我慢を止めた男の話

DAIMON

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第四十一話『再会』

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「あぁ~……クタクタだぜ~……」

 ジョージがテーブルに突っ伏す。

 ビクスビーのとある酒場の一席を取った俺達ーー夕方というには早く、昼というには遅い、中途半端な時間……当初の予定よりずっと早く探索を切り上げ、地上に戻ってきた。

 『地竜の巣穴』に挑んだが、入り込んだ途端にリザードマンの襲撃に遭った。
 初めこそ問題なく倒せたが、次から次へと増援がやってきてキリがなく、殆ど奥へ進めず、已む無く戦略的撤退となった次第だ……。

「なのに……あんだけ戦って、稼ぎはこれっぽっち……」

 ジョージはテーブルの上に出した今日の報酬を指でツンツン突く。

 その額、銀貨7枚……。

 今日の戦果をギルドに報告したところ、一応、リザードマンの討伐報酬が出たのだが……何しろ状況が状況、一々倒したリザードマンを解体する余裕がなく討伐証明部位も素材も無し、専用の魔道具を使った報告の真偽確認によって出された為、大幅に減額されてしまったのだ。

「ダンジョンって、こんなに大変なの……?」

 相方の隣で、同じく突っ伏すリリーが呟く。
 が、その言葉にキャスが首を横に振った。

「いや、流石におかしいわよ。リザードマンがあんな数と頻度で襲ってくるなんて、普通ありえないわ」

 確かに……地下での戦いは俺もおかしかったと思う。
 最終的に何体倒したか正確には覚えてないが、少なくとも50体は倒した筈……それでも尚、増援が来ていたから、ダンジョンの奥にはまだまだリザードマンが潜んでいる筈だ。

 リザードマンが現れるようになったのは、最近ではあるが昨日今日の話ではない。
 皮などの素材が値崩れを起こしているぐらいだ……今日までに、俺達以外の冒険者・探索者に何百という数が倒されている筈……。
 なのに、俺達が奥にまるで進めないほどの襲撃に遭うなんて尋常じゃない。
 あれじゃあ、探索なんてとても出来やしない……。

 いや、まあ、俺1人なら力技で突破する事も不可能ではないと思うが、俺はそこまでしてダンジョンを踏破したい訳ではない。
 ビクスビーに来たのも、キャスの付き添いのようなものだ。

 パーティーを組んだ以上、キャス・ジョージ・リリーの3人が死んだり大怪我を負わないように全力を尽くすが、必要以上に出しゃばるつもりはない。

 まあ、それはそれとして……。

「明日からどうする?ダンジョン探索を続けるか?それとも何か別の依頼を受けるか?」

 目先の問題として、明日からの方針を決めなければならない。
 ダンジョンに潜るのは、今日の調子を続けてしまうと赤字続きでやがて干上がってしまうので、何かしら対策を立てなければならない。
 他の依頼を受けるのは、堅実ではあるがダンジョンがある町に来た意味がなくなる。

「う~ん……ダンジョン探索してえけど、このままじゃなぁ……」

「うん……お金無くなっちゃうよね……」

 切実な問題を口にするジョージとリリー。

 聞けば、一応少しだけだが、生活費として確保してある金はあるそうだ。
 キャスも同じく、俺が知らないところでギルドの依頼を受けてコツコツ稼いでいたらしく、資金には余裕があるとか。
 宿代はシャルルさんの宿なら格安なので、もう暫くは宿無しになる事はない。

 俺もまだまだ余裕だが、あまり長く赤字が続くと、俺の目標であるマイホーム購入資金が減ってしまうので困る……。

 さて、どうしたものか……。

「ーーやっぱり!ジロウの旦那!」

 なんだなんだっ?
 唐突な声に振り向くと、そこに見覚えのある男の姿があった。

「あっ、ヴィンセントじゃないか」

「おう!ご無沙汰!」

 現帝国政治中枢の不興を買い、汚れ仕事中の工作員として飛ばされた帝国騎士ヴィンセントーー少し前に別れた訳アリ男がそこにいた。



「見たとこ元気そうだな」

「はは、おかげさまで」

 キャス達に「ちょっとした知り合い」と濁して紹介し、別席に移ってヴィンセントと話す。

「あれから調子はどうだ?」

「今のところ上々だよ。各地での工作もまずまずの成果を上げているし、同士も着々と集まっている」

「ほーん」

 聞いておいて気のない返事を返して悪いとは思うが、戦争に関する話は関わりたくないので、右から左に流していく。
 ついでに頼んだ麦酒エールを喉に流す。
 肴は塩炒り豆で控えめに、何しろお楽しみの宿でのディナーが控えているのだから。

「旦那はダンジョン探索だよな……聞くが、順調かい?」

「……今日がほぼ初日だが、全然だな」

 1日リザードマンを斬りまくるだけで終わった……。
 そしてリザードマンは二束三文にしかならないという……。

 あれ?
 ちょっと待てよ……?
 嫌な閃きが走ったぞ……?

「……おい、ヴィンセント。お前がここに現れたって事は……地下の異常なリザードマンの群れは……」

「……」

 うわ、無言の真面目顔で頷きやがった……。
 嫌な閃きが的中してしまった……。

「……あれも帝国か」

「……ああ」

 畜生、またかよ……。
 俺の行く先々でちょろちょろ問題起こして邪魔しくさって……忌々しい……!
 苛立ちを流したくて麦酒を一気に飲み干す。

「ブハァ!はぁ~……って事は、今はダンジョンに潜らない方がいいのか」

 帝国が放ったリザードマンの群れ……探索の邪魔をするわ、稼ぎにならないわ、下手すりゃ帝国に目を付けられるわ(俺は既に手遅れかもだが)……相手にするだけ百害あって一利なし。
 これはもう、何日か様子を見たらキャス達に言ってウエストバリーへ向かって出発した方が得策かも……。

 ジョージとリリーはどうするかな?
 出発となったら、この町で別れるか……或いはこのままパーティーを組んだまま連れて行くか……。
 それも、何日か後に相談か。

「……旦那、折り入って相談なんだが……」

「断る」

 反射でヴィンセントの話を切って捨てた。
 この状況でヴィンセントから相談なんて、嫌な予感しかしない……。

「まだ何も言ってないぜ……?」

「どうせ『手を貸してくれ』とかそんな話だろ」

 戦争には関わりたくねえっての。

「いや、まあ、そうっちゃそうなんだが……何も『一緒に戦ってくれ』なんて言わねえって。旦那達は旦那達でダンジョン探索しててもらって構わねえ。ただ、探索のついでに頼まれてほしい事があるんだ」

「頼まれてほしい事……?」

「ああ」

 するとヴィンセントは懐から袋を取り出して、テーブルに置いた。

「コイツを、ダンジョン内に設置してもらいたいんだ」

 そう言ってヴィンセントが袋の中から取り出したのは、指1本分ほどの大きさと長さの青白く透き通ったガラスのような物体ーー形が長細い六角柱に整っているところを見ると、人工物のようだ。

「何だ、それ?」

「コイツは『魔物除けのクリスタル』、俺達の仲間の魔導研究者が開発した魔道具さ」

 聞けば、この『魔物除けのクリスタル』とやらを地面に埋める様に設置すると、クリスタルが地中の魔素を元に起動し、向こう1年間魔物が忌避する波動が放射されるという。

 ヴィンセントの話によれば、帝国内の戦争終結派の中に優秀な魔導研究者がいて、その人物が人々の日々の平穏を願って開発した魔道具らしい。

 その優秀な研究者は、他にも画期的で平和的な発明を幾つも手掛けているのだが、自分の研究を軍事転用される事を嫌い、戦争継続派に反発して中央から自ら離れ、隠れ潜んでいたのだそうだ。
 ヴィンセントらはツテを辿ってその人物を探して接触し、戦争継続派を打倒すべく協力を取り付け、この『魔物除けのクリスタル』を提供してもらったと説明した。

「コイツをダンジョン内に設置して、深部へのルートをこじ開け、そこで工作をしている帝国の手の者を倒すーー旦那にこのルート確保を手伝ってほしい」


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