我慢を止めた男の話

DAIMON

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第四十五話『港湾都市ウエストバリー』

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 キャス達と話を付けた翌朝――つまり今日、俺とヴィンセントはビクスビーの町を出発する。

 折角部屋を取った『金翼の大鷹亭』を途中キャンセルするのは無念だったが、また泊まりに来れば良いと割り切った。

 この無念も帝国の戦争継続派バカどもに叩きつけよう……。

「よし、行くか」

「よろしく頼む、旦那」

 という訳で、朝日も昇らない早朝、男2人で町を歩き出す俺とヴィンセント――昨日までと違って、何ともむさ苦しいパーティーになったものだ……。

 さておき、港湾都市ウエストバリーは目と鼻の先……と言っても徒歩だと3、4日掛かってしまうので、ここは便利な飛竜便を使う。
 今は金よりも時間が惜しいからな。

「ウエストバリーまで頼むよ」

「畏まりました。ではどうぞ、お乗りください」

 飛竜の発着所で、適当な飛竜便を捕まえて乗り込む。

「それでは出発いたしまーす!」

 騎手の手綱操作で、飛竜が飛び上がり、俺達はビクスビーから出発した。
 騎手の話では、1時間もあればウエストバリーに到着するという。

「「…………」」

 無言空間……風の音と時々飛竜の羽ばたきだけが響く。
 騎手がいる飛竜の上で、俺達の今後の行動について話をする訳にもいかないし、かと言って世間話をするにも話題がない……。
 それに、ヴィンセントはこれからの事を考えて緊張しているのか、固い表情だ……。
 多分、俺も似た様な顔をしているんだろう……。
 やると自分で決めた事だが、これから本格的、戦争に介入するのだ……幾らチートになったとはいえ、全く緊張しないというのは無理だ。

 ただ、緊張はしても必ずやってやるつもりではいる。
 帝国戦争継続派を、戦争を、このチートの限りを尽くしてブッ潰す――俺の平穏な暮らしを実現するために!



「間もなく港湾都市ウエストバリーに到着しま~す!」

 騎手の声に、進行方向の地上に目をやると、海に面した都市が見えた。
 遠目にもかなりの規模と分かる港と街並み、船も多数見える。

 そうして見ている間に、飛竜は都市に向かって降下――都市に隣接した飛竜発着所はかなりの広さ、王都の発着所より広い様に見える。
 人と物が頻繁に行き来する都市というのは、やはり栄えるものの様だ。

 そんな栄えた都市であり、王国の交易の要でもあるからこそ、帝国は目をつけている訳だ……。



「さて、これからどうする?」

 ウエストバリーの都市に入ったところで、ヴィンセントに尋ねる。

「この都市にも俺の仲間がいる。先ずは彼らと合流して、情報を共有したい」

 そう言ったヴィンセントについて行く。

 初め、さっさと港に行って俺が探知魔法で探せばいいと思っていたのだが、ヴィンセントから「それは駄目だ」と言われた。
 何故かと言うと、帝国の工作員の中に魔導士がいる場合、結界を張って地竜の遺産や自分達の存在を隠蔽している可能性が高く、更に外からの探知魔法を逆探知されてしまう恐れがある。
 すると、また転移魔法で逃げられる……だけならまだマシだが、あのダンジョンで見た様な化け物を待ちに放たれでもしたら甚大な被害が出る。
 危険は犯すべきじゃない……。

 という訳で、先ずは地道に帝国の偽装倉庫を探すところから始める――。

「それにしても、街の様子は普通だな」

 人通りも多く賑わっていて、人々の表情を見ても帝国が攻めて来るという感じはしない。

「そうだな……兵が増員されている様子もない。これは、俺達が送った情報は受け取ってもらえなかった様だな……」

 ヴィンセントの表情に落胆の影が差す。
 少しでも備えてもらえれば、という気持ちは分かる。
 しかし、どこの誰からとも分からない情報で軍を動かすのは難しいだろうとも思う。
 深読みで帝国の罠かもと捉える考えもあるだろうし、王国の対応を一方的に批難も出来ない。

 ともかく、俺は……いや、俺達は俺達のやるべき事に集中だ。

「旦那、こっちだ……」

 細い路地に入って行くヴィンセントに続く。

「ここだ……少し待ってくれ」

 細い路地を右に左にと曲がった先で、1軒の建物の裏口の前で止まる。
 どうやら、ここがアジトの様だ。
 ヴィンセントが『トトン、トン、トトン』と独特のリズムでノックすると、中から声が――

『竜……』

「筆」

 ヴィンセントがそう答えると、扉が開く。

「ヴィンセント……!無事だったか!」

「ああ、心配かけたな」

「構わんさ。っ、その男は……?」

 扉の中から顔を出したフードを被った男(声から推測)が、俺に気づいて警戒を見せる。

「心配は要らない。強力な助っ人だ」

「助っ人……?信用できるのか……?」

「信用した俺を信用してくれ」

「……そうか、分かった。さぁ、中へ」

「ああ。待たせたな旦那、入ってくれ」

 促され、扉の中へ――

「ん?」

 何だ?
 扉を潜った瞬間、何か変な感じが……。

 むっ、魔力の気配……これは結界か?

 結界の事はとりあえず置いておいて……俺とヴィンセントが入ると、フードの男が外を見回してから扉を閉めた。

「レナード、あいつらはどうしてる?」

「グラエムとソールは捜索に出ている。クラーク達は戻っているよ」

 先を歩くヴィンセントとフードの男に続いてアジトの中へ進んで行く。

 元々は民家だった様で、廊下からキッチンやらリビングやらが見えた。
 汚くはない……というか、物が最低限しかない様だ。
 いつでも移動できる様に、という事だろうか。
 さっきの話ぶりからして、他にも仲間がいる様だが……いや、いいか。
 行けば分かるし、正確な人数とかは知らなくても問題ない……って事にしておく。

 そうして考えている内に、廊下の先の一部屋に入る。
 樽や食器や食材が置かれた棚、それに薪とそれで使うだろう所謂釜戸……台所?

 怪訝に思い見ていると、レナードと呼ばれたフードの男が棚の中に手を入れ、何かゴソゴソと……。

 すると――

ズズズ……

「おお?」

 棚の一つが横にスライドした!
 その下から、梯子付きの穴が現れる――隠し通路とは、不謹慎だが面白い。

 ヴィンセントとレナードが慣れた感じで梯子を降りていく。
 俺も続いて降りる。

 降りた先の地下は床も壁も天井も石材で覆われた一本道の通路、人が1人2人やっとすれ違えるぐらいの狭さ……秘密基地感が増していく。
 正しく秘密基地なんだろうが、これは魔法で造ったんだろうか?
 それとも元々あった隠し地下室なのか?
 どうしても興味が湧いてしまう。

 平和になって自分の家を持てたなら、考えてみよう。
 その為にも先ずは、帝国を叩き潰して黙らせる事から……。

「――皆、今戻った」

「おお!ヴィンセント!」

 通路の先の部屋に入ると、ヴィンセントが彼の仲間達に囲まれる。
 人数は6人――その顔は一様に安堵の笑みで、ヴィンセントの無事を喜んでいる様だ。

「心配をかけてすまなかった。しかし、再会を喜んでばかりもいられない……悪い知らせだ」

『!』

 ヴィンセントの言葉に、緊張が走る。

「2日前の事だ。ダンジョンの町ビクスビー、そこが抱えるダンジョン『地竜の巣穴』で帝国の工作員が地竜の遺産を手に入れた。俺達はそれを妨害しようと仕掛けたが……返り討ちにあった」

「じゃあ、ノーマン達は……!?」

「……俺を残して、皆、殺られてしまった……すまん」

「ッ、くっ……!」

 仲間達が悔しさと悲しさに顔を歪ませる。

「……あのままなら俺も殺られていた。だが、この人のおかげで生き延びる事ができた」

 と、そこでヴィンセントが俺を手で示し、仲間達が一斉にこっちを見た。

「皆、紹介する。この人は冒険者ジロウ、前に話した俺の恩人だ」

「では、この男がヴィンセントやゴードン卿やカサンドラ嬢を……?」

「ああ、そうだ。つまり、俺達がこうして集まれたのも、この旦那のおかげって訳だ」

『…………』

 ヴィンセントの言葉を受けても、何人かは俺に懐疑的な視線を向けてくる。
 別にそれは構わない、俺は別に連中と仲良しになりたい訳じゃないからな。

 俺は俺のやると決めた事をやるだけだ。

「ヴィンセント、俺の事は適当でいい。それより例の件だ」

「あ、ああ、すまねえ、旦那」

 仲間達の視線に気付いた様で、ヴィンセントは気まずそうに言ってくる。
 俺は軽く手を振って「気にするな」と意思表示……。

「皆、聞いてくれ。急で悪いが、近々、動く」

『!!』

「というより、動かざるを得ない事態になった」

 そう前置きして、ヴィンセントは経緯を説明する。

 帝国工作員どもが地竜の遺産を手に入れた事……。
 その遺産がこのウエストバリーに運び込まれている可能性が高い事……。

 帝国艦隊が迫ってきている今、ここで何としても地竜の遺産を奪い返し、あわよくば帝国の工作員も倒しておきたい――そこで、ここに潜伏するヴィンセントの仲間達の情報が必要になる。

「……話は分かった」

 ここのリーダー格と思しきレナードが頷き、隣にいた男がテーブルに地図を広げた。
 どうやらこの都市の地図らしい。

「我々の調査で絞り込めている商会は3つ――バース商会、フォレスタ商会、ダルトン商会、それぞれ武器・防具、薬剤、食料と別々の分野で帝国と王国の間で貿易を行っている商会だ」

 戦時中なのに帝国と王国の間で貿易を……?

「この中で、1番怪しいのが食料を扱うダルトン商会だ」

「と言うと?」

「調べてみて分かったが、どの商会も他国を経由しているのは同じだが、ダルトン商会が経由している国の中に、『スレイター公国』が含まれている事が判明した」

 なるほど、それぞれの商会は直接帝国・王国間で貿易している訳ではなく、別の国を幾つか経由しているらしい。

 で、スレイター公国というのは……表向き独立国だが、裏では完全に帝国の属国なのだと。
 しかも帝国と地続き……これは黒だろう、という事だ。

「各商会の保有する倉庫の位置も、既に掴んでいる。どの商会もご丁寧に、名義を偽装していて、手間を取らされたがな……」

 レナードは、憎々しさを滲ませて地図を睨み下ろしながら言った。

「倉庫の位置が判明しているなら上々だ。もう時間がない、今夜、決行する」

 作戦決行を宣言するヴィンセント――判明している全ての倉庫に潜入し、地竜の遺産を発見次第、倉庫諸共破壊するという、かなり過激な作戦。
 敵の抵抗が予想され、間違いなく回収して運び出す暇がないので、やむを得ない措置という事らしい。

 ともかく……勝負は今夜だ――。

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