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Prorouge「世界崩壊の後始末はどうも面倒なようで」
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物語の始まりはいつもとばっちりを受けて急な辞令を言い渡されるのが通例であったり、快晴の空の下で主観となる人物の小さな呟きが世界に木霊するとこから始まる。偏見はある。
それは前者であり、それは現代社会という世界から召喚された者達が描かれた物語の一小節である。今回召喚に応じたのは1人の少年で、見た目は中学は卒業し、高校デビューの為に髪を脱色させて赤茶色にさせ、七三分けで髪を少量で小分けに纏めて流している。服装はその学校指定の制服なのか、ブレザーを着用して、Yシャツの首元にはホック式のネクタイを着けている。召喚されて驚いて尻もちを着いてスクールザックがクッション代わりに背中で縮まっていた。
少年が辺りを見回すと、白いローブを着て木製の錫杖を携えている人達が息を切らしていたり、杖に体重を掛けて息も絶え絶えとなっている。他には倒れた人を担架に乗せて運搬している甲冑とも呼べる金属プレートを全身に包んだ兵士とも呼べる人達が騒々しく動いている。その最中、少年へと歩み寄る人物が複数いる。見事なブロンドヘアをキチリと結わえられ、季節ごとに決められているのか、薄ピンクや白を基調としたドレスを身にまとった女性が1人。他は全身を鎧で覆い、無精髭を丁寧に整えた壮年っぽい男性と痩せこけてはいるが、眼に力があるのか頑固で捻くれていそうな男性がいた。少年が察するに、目の前にる女性は定番のこの国のお姫様で傍に佇むのは師団長みたいな人となになに大臣とか呼ばれそうな人であろう、と。
「召喚に応じ、感謝致します。私はこの~~国の~~~です。突然のことで驚いたことでしょう。先ずは、貴方を召喚した理由とこの世界を説明致します。」
「私は~~~国第1師団の団長を務める~~~だ。少年、立てるかな?」
胸に手を当て、キビっと音が立つような佇まいで挨拶をし、少年に手を差し伸べる団長らしい人物。その後ろで大臣らしき人物が目尻を細め、唇を固く結びながら少年を見つめている。無愛想だな、と少年は思いながら差し出された手に応えて立ち上がった。改めて周りを見渡し、ここが少年が嘗て読んでいた漫画や小説の挿絵で見たことのある神殿の秘匿されている場所のようだ。
「貴方のお名前を伺ってもよいですか?」
お姫様が尋ねると、少年は自信満々に名乗りを上げた。
「俺は......。」
そこまでいけば後は流れに沿って、少年は国の選抜されたパーティーメンバーを引き連れ、世界を征服せんと魔族を従えた魔王を討滅する艱難辛苦の旅へと発ったのだ。召喚された者ということもあり、世界を支える柱の一柱である女神より、類稀なる能力を授けられている。魔に対して特攻力を上げる力。邁進する都度、率いる仲間にバフを与える力。進むべき道を選ぶ力。そして、その道中でも能力を身に着けた末に魔王のいる玉座へと辿り着いた。
魔王らしき人物はローブで身体を覆い、顔すら窺えぬ状態であったが放たれる力は他の魔族の追随を許さないほどの威力を誇っており、少年が正面で耐え凌ぐ間にパーティーメンバーは身体が吹き飛ばされないように床に身体を沈めるばかりだ。威力がそこまで届いていない後方より、魔力と貫通力を纏わせた鏃を番い、射ち放ったレンジャーが魔王の気を逸らし、チャンスと思った少年は勢いのある剣技を魔王に叩き込んだ。剣技の威力で魔王を覆っていたローブが吹き飛ばされ、魔王が隠していた姿が露わになった。その姿を見た少年は固まり、魔王をずっと凝視していた。おかしな空気を感じたパーティーメンバーと魔王は少年を見る。対して少年はまじまじと魔王を見る。この世界では結構珍しい黒い髪を垂れ流し、はち切れんばかりで豊満な胸は零れないように服で締め付けているが駄目そう。下半身も隠れていたスラッとしたラインが上半身に強調されて魅力を感じる。少年がいた世界でも有名な姉妹のスタイルが思い浮かぶのが今、目の前にいるのだから自然と身体が固まって視線が定まるのも仕方がない。後方でパーティーメンバーが声を上げて少年を呼んでいるが、少年は聴こえていないのか、徐ろに少年は魔王へ歩み寄る。迫る少年を迎撃する為に魔王も構えて魔法を放つが、魔に対しての特攻が極限まで達している少年は手で軽く弾いてしまう。遂に魔王の眼前まで達した。魔王も自身の死を感じたのか、腰を下ろして静かに目を閉じる。その身体は僅かに震えていた。魔王の魅惑的な肢体に夢中になっていた少年は漸く魔王の姿を見て、拳を握って顔を翳らせる。
「(なんでこんな綺麗な人を殺さなきゃなんないんだ!この世界を創った奴は馬鹿だ!!そも、あの女神も胡散臭いと思ってたんだ)」
目が据わり始めた少年をパーティーメンバーは知らず、今の内に静かになった魔王を殺さなければと魔法と遠距離攻撃を構える。攻撃の気配に気付いた少年はパーティーメンバーに振り返り、能力を振るい、パーティーメンバー達を吹き飛ばした。何が起きたか分からないまま壁に打ち付けられた仲間を気にせずに魔王に向き直り、魔王の前で膝を着いて手を取る。魔王も頭にハテナを浮かべながら目を開く。
「貴女に掛かる全てを俺が払う。だから、安心してくれ!!」
二カッと歯を見せて微笑む少年は魔王の手を放すやいなや、培ってきた能力の内にある転移を行使し、何処かへと飛んでいった。口をポカンとして魔王は虚空を見つめ、吹き飛ばされた少年の仲間が口々に疑問を呈するが、そのまま気絶していってしまった。
場所は変わり、空の遥か上に存在する神々が居るであろう場所。その一画で少年達を見守っていた女神が一柱。女神は疑問に思った。元来、創造主が構築したシステム。勇者が魔王を討滅するか魔王が勇者を討滅して世界を滅ぼすという起点を以て、物語として完成し、この世界を支えるエネルギーとして還元される。そうなる筈であった。
「おい、女神。」
不意に声を掛けられた女神は振り向きざまにお腹に重いものが突き刺さるのを感じた。衝撃と共に吐血し、声の主を見る。そこには目が据わった少年がおり、手にはお腹に突き刺さした剣と血飛沫があった。
「俺を喚んで、あの子を殺そうとしたんだろうがそうはいかないからな!!」
「ど、どうして」
「そんなん惚れたに決まってるからだろ!なんだよあの美貌!黒髪美人でボンキュッボンで!!仲間でもあんな身体いなかったんだよ!」
旅程で色仕掛けもあっただろうが、少年のお眼鏡に掛かる人はいなかったようで、爆発したのが魔王の肢体だったのだろう。自分語りに浸りながら話している少年を前に女神は既に事切れて、端から光の粒子へと消えていっている。
そこで世界は急激に静まり返った。
少年が拳を握り目を閉じて語っているであろう口元の動作が停まり、地上で魔王が変わらずにポカンとして、少年の仲間達も停まる。世界は急速に閉じようとしていた。その中、完全に消えたのは女神だけであった。
ーーー『システムより警報。未曾有のエラーを検知。秘匿世界魔法世界5分前仮説が発動されます。各柱は物語の修正せよ。繰り返す、システムより......』ーーー
世界が閉じたと同時に、天上の神々は騒々しく討論をしている。議題はこうだ。
【異世界勇者がシステム通りの動きをせずに世界を崩壊に導いてしまった件】
当然のことながら、世界を創った創造主から創られた神々もシステム通りにしか対応していないので、初めての出来事に知性が芽生えたのだ。主神格の男神が喉を唸らせながら立派な顎髭をなぞる。
「我々はシステムの枠から外れ、こうしてはっきり思考出来るようになったとはいえ今の世界を還元出来る訳では無いからな」
全身が炎色の小柄な女神もイライラした表情をしながらボヤく。
「あんのガキやってくれたもんだな?俺らが各所で加護を与えてやったってのに!!ッダーくそ!!」
神々を囲む空間に女神が拳を振り下ろし、熱い風が吹き荒ぶ。が、直ぐ様冷たい風が相殺すると、青白い女神と緑々した男神が呟く。
「ここで八つ当たりしても無意味ですよ」
「そうそう、ってか、ここに皆集まっても創造主様に委ねるしかなくね?世界を循環させるシステムを構築するのに俺達は重要な柱でしかないからさ~」
「母は哀しい、世界を崩され、母の仔らが育んだ命が、歴史が......アアアアァ......」
3柱が喋る中、巨躯を震わせる龍が嘆きを零す。龍の傍らで慰めるように大柄な人魚が唄声を披露している。騒々しくなってきた所で、黒い波動が音を収音して場を黙らせた。悪魔を彷彿させた刺々しい黒光りの角を至る所から生やしている少女が黒い板に座ってキョロキョロと周りの神々を一瞥する。
「愚痴を零すより利のある論を講ずべき」
「魔神の言う通り。善神、炎神、水神、木神、地神、海神、魔神、そしてこの時神が一度に会するこの時は貴重だ。」
曇った眼鏡をクイッと掛け時神が一言。曇った原因は炎神と水神による湿度の高い風に当てられたからであろう。と、善神と呼ばれた主神格の男神が喉を鳴らし、一同の視線を集める。
「我々は兎角、この事態を修正する為の案を創造主様が与えて下さらなければ世界に干渉することが出来ぬ。もう少し待つしかないだろう」
皆総じて喉を唸らし、一画の建物を見やる。世界を創設した主が居るであろう建物。ローマ様式を思わせる神々の建築物の中で異質な日本建築様式の平屋がこぢんまりと建立している。ただ、建物内は異質な空間に繋がっており、薄暗いブルーライトの光はある人物を照らしている。頭と呼べる部分を抱えて悩ましげな声を呟いている。
「マジありえない......そこで女神ちゃんぶっ刺して今回の魔王を雄弁に語るとか。駒もぶち撒けて見限るし、最近の学生って思考ぶっ飛んでんのか!?」
神々から創造主と呼ばれている人物は異世界人であった。何世代にも渡りこの世界の小説を書きなぞらえ、脱稿した小説は電子データから世界に放流され、熱エネルギーに還元されて世界を循環させている重要な人物。始祖とも呼ばれる神から現代から喚ばれて、世界の循環を構築させるのに様々なプログラミングをした結果が今のシステムである。が、破綻させられた結果、幾つもの重大な障害が発生。修正する間にシステムがダウン、観測された未来は少年が魔王と結婚した後に少年の仲間は隷属され、世界を形成した神々に反旗を翻す。その合間に創造主である自身もついでに殺害され、殺害された後は真っ暗な闇が一瞬で広がるといったディストピアになる。
「俺は殺されたくない、それは第一。でも、折角シーちゃんと創り出した世界をあんなことで壊されたくはない」
シーちゃんこと始祖の神と共に織り成した数々のアイデアを重ねていった世界観を忘失させない為にブルーライトの画面に文字列を叩き込む。
「先ずはこの未来までの回路をカット。そんで、このシステム自体を憧れシステムに転換すれば......」
「創造主より通信がある、繋げる。」
魔神のトゲトゲが震えて電子光線を4点から発する。卓上に四方変形のモニターが映し出されると創造主のシルエットだけが顕れる。
「覚醒した神々よ。」
「はっ!」
創造主の声を聴くと、神々はそれぞれの敬意で創造主に顔を向ける。地神である龍は首をもたげ、海神である魚人は両手を重ねて祈るような仕草をする。他の人型の神々は起立して胸元に手を置く。
「今日に至るまでにシステムで受動的に運営を継続してきたことに感謝する。さて、件の勇者による蛮行によって脱稿されたであろうフィクションは完全に頓挫してしまい、世界が崩壊する未来が推定された。よって、今現在進行しているこの世界での道程を削除することを決断した。」
「あぁ......母は哀しい。育まれた母の仔らが消え逝くのは。」
「アアアアァ......」
地神と海神の慟哭が聴こえるが、創造主は続ける。
「勇者と魔王の独自のシステムは始祖との考案だったが、この世界全体を修復する為には外のシステムを取り込む必要が出来た。よって、自然淘汰による生命の輪廻が始動する。地神、海神の育んだ生命は正しく循環されるので悄気る必要はない」
生態系のシステムが順よく廻されることで、本来世界の消失で生態系そのものに連なる生命一瞬で消え去るのだが、バグを消したことで生態系が再稼働、本来の時間の概念が適用される。つまり、創造主達がシステムを再構築した後に魔法を解除すると、世界の歯車が稼働し、小説が現実となるのだ。そのことに気付いた地神と海神はホッとしたような顔をしている。
「創造主様、付かぬことを伺います。その外のシステムというのは...?」
「VRMMORPGという現代の技術を駆使された遊戯のシステムだ。」
「ぶぃーあーる...?」
「よくわからないが、それを入れれば世界がなおんだろ?」
「そうなれば俺らとしても渡りに方舟ですが、果たしてどうなることやら。」
「創造主様に任す。」
「私も賛同致します。しかし、バグによって我々の内の一柱、運命神が喪われたことについてはどう致しましょうか。」
時神が勇者に討たれた神について議題に挙げる。同上の件に納得や不安の表情を浮かべる神々。そこは、と創造主が告げる。
「運命神のデータをデバッグしてもバグと切り離す事が不可能だった。なので、権能諸々のデータだけを抽出して私の分身にローディングさせる。」
と、話している途中で神々の前に幾何学模様の正方形が多分に生成され、正方形から脚、胴体、腕、頭部と人形のパーツが2つ分誕生した。次いで、接続部の関節を生やして合体させ、頭部に白と黒の髪を生やした。
「運命神は現代から召喚された者にスキルを与えて此方に送迎する任をしていたが、この分体にも担ってもらう」
顔の窪みに眼球が生成されたのか、僅かな膨らみが表れると、ゆっくりと目蓋を開いた。
「さぁ、世界を治そう。」
それは前者であり、それは現代社会という世界から召喚された者達が描かれた物語の一小節である。今回召喚に応じたのは1人の少年で、見た目は中学は卒業し、高校デビューの為に髪を脱色させて赤茶色にさせ、七三分けで髪を少量で小分けに纏めて流している。服装はその学校指定の制服なのか、ブレザーを着用して、Yシャツの首元にはホック式のネクタイを着けている。召喚されて驚いて尻もちを着いてスクールザックがクッション代わりに背中で縮まっていた。
少年が辺りを見回すと、白いローブを着て木製の錫杖を携えている人達が息を切らしていたり、杖に体重を掛けて息も絶え絶えとなっている。他には倒れた人を担架に乗せて運搬している甲冑とも呼べる金属プレートを全身に包んだ兵士とも呼べる人達が騒々しく動いている。その最中、少年へと歩み寄る人物が複数いる。見事なブロンドヘアをキチリと結わえられ、季節ごとに決められているのか、薄ピンクや白を基調としたドレスを身にまとった女性が1人。他は全身を鎧で覆い、無精髭を丁寧に整えた壮年っぽい男性と痩せこけてはいるが、眼に力があるのか頑固で捻くれていそうな男性がいた。少年が察するに、目の前にる女性は定番のこの国のお姫様で傍に佇むのは師団長みたいな人となになに大臣とか呼ばれそうな人であろう、と。
「召喚に応じ、感謝致します。私はこの~~国の~~~です。突然のことで驚いたことでしょう。先ずは、貴方を召喚した理由とこの世界を説明致します。」
「私は~~~国第1師団の団長を務める~~~だ。少年、立てるかな?」
胸に手を当て、キビっと音が立つような佇まいで挨拶をし、少年に手を差し伸べる団長らしい人物。その後ろで大臣らしき人物が目尻を細め、唇を固く結びながら少年を見つめている。無愛想だな、と少年は思いながら差し出された手に応えて立ち上がった。改めて周りを見渡し、ここが少年が嘗て読んでいた漫画や小説の挿絵で見たことのある神殿の秘匿されている場所のようだ。
「貴方のお名前を伺ってもよいですか?」
お姫様が尋ねると、少年は自信満々に名乗りを上げた。
「俺は......。」
そこまでいけば後は流れに沿って、少年は国の選抜されたパーティーメンバーを引き連れ、世界を征服せんと魔族を従えた魔王を討滅する艱難辛苦の旅へと発ったのだ。召喚された者ということもあり、世界を支える柱の一柱である女神より、類稀なる能力を授けられている。魔に対して特攻力を上げる力。邁進する都度、率いる仲間にバフを与える力。進むべき道を選ぶ力。そして、その道中でも能力を身に着けた末に魔王のいる玉座へと辿り着いた。
魔王らしき人物はローブで身体を覆い、顔すら窺えぬ状態であったが放たれる力は他の魔族の追随を許さないほどの威力を誇っており、少年が正面で耐え凌ぐ間にパーティーメンバーは身体が吹き飛ばされないように床に身体を沈めるばかりだ。威力がそこまで届いていない後方より、魔力と貫通力を纏わせた鏃を番い、射ち放ったレンジャーが魔王の気を逸らし、チャンスと思った少年は勢いのある剣技を魔王に叩き込んだ。剣技の威力で魔王を覆っていたローブが吹き飛ばされ、魔王が隠していた姿が露わになった。その姿を見た少年は固まり、魔王をずっと凝視していた。おかしな空気を感じたパーティーメンバーと魔王は少年を見る。対して少年はまじまじと魔王を見る。この世界では結構珍しい黒い髪を垂れ流し、はち切れんばかりで豊満な胸は零れないように服で締め付けているが駄目そう。下半身も隠れていたスラッとしたラインが上半身に強調されて魅力を感じる。少年がいた世界でも有名な姉妹のスタイルが思い浮かぶのが今、目の前にいるのだから自然と身体が固まって視線が定まるのも仕方がない。後方でパーティーメンバーが声を上げて少年を呼んでいるが、少年は聴こえていないのか、徐ろに少年は魔王へ歩み寄る。迫る少年を迎撃する為に魔王も構えて魔法を放つが、魔に対しての特攻が極限まで達している少年は手で軽く弾いてしまう。遂に魔王の眼前まで達した。魔王も自身の死を感じたのか、腰を下ろして静かに目を閉じる。その身体は僅かに震えていた。魔王の魅惑的な肢体に夢中になっていた少年は漸く魔王の姿を見て、拳を握って顔を翳らせる。
「(なんでこんな綺麗な人を殺さなきゃなんないんだ!この世界を創った奴は馬鹿だ!!そも、あの女神も胡散臭いと思ってたんだ)」
目が据わり始めた少年をパーティーメンバーは知らず、今の内に静かになった魔王を殺さなければと魔法と遠距離攻撃を構える。攻撃の気配に気付いた少年はパーティーメンバーに振り返り、能力を振るい、パーティーメンバー達を吹き飛ばした。何が起きたか分からないまま壁に打ち付けられた仲間を気にせずに魔王に向き直り、魔王の前で膝を着いて手を取る。魔王も頭にハテナを浮かべながら目を開く。
「貴女に掛かる全てを俺が払う。だから、安心してくれ!!」
二カッと歯を見せて微笑む少年は魔王の手を放すやいなや、培ってきた能力の内にある転移を行使し、何処かへと飛んでいった。口をポカンとして魔王は虚空を見つめ、吹き飛ばされた少年の仲間が口々に疑問を呈するが、そのまま気絶していってしまった。
場所は変わり、空の遥か上に存在する神々が居るであろう場所。その一画で少年達を見守っていた女神が一柱。女神は疑問に思った。元来、創造主が構築したシステム。勇者が魔王を討滅するか魔王が勇者を討滅して世界を滅ぼすという起点を以て、物語として完成し、この世界を支えるエネルギーとして還元される。そうなる筈であった。
「おい、女神。」
不意に声を掛けられた女神は振り向きざまにお腹に重いものが突き刺さるのを感じた。衝撃と共に吐血し、声の主を見る。そこには目が据わった少年がおり、手にはお腹に突き刺さした剣と血飛沫があった。
「俺を喚んで、あの子を殺そうとしたんだろうがそうはいかないからな!!」
「ど、どうして」
「そんなん惚れたに決まってるからだろ!なんだよあの美貌!黒髪美人でボンキュッボンで!!仲間でもあんな身体いなかったんだよ!」
旅程で色仕掛けもあっただろうが、少年のお眼鏡に掛かる人はいなかったようで、爆発したのが魔王の肢体だったのだろう。自分語りに浸りながら話している少年を前に女神は既に事切れて、端から光の粒子へと消えていっている。
そこで世界は急激に静まり返った。
少年が拳を握り目を閉じて語っているであろう口元の動作が停まり、地上で魔王が変わらずにポカンとして、少年の仲間達も停まる。世界は急速に閉じようとしていた。その中、完全に消えたのは女神だけであった。
ーーー『システムより警報。未曾有のエラーを検知。秘匿世界魔法世界5分前仮説が発動されます。各柱は物語の修正せよ。繰り返す、システムより......』ーーー
世界が閉じたと同時に、天上の神々は騒々しく討論をしている。議題はこうだ。
【異世界勇者がシステム通りの動きをせずに世界を崩壊に導いてしまった件】
当然のことながら、世界を創った創造主から創られた神々もシステム通りにしか対応していないので、初めての出来事に知性が芽生えたのだ。主神格の男神が喉を唸らせながら立派な顎髭をなぞる。
「我々はシステムの枠から外れ、こうしてはっきり思考出来るようになったとはいえ今の世界を還元出来る訳では無いからな」
全身が炎色の小柄な女神もイライラした表情をしながらボヤく。
「あんのガキやってくれたもんだな?俺らが各所で加護を与えてやったってのに!!ッダーくそ!!」
神々を囲む空間に女神が拳を振り下ろし、熱い風が吹き荒ぶ。が、直ぐ様冷たい風が相殺すると、青白い女神と緑々した男神が呟く。
「ここで八つ当たりしても無意味ですよ」
「そうそう、ってか、ここに皆集まっても創造主様に委ねるしかなくね?世界を循環させるシステムを構築するのに俺達は重要な柱でしかないからさ~」
「母は哀しい、世界を崩され、母の仔らが育んだ命が、歴史が......アアアアァ......」
3柱が喋る中、巨躯を震わせる龍が嘆きを零す。龍の傍らで慰めるように大柄な人魚が唄声を披露している。騒々しくなってきた所で、黒い波動が音を収音して場を黙らせた。悪魔を彷彿させた刺々しい黒光りの角を至る所から生やしている少女が黒い板に座ってキョロキョロと周りの神々を一瞥する。
「愚痴を零すより利のある論を講ずべき」
「魔神の言う通り。善神、炎神、水神、木神、地神、海神、魔神、そしてこの時神が一度に会するこの時は貴重だ。」
曇った眼鏡をクイッと掛け時神が一言。曇った原因は炎神と水神による湿度の高い風に当てられたからであろう。と、善神と呼ばれた主神格の男神が喉を鳴らし、一同の視線を集める。
「我々は兎角、この事態を修正する為の案を創造主様が与えて下さらなければ世界に干渉することが出来ぬ。もう少し待つしかないだろう」
皆総じて喉を唸らし、一画の建物を見やる。世界を創設した主が居るであろう建物。ローマ様式を思わせる神々の建築物の中で異質な日本建築様式の平屋がこぢんまりと建立している。ただ、建物内は異質な空間に繋がっており、薄暗いブルーライトの光はある人物を照らしている。頭と呼べる部分を抱えて悩ましげな声を呟いている。
「マジありえない......そこで女神ちゃんぶっ刺して今回の魔王を雄弁に語るとか。駒もぶち撒けて見限るし、最近の学生って思考ぶっ飛んでんのか!?」
神々から創造主と呼ばれている人物は異世界人であった。何世代にも渡りこの世界の小説を書きなぞらえ、脱稿した小説は電子データから世界に放流され、熱エネルギーに還元されて世界を循環させている重要な人物。始祖とも呼ばれる神から現代から喚ばれて、世界の循環を構築させるのに様々なプログラミングをした結果が今のシステムである。が、破綻させられた結果、幾つもの重大な障害が発生。修正する間にシステムがダウン、観測された未来は少年が魔王と結婚した後に少年の仲間は隷属され、世界を形成した神々に反旗を翻す。その合間に創造主である自身もついでに殺害され、殺害された後は真っ暗な闇が一瞬で広がるといったディストピアになる。
「俺は殺されたくない、それは第一。でも、折角シーちゃんと創り出した世界をあんなことで壊されたくはない」
シーちゃんこと始祖の神と共に織り成した数々のアイデアを重ねていった世界観を忘失させない為にブルーライトの画面に文字列を叩き込む。
「先ずはこの未来までの回路をカット。そんで、このシステム自体を憧れシステムに転換すれば......」
「創造主より通信がある、繋げる。」
魔神のトゲトゲが震えて電子光線を4点から発する。卓上に四方変形のモニターが映し出されると創造主のシルエットだけが顕れる。
「覚醒した神々よ。」
「はっ!」
創造主の声を聴くと、神々はそれぞれの敬意で創造主に顔を向ける。地神である龍は首をもたげ、海神である魚人は両手を重ねて祈るような仕草をする。他の人型の神々は起立して胸元に手を置く。
「今日に至るまでにシステムで受動的に運営を継続してきたことに感謝する。さて、件の勇者による蛮行によって脱稿されたであろうフィクションは完全に頓挫してしまい、世界が崩壊する未来が推定された。よって、今現在進行しているこの世界での道程を削除することを決断した。」
「あぁ......母は哀しい。育まれた母の仔らが消え逝くのは。」
「アアアアァ......」
地神と海神の慟哭が聴こえるが、創造主は続ける。
「勇者と魔王の独自のシステムは始祖との考案だったが、この世界全体を修復する為には外のシステムを取り込む必要が出来た。よって、自然淘汰による生命の輪廻が始動する。地神、海神の育んだ生命は正しく循環されるので悄気る必要はない」
生態系のシステムが順よく廻されることで、本来世界の消失で生態系そのものに連なる生命一瞬で消え去るのだが、バグを消したことで生態系が再稼働、本来の時間の概念が適用される。つまり、創造主達がシステムを再構築した後に魔法を解除すると、世界の歯車が稼働し、小説が現実となるのだ。そのことに気付いた地神と海神はホッとしたような顔をしている。
「創造主様、付かぬことを伺います。その外のシステムというのは...?」
「VRMMORPGという現代の技術を駆使された遊戯のシステムだ。」
「ぶぃーあーる...?」
「よくわからないが、それを入れれば世界がなおんだろ?」
「そうなれば俺らとしても渡りに方舟ですが、果たしてどうなることやら。」
「創造主様に任す。」
「私も賛同致します。しかし、バグによって我々の内の一柱、運命神が喪われたことについてはどう致しましょうか。」
時神が勇者に討たれた神について議題に挙げる。同上の件に納得や不安の表情を浮かべる神々。そこは、と創造主が告げる。
「運命神のデータをデバッグしてもバグと切り離す事が不可能だった。なので、権能諸々のデータだけを抽出して私の分身にローディングさせる。」
と、話している途中で神々の前に幾何学模様の正方形が多分に生成され、正方形から脚、胴体、腕、頭部と人形のパーツが2つ分誕生した。次いで、接続部の関節を生やして合体させ、頭部に白と黒の髪を生やした。
「運命神は現代から召喚された者にスキルを与えて此方に送迎する任をしていたが、この分体にも担ってもらう」
顔の窪みに眼球が生成されたのか、僅かな膨らみが表れると、ゆっくりと目蓋を開いた。
「さぁ、世界を治そう。」
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高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
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嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
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ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
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【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
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転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
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ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
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