお客さんを連れてきたんです」
「んん?」
そこでオッサンが俺とキャスを見る。
「おお、客か!よく来たな」
「ど、どうも、お世話になります」
思わず会釈を返す。
すると、何故かオッサンが俺の事をジッと見つめてきた。
「ふぅん……」
「な、何か?」
「……おめえ、えらく強えな。ランクは、A……いや、Sか?」
ちょっと見ただけで、俺の冒険者ランクを見抜いた……?
このオッサン、もしかして出来る人っヤツか……?
「え、えと……一応、Aランクです」
「ほぉ、まだAか……実績不足ってところか」
顎髭をジョリジョリ弄りながら頷くオッサン。
「よし、おめえさん、余所行きな」
「え……?」
な、何だと……?
「おい!おっちゃん!?何言ってんだよ!?」
「うるせえ、ヒヨッコのぺーぺーは黙ってろ」
噛みつくジョージを軽くあしらい、オッサンは腕を組んでまた俺を見てくる。
何となくだが、その目と雰囲気に、嫌な感じはしない。
「おめえさんみてえな高ランク冒険者が、ウチみたいな安宿に泊まっちゃいけねえ」
オッサンーーシャルルさんが語った持論は、一言で言えば『分相応』という話だった。
俺の事を例とすれば、高ランクで稼いでいる冒険者が宿代などをケチって金貨を貯め込めば、世の中に金が回らなくなり経済が停滞する。
更に、冒険者全体が低く見られる恐れもある。
『Aランクの癖に安宿に泊まってる。冒険者なんて所詮そんなものか』
という具合に……。
大袈裟とも取れるが、頷ける話でもある。
舐められたら終わり、というのはどこの業界でもよく聞く。
冒険者も同じ様なものなんだろう。
「……話は分かりました。俺は他の宿に行きます」
「おう。追い返す詫び代わりに、俺の知り合いがやってる良い宿を紹介してやるよ」
そう言うとシャルルさんは一度宿の中に戻り、少ししたらまた出てきて折り畳まれた紙を渡してきた。
「地図と簡単な紹介状だ。行ったら、そこの主人に見せると良いぜ」
紙を受け取って開いて見てみると、確かに1枚は簡単な地図、1枚は『紹介した。泊めてやれ。シャルル』と短く書かれた本当に簡単な紹介状だった……。
これで大丈夫なんだろうか、と俄かに不安になるが、深く考えるのも面倒だ。
行ってみてダメだったら、以後このオッサンを信用しなければいいだけのこと……。
「じゃあ、これで失礼します」
「おう。しっかり名を上げるんだぜ」
シャルルさんと軽く挨拶して、次はジョージとリリーに顔を向ける。
「ジョージ、リリー、折角紹介してくれたのに悪いな」
「ごめんよ、ジロウ……まさかおっちゃんがあんなこと言うなんて思わなくて……」
「ごめんなさい、ジロウさん……」
「コラコラ、2人して謝るな。2人は何も悪くないんだから」
申し訳なさそうな顔をする2人を止める。
そんな風に謝られたら、俺が居た堪れない気持ちになる。
「縁があったら、また飯でも食おう」
そう言って俺は立ち去ーーろうとして、ひとつ忘れていた事に気付いた。
「ところで、キャスはどうする?」
「ん?どうするって何が?」
「いや、ここに泊まるか、俺と一緒にこっちの宿に行くか」
シャルルさんの紹介状を上げて示すと、キャスは「ああ、そういう話」と軽く頷く。
「そうね……オッサン、アタシはアンタんとこ泊まっていいの?」
「おう、嬢ちゃんはいいぜ。俺の見立てじゃ、DかCランクってとこだろ」
またシャルルさんは見ただけでキャスのランクをほぼ当てた。
やらかしてEランクに降格したとはいえ元はDランク、ニアピンというところを突いている。
あのオッサンの目には何が見えているんだろうか?
「そう。なら、アタシはこっちに泊まろうかしら」
「ああ、そうなのか」
てっきりキャスは俺について来て良い宿の方に泊まるかと思った。
「高い宿は、アタシの手持ちじゃあちょっと厳しいのよ……。だからってジロウに奢ってもらうのは、流石にそろそろいい加減にしないとだし」
確かにこのところ飛竜便やら飲食代やら、殆ど俺が出している。
だが、それはあくまで俺が出すと言ったんだから、キャスが気にする事じゃない。
と、思うが……多分、そういう問題じゃない、というヤツなんだろう。
キャスとしては俺に寄生する様な真似は、矜持に反するんだろう。
ならば、俺がとやかく言う事じゃない。
キャスの意志を尊重しよう。
「分かった。じゃあ、明日の朝、ギルド支部で落ち合おう」
「オッケー」
キャスとも話がついたので、俺は1人その場を離れた。
久しぶりの1人、静かな気がするがこれはこれで悪くない。
とりあえず、シャルルさんの地図を頼りに目的の宿を探す。
多少、地図が大雑把だが、まあ、何とか分かる……。
少し苦労しつつ、俺はその宿を見つけたーー。
宿は大通りに面した一等地らしき場所に建っていた。
建物は煉瓦造りの4階建て、シャルルさんの所の3倍はありそうなデカさだ。
ギルドやダンジョンからは少し離れているが、町の門には近く、馬車の駐車場に厩も完備され、何台も馬車と馬が停められていた。
繁盛しているのは結構だが、果たして空き部屋はあるんだろうか?
意を決して、中に入ってみる。
「おお……」
思わず変な声が漏れてしまう……。
ゴージャス、というと少し大袈裟かも知れないが、一流ホテルという趣きのロビーだ。
大理石の様な白く光沢のある石畳の床にフロントまで続く絨毯、天井にはシャンデリア、壁には風景の絵画……。
ヤバい、場違いな場所にいる様な気がして落ち着かない……!
とはいえ、ここで怯んで帰ってしまったら、また宿を探し直さなければならない。
一先ず、ここで空き部屋を確認して、空いていたら泊まってみよう……。
心の奥に、満室である事を願う自分がいる……。
「いらっしゃいませ。ようこそ『金翼の大鷲亭』へ」
フロントで応対してくれたのは、スーツをピシッと着こなしたオールバックの初老紳士、右目に掛けた片眼鏡がお洒落だ。
「あの、ある人から紹介を受けて来たんですが、部屋は空いていますか?」
「ほう、紹介でございますか。失礼ですが、どなたの?」
「『赤毛の山猫亭』のご主人のシャルルさんに」
「ああ、あの方ですか。もしや、紹介状などお持ちではありませんか?」
「はい、これです」
懐にしまっていたシャルルさんの紹介状を取り出して見せる。
「拝見してもよろしいですか?」
「どうぞ」
差し出すと、恭しく両手で受け取る初老紳士。
彼は紹介状を開き、片手でモノクルを支えながら眺める。
「……はぁ、全くあいつは……」
すぐに読み終えたらしく、目を閉じて溜め息を吐いた。
「あの……?」
「おっと、失礼いたしました。問題ございません。すぐにお部屋をご用意いたします」
「あ、はい、よろしくお願いします」
どうやら泊めてもらえるらしい。
初老紳士は手許の宿帳を開き、何やら記入し始める。
しかし、紹介状を見た後の慣れているというか、諦めた様な反応……。
「あの、失礼かも知れませんが……こちらの宿とシャルルさんはどういったご関係か伺っても?」
「ああ、そうですね。申し遅れましたが、私、当宿の主オズワルド・オアガンと申します」
「えっ、貴方がここのご主人!?」
思わず驚いてしまう。
これだけの規模のホテルで、主人が自らフロントに立つのか?
「ほっほっほ、驚かれましたか?お客様は自らお出迎えしたい性分でして」
「な、なるほど……?」
よく分からないが、この初老紳士ーーオズワルドさんの趣味の様な事だと理解しておく。
「シャルルとはお互い駆け出しの頃からの付き合いでしてな」
オズワルドさん曰く、凡そ30年ほど昔ーーまだ『金翼の大鷲亭』が小さな宿だった頃、同じく駆け出しの冒険者だったシャルルさんが客として泊まったのを切っ掛けに付き合いが始まったそうだ。
不思議と気が合い、友人関係を築き、宿屋と冒険者という職の違いはあれど切磋琢磨し、互いに少しずつ成功を重ね、現在までその交友関係が続いているらしい。
「シャルルは引退後、駆け出しの冒険者を支援したいと言って格安の宿を開き、また自身の経験から若者達に冒険者の知識を教えていると聞いています」
「なるほど、そういう事でしたか」
言っていなかったが、俺を泊めなかったのはそういう理由もあったからか。
信用できるか、なんて俺の取り越し苦労だった様だ。
「……まあ、少々女性に対してだらしないというか、露骨というか、少々助平な点が玉に瑕ですが……それが原因でよく奥さんに折檻されていると聞きます」
「あー……」
なるほど、シャルルさんそういう感じか……。
「おっと、少々長話が過ぎましたな。お部屋をお取りいたしました。よろしければ、うちの者にご案内させますが、いかが致しましょう?」
「では、お願いします」
「畏まりましたーー君、お客様をお部屋までご案内しなさい」
「畏まりました。それでは、ご案内いたします」
そうして俺は、オズワルドさんに指示されたホテルマンの案内で、宿泊する部屋に通された。
当然の様に清潔で、広過ぎず狭過ぎず丁度良い広さ、快適に寛げる実に良い部屋だ。
話したオズワルドさんの人柄もあってか、最初あった場違い感はすっかり消えていた。
窓からは大通りがよく見え、景色も良い。
そんな寛げる部屋だからこそ、俺はすぐに眠気に身を任せた。
何しろ輩退治に酒をしこたま飲んだのだ、チートボディのおかげで泥酔こそしないものの、ほろ酔い加減はずっとあった。
「グゥ……」
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