我慢を止めた男の話

DAIMON

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第四十話『パーティー結成』

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「はぁ~……ふぅ」

 よく寝た……良いベッドだった。
 この世界に来てから、最高の熟睡を堪能した。
 宿代は結構だが、この快眠だけ見ても、その分の価値はあるかも知れない。
 『赤毛の山猫亭』の店主、シャルルさんの推薦は身贔屓ではなかった様だ。

「これは、モーニングも楽しみだな」

 昨日聞いた話で、この宿では希望すれば朝食モーニングのサービスが受けられる。
 併設の食堂で食べても良いし、ルームサービスにしてもいい――俺は事前にルームサービスを選択しておいた。
 ここの主人、オズワルドさんが信頼するお抱えのシェフが腕を奮った食事、期待が高まる。
 ちなみに昼食ランチはやっていないが、夕食ディナーはやっているらしい。
 別料金でそれなりのお値段と聞いたが、モーニングが美味ければディナーも試してみたい。

「よし、朝風呂に入ろう」

 流石と言うべきか、この部屋にも個室風呂が備えられている。
 本来はお湯を注文するシステムだが、俺は水の用意から湯沸かしまで魔法で自前で賄えるから楽だ。
 昨夜はベッドに引き込まれてそのまま寝入ってしまい、風呂に入っていなかった。

 という訳で、サッパリしたい。

「~♪」

 俺は朝風呂を楽しんだ――。



 その後、爽快な気分で部屋で寛いでいると、丁度良い時間にモーニングが運ばれてきて、舌を楽しませてもらった。
 焼きたてと思しきパン、コンソメスープ、葉野菜のサラダ、半熟ゆで卵にソーセージ、飲み物はオレンジジュース、食後に薫り高いコーヒー――俺も見知ったモーニングメニューだが、実に美味かった。
 日本のホテルのモーニングにも引けを取らない。
 魔法はあれど、各種技術レベルは間違いなく現代日本に劣る筈のこの世界で、これだけのクオリティを維持しているのは凄い事だと思う。
 この宿は当たりも当たり、シャルルさんに感謝だ。

 今夜ディナーも頂こう。
 それと出掛ける前に宿泊の延長を頼んでおいた。
 この町に滞在中はここを拠点にすると決めた。

「いってらっしゃいませ」

 オズワルドさんに恭しく見送られて出勤?
 まあ、とにかく冒険者ギルドへ向かう。

 町を歩いていてふと気になったのは、町の活気……ダンジョン都市『マーセン』に比べると、活気が程々なのだ。
 どこか中途半端というか、悲壮感はないものの、どこか煮え切らない感じで思わず首を傾げてしまう。

 やはり、ダンジョンの変化が町に影響しているのか……。
 昨日、ジョージ達を襲ったリザードマンの事もあって、どうにも気になってしまう。

 何か嫌な予感がする……。

 そんな事を考えながら歩いていると、あっという間にギルドに着いてしまった。

 軽く頭を振って、気を取り直してギルドに入る。

「あっ、ジロウ!こっちこっち!」

 中に入るとすぐに知った声が掛かった。
 振り向けば、キャスが手を振っていた。
 その側にジョージとリリーもいる。
 一緒に来たのか?

「おはようさん。3人で集まってどうしたんだ?」

 挨拶してから尋ねると、3人は顔を見合わせて頷き合う。
 なんだ?

「ねえ、ジロウ。相談なんだけど、この子達とパーティーを組まない?」

「え?」

 キャスからの提案に少し驚く。

「昨夜ちょっと話したのよ。この子達はまだ登録したての新米だけど、アタシらと4人パーティーを組めたら、お互いの探索が捗るんじゃないかと思ってね。どう?」

「ふぅむ……ジョージ達はいいのか?」

 俺が訪ねると、ジョージとリリーは揃って頷く。

「自分達だけでやっていきたい気持ちもあるけど、意地張って死んだら元も子もねえ。だからジロウさえ良かったら、オレ達を仲間に入れて欲しいんだ!」

「足手纏いにならない様に頑張ります!」

 2人とも、パーティーを組む事に積極的か。
 この2人ならいいか、俺と違って素直で真っ直ぐな性格をしている様だし、手を組んで不快にはならなさそうだ。

「分かった。じゃあ、この4人でパーティー組むか」

「ホントか!」

「ありがとうございます!ジロウさん!」

 揃って嬉しそうにしちまって、まあ……。
 ジョージ達の反応に、思わず少し気恥ずかしくなってしまう。

「んんっ……じゃあ、先ず今日の方針を決めるか」

 咳払いをして気を取り直し、今日の探索について話し合う。

 と言っても、俺達全員、ここのダンジョンについては触り程度にしか知らないので、手に入る地図や魔物の情報を元に奥を目指して進んでいくしかない。

 しかし、ただ只管進むのは賢くない。
 奥へ進めば進むほど、通路も複雑になり、地上に戻るのも相応の時間と体力が必要になる。
 すると日帰りで探索できる範囲は限られる。
 ならばとダンジョン内で寝泊まりしようとすれば、その為の装備と物資が必要になる。
 食料、薬、毛布……そういう野営用の装備を揃えていけば荷物が多くなり、重くなる。
 荷物が嵩張り、重くなれば冒険者の体力が削られる。

 仕入れた情報に寄れば、少し前ーーリザードマンを初めとした今まで居なかった魔物が出る様になる前は、ダンジョン内にギルドが設営した『休憩所』や『補給所』が機能していたが、何度か襲撃を受けて、今では撤収されてしまっているらしい。

 そうしたダンジョン内の様相の変化により、ダンジョンの探索は遅々として進まず、行き詰まりの現状……。
 冒険者達も、命の危険の割に大した稼ぎにならないとあっては、幾ら一攫千金の夢が眠るダンジョンと言えど意欲が上がらず、徐々に他の町に流れて行ってしまい、また探索も魔物討伐も進まなくなるという負の連鎖に陥りつつある……。

 俺がギルドに来る途中に感じた、町の活気の中途半端さはこれが原因だった様だ。
 しかし、だからと言って俺達がどうにかできる規模の話ではない。
 俺達にできるのは、精々探索して手に入れた物や情報をギルドに提出するぐらいーーつまりは一冒険者として、冒険者の仕事をこなすしかないという事だ。

「それじゃあ、今日の探索は夕方まで。この4人でどこまで行けるか試してみるって事でいいな?」

「オッケーよ」
「おう!」
「はいっ」

 異口同音に同意の声が上がったので、今日の探索方針は決定ーー準備に取り掛かる。

「んじゃ、足りない物を調達していくわよ」

 探索の装備類の準備は、キャスが取り仕切る。
 このパーティーでは、1番ダンジョン探索の経験が豊富だ。

 町に出て、店を巡り、必要な物をあれこれ買い込んでいく。
 その際の支払いは一先ず俺の財布からーーダンジョン探索の稼ぎが出たら、各々の取り分とはまた別に返してもらう事になっている。

「薬よし、食料よし、マップよし、装備よしーーん、オッケー、一通り揃ったわ。じゃ、それぞれ自分の荷物を持って」

 キャスの手際の良い仕切りで準備はスムーズに整い、それぞれが装備類が纏まったリュックサックを手に取り、背負う。

「おお?結構重いな。リリー、大丈夫か?」

「うん。軽くはないけど、このくらいなら大丈夫」

 ジョージがリュックサックを背負いながら、リリーを気遣う。
 こういう気遣いが自然に出来るのは好印象だ、ジョージは俺と違ってモテそうだな。

 さておき、準備が整ったらダンジョンへ向かうーー。

「よし。じゃあ隊列を確認するぞ」

 ダンジョン直前で各々と配置と役割を確認する。
 これもキャスの指摘から、流石は経験者。

 先頭はキャス、斥候として地形や魔物の確認を行う。
 その後ろにジョージ、松明を持ち、周囲を警戒しつつ、戦闘の際は前に出て前衛を担う。
 更にその後ろにリリーが付き、魔法による砲撃と後方支援。
 そして殿は俺、後方を警戒しつつ、パーティー全体を見てどこにでもカバーに入れる様に構える。

「よし、行くか」

「ちゃんと頭上も警戒するのよ。スライムとか虫とか蝙蝠とか、色々上から襲ってくるからね」

「おう!」
「はい!」

 なんだか、キャスが引率の先生みたいだ。

 さておき、ダンジョンアタック開始ーー上の階層、旧坑道部分はマップを見ながら寄り道せずに通り抜ける。
 このダンジョンのメインは、後になって繋がった『地竜の巣穴』である。
 ほぼ探索され尽くした旧坑道の階は、もう何もお宝の類など出ないし、マップも完成しているから稼ぎにならないのだ。

 そのマップによれば、一応地下5階層からが本格的に『地竜の巣穴』という事になっている。
 一応というのは、建物と違って明確に階層が分かれている訳でもなく、便宜上というか探索する上で大体の目安として何階層と呼んでいるだけだから、という事らしい。
 何しろ元が地竜が地下に掘った巣穴、真っ直ぐだったり、曲がりくねったり、上がったり下がったり……横穴、縦穴も多数あり、外の光が入らない地下でそんな規則性のない洞窟を闇雲に進んでいると、あっという間に現在位置や方向感覚を見失ってしまう。
 方位磁針などが使えない場合や、そもそも役に立たない場合もあり、ダンジョン探索の難しさを押し上げる要因になっている。

 そこに加えて、昨今の魔物の変化が厄介さに拍車を掛けるーー。

『ギシャァ!』

「うおお!!」

 早々に現れたリザードマンとジョージがぶつかる。

 巣穴に突入してすぐ、俺達は2体のリザードマンに遭遇し、戦闘になった。
 2体ぐらいなら、という事で戦闘はジョージとリリーに任せ、俺とキャスは手出しを控え、辺りの警戒に努める事にした。

 ジョージはリベンジとばかりに積極的に前に出て、リザードマンと斬り合う。
 リリーもそんなジョージを魔法で支援ーーリザードマン2体を相手に互角の戦いになっている。

 支援ありとはいえ、リザードマン2体を相手に戦えるジョージは、きっと良い剣の腕をしているんだろう。
 考えてみれば、初めて会った時もリザードマン3体を相手に追い込まれこそしていたが持ち堪えていたんだ。
 きっと元々の俺より強かろう。

「だりゃあッ!!」

『ギィィッ!?』

 お、1体倒した。

「ジョージ退いて!」

「あいよ!」

 リリーの言葉に即座に飛び退くジョージ。
 それと同時にリリーの杖の先から、石の矢?槍?とにかく細長く尖った岩が飛びーーリザードマンの頭を撃ち抜いた。

『ガ……ギ……』

 衝撃で後ろに倒れたリザードマンは、僅かに痙攣した後、動きを止めた。

「やったぁー!」

「よっしゃー!」

 戦闘終了ーー手を取り合って勝鬨を上げるリリーとジョージ。
 ゲームならファンファーレでも鳴っているところだな。

 しかし、そんな風に浮かれているとーー

『ギィアアー!!』

 洞窟の奥からリザードマンの増援が駆けつけてきた。
 数は4体、剣だけでなく棍棒持ちに、どこから手に入れたのか盾持ちもいる。

「げっ!?また来やがった!」

「アンタ達が浮かれて騒ぐからよ!」

 ジョージにキャスの叱責が飛ぶ。
 と、その時、右の横穴からも足音がーー

『ガアッ!』

 あちゃあ、更にリザードマン3体追加か。
 これはいかんな。

「横からも3体来てるぞ!奥の4体は俺が相手する!キャス!お前ら横穴の方頼む!」

「了解!ジョージ!リリー!行くわよ!ついてらっしゃい!!」

「おう!」
「はい!」

 慌ただしくポジションチェンジーー戦闘はまだまだ続く。

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