我慢を止めた男の話

DAIMON

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第四十六話『正面突破』

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 港湾都市ウエストバリーに到着したその日の夜ーー作戦決行に向け、俺とヴィンセントは港の倉庫が建ち並ぶエリアを歩いていた。

「もうすぐだ……」

 先導するヴィンセントが静かに、そして緊張した声色で言った。

 もうすぐ……つまり標的の倉庫が近いという事……。
 俺達が襲撃を担当するのは、1番怪しいと言われているダルトン商会の倉庫だ。
 ヴィンセントが「殺られた仲間の仇を討ちたい」と切望したのと、俺を助っ人として招いたという事で、俺と2人で作戦に当たる事になった。
 他は、ヴィンセントの仲間達が二手に分かれて担当している。

 帝国の工作員が潜んでいるとすれば、戦闘は不可避ーー要注意とされるのは、ビクスビーの『地竜の巣穴』でヴィンセントが遭遇した魔導士と思われる人間……そして、そいつが使った異質の魔法……あのドラゴン肉塊を作り出した魔法……。

 ヴィンセントが見た限りの話によれば、件の魔導士は赤黒い結晶を手に魔法を発動ーー魔導士の手から離れ浮き上がった結晶を中心に赤い魔法陣が現れ、そこから触手の様なものが伸び、近くにいたリザードマンや他の工作員を捕え、吸収し急速に膨張、醜悪な肉塊の姿に変わり果てたという。

「あの魔法が、あれっきりって事もないだろう……!他にも俺達が知らない、おかしな魔法を隠している可能性もある。油断はできん……」

 魔法っていうのはなかなか奥が深い……。
 思いもよらない効果を発揮する魔法が沢山ある様だ。
 しかも、そういう魔法を使うのは大体敵の方が上手という、嫌な法則がある様な気がする。

 相手の手札が分からないのは、敵である以上当たり前の事だ。
 自分が幾らチートでも、絶対勝てるとは考えない。
 だから俺は手痛い反撃を喰らう前に片付けてしまいたい。
 敵は瞬殺するに限る。

「ヴィンセント、敵か目的のブツの確認が出来たらすぐに下がるんだぞ。速攻で片付けたいからな」

「分かってるよ、旦那」

 ふむ、仲間の仇を取りたいと気負ってるかと思ったが……任務優先で気持ちを抑えているだけか?

 こういう時にどう声を掛けたものか分からない……気の利いた台詞なんか浮かびやしない。
 下手な慰めは逆効果っていうのがよくあるパターンだ……。

「……悪いな、旦那」

「うん?いきなり何だよ?」

「気を遣わせてるだろ、俺……」

「っ!?」

 えっ、嘘だろ!?
 心を読まれた!?

「旦那、アンタ時々結構分かりやすいぜ?直接口に出してなくても、雰囲気で分かったりするしな」

「そ、そうか……?」

「ああ。ハハ、なんか、そういうトコ見るとちょっと安心するよ」

「何がだ?」

「とんでもねえ力を持ってる旦那も、ちゃんと人間なんだって実感できる」

「……」

 何と返せばいいか分からない事を言われたな……。
 ちゃんと人間、か……自分でもちょっと思わないでもなかった。
 こんなチートを持ってしまった俺は、果たして真っ当な人間と言えるのだろうか、と……。

 だから、少し、ヴィンセントの言葉でホッと安心している自分がいる……。

「っと……旦那、見えたぜ」

「っ!」

 やれやれ、ホッとしたと思った矢先に……。
 緊張感を戻して、建物の陰からヴィンセントが指差す方を見る。

 特に特徴などはない、港の倉庫の1つ……一見、何の変哲もない様に見える。

 だが、俺の目には、その倉庫が薄い魔力の膜の様なもので全体を覆われているのが見えた。

 ここに来るまでに、他の倉庫で扉や窓が魔力を帯びているのを何度か見ている。
 ヴィンセント曰く、それは防犯の為の施錠や警報の魔法だろうとの事ーー問題の倉庫は、それが壁から屋根まで満遍なく覆っている。

 いや……よくよく目を凝らすと、波長の違う魔力が何層にも重なっているのに気付いた。
 あんな厳重な倉庫はあそこだけ……多分間違い無いだろう。

「多分当たりだな」

「分かるのか?旦那」

「ああ、倉庫全体を魔力の膜が覆ってるのが見える。しかも何重にも……」

「……やっぱり旦那はとんでもねえな」

「どういう意味だ?」

「普通、ちょっと見ただけで結界なんて分からねえって……」

「そうなのか?」

「そりゃそうさ。そんな離れ業、よほど熟達の魔導士でもなけりゃ無理さ」

 そういうものか、ちょっと目を凝らしただけで見えたのは、俺がチートだからか。
 今後は気をつけよう。

「まあ、それは今はどうでもいい。問題はどうやって仕掛けるかだ……ここから倉庫ごと消し飛ばせれば楽なんだが……」

「……旦那なら出来ちまいそうだが、流石にそれは無茶が過ぎるぜ。派手にやると騒ぎになるし、万が一逃げられたら今度こそ捕捉できなくなる」

「だよな、分かってるよ」

 雑な事をすると、どこかで取りこぼしが出た時に後々面倒になる。
 ここは確実性を取って、中に侵入して、この目でターゲットを確認しながら始末を付けるのが無難だろう。

 しかし、どの道侵入しようとすれば帝国の工作員の魔導士に気付かれる……どうしたものか?

 いや、待てよ……?

 何故気付かれてはいけない……?
 敵に逃げられるかも……?

 よくよく考えたら、たった2人の男がカチコミを掛けてきたところで、驚きこそすれ「ヤバい!逃げろ!」となるだろうか?

 仮にそうなっても……逃げる間もなく殲滅してしまえばいいのでは?
 それで騒ぎになって都市の衛兵が駆けつけて来る事態になったとして……俺達がすぐに逃げてしまえば大丈夫では?

 うん、そうだよな。
 その方が手っ取り早い。

「ヴィンセント、正面から行くぞ」

「え?ちょ、旦那!?」

 建物の陰から出て、標的の倉庫の入り口へ向かう。
 ヴィンセントが後ろから慌ててついて来る気配がした。

「待ってくれ、旦那……!いくら何でも無謀だ……!」

「心配するな、どうにでもなる」

 そう言いながら、俺自身とヴィンセントに防御魔法を掛けておく。
 どんな攻撃にもーーそれこそ地球の核ミサイルにすらビクともしない、最強の防御力をイメージして掛けた。
 衝撃も熱も毒も精神攻撃すら、害のあるものは全て弾く。
 これだけガチガチに固めておけば大丈夫だろう。

 これでも貫通してくる攻撃をしてくる奴がいるのなら、そんな奴には誰も敵わないだろう……。

「本当の本気かよ、旦那……?!」

 倉庫の入り口を前に、辺りを警戒しながらヴィンセントが狼狽える。

「本当の本気だよ。覚悟を決めな、行くぞ」

 扉のノブに手を掛ける。
 当然ながら鍵が掛かっていて動かない。
 しかし、鍵や扉には防御魔法の類は掛かっていないし、特別頑丈な金属が使われている訳でもないらしい。

 故にーー力尽くでこじ開ける。

バキャ!

「お邪魔」

「は?な……!?」

 強引に扉を開けて中に入ると、すぐ傍に見張りらしき髭面の男が椅子に腰掛けていた。

 どうせ侵入はもう結界でバレているだろうが、ここで騒がれても煩いーー気絶させたいが当て身の技術なんて無い。
 ので、ここでも魔法を使う。

「寝てろ」

「か……」

 グルンとヤバめな動きで白目を剥き、力なく倒れる男……。
 睡眠、というかこれは昏倒だな。
 適当にかけたから加減を間違えたか……。
 まあ一先ず死んではいないし、こいつもここにいる以上は帝国の息のかかった奴だろう。

 敵に容赦は要らないーー。

 入り口を潜った先は狭い小部屋になっていた。

「何だ?この部屋?」

「多分、侵入者対策だな。入る者をここで一度チェックするんだろう」

 ああ、空港の検閲みたいな感じか。
 なら俺達には関係ない、さっさと奥へ進む。

バキャ!
ボォォン!!

「うお!?」

 奥への扉をこじ開けた瞬間、目の前が炎と煙に覆われた。
 防御魔法のおかげで熱も衝撃もないが、音には驚いた。

「驚きましたねぇ、私の魔法を弾くとは……」

 煙の向こうから男の声ーー風魔法で煙を吹き飛ばすと、そこには如何にも怪しげな黒いローブの男が、たった1人で立っていた。
 痩せて血色の悪い肌、顔中にうねる様な刺青を入れていて気持ち悪い……。
 オマケに先に二対の角が生えた長細い顔の骨が付いた、見るからに禍々しい杖を構えている。

 邪悪な魔導士そのままの格好だ……。

「旦那!あいつだ!あいつがダンジョンにいた魔導士だ!」

「おや?どこの愚か者かと思えば、『地竜の巣穴』で邪魔をしようとした愚か者の1匹てはありませんか……生きていたとはこれまた驚いた」

 ヴィンセントを見た魔導士が、肩を揺らしながら嗤う。

「なるほど、なるほど……クックックッ、お仲間を見捨てて逃げ仰せた訳ですな。思ったよりは賢い様だ」

「ッ!貴様と一緒にするなッ!!」

 逆鱗に触れられ、怒りを露わにするヴィンセント。
 剣に手をかけ、今にも駆け出しそうなので止める。

「落ち着け、ヴィンセント。挑発だ」

「ッ、分かってる……分かっちゃいるが……こいつは……ッ!」

 仲間の仇……討たせてやりたい気もするが、それでヴィンセントが怪我をしたり、最悪死んだりしたら目も当てられない。
 ああいう輩は何をしてくるか分からないので、最速で始末するに限るーー確認が取れたら問答無用でさっさと殺るべきだった。

「おや、来ないの『バキン!!』ーー」

「黙ってくたばれ」

 瞬間、氷魔法を発動ーー以前に襲ってきた帝国の手先の偽商人を殺ったのと同じ手法、ただ相手があからさまに魔導士という事で威力は数倍上げ、更に奴に一点集中して放った。
 俺とヴィンセントに掛けたぐらい防御魔法があれば効かなかったかもしれないが、探知しても生命反応が確認出来ないので、抗えずに凍り死んだ様だ。
 多分、死んだ事にも気付いていまい……。

「…………」

「ヴィンセント」

「っ!ぅ、ぁ、お、おう……!」

 呆けていたヴィンセントが再起動する。

「トドメだ。叩き壊してやれ」

「え?」

「仲間の仇、取ってやれ」

「ッ!」

 ヴィンセントはハッとした後、鞘から剣を引き抜き、氷漬けの魔導士を睨む。

「……旦那、感謝するぜ」

「いらんよ」

 魔導士に歩み寄るヴィンセント。

「……くたばれ……!」

 間合いで足を踏み締め、剣を振りかぶり、真横に一閃ーー覆う氷ごと奴の首を刎ね飛ばした。

「ッ!!」

 そして、飛んだ首に早足で追い付き、思い切り踏み砕いた。

「……っ、みんな……!」

 ヴィンセントは徐に上を向く。

 背を向けているので、その顔がどうなっているかは、俺には分からない……。

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