テイムズワールド

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ダンジョン都市 アビスブルク

新たな守護獣

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 開かずのダンジョンと呼ばれた、採掘のダンジョンに降りてきた。降りるまでにもひと悶着あった。ダンジョンに入れなくなったので炭鉱を管理している職員や犯罪者は撤退し、魔法陣で動いていたロープウェイの魔力供給をしていた犯罪者達は他のダンジョンの魔力供給に回されてしまった。
 そこで、ロープウェイ乗り場に放置された鉱石運搬用の荷車をユニに繋いで運んでもらう事にした。

「これ勝手に使っていいの?」
「あとで戻せばいいだろう」
「誰も見てないし野晒になってるんだから、貰っていっても平気でしょ」
「盗人扱いされたくなけりゃな」

 と言う事で拝借した。ユニが進むと木々が避けてくれるので、一直線に谷底まで駆け抜ける。

「ひぃいいい!怖!怖い!お、落ちる!」
「アタシが引いてるのよ。揺れてないでしょ?」
「だな。イクトよ、落ち着け」
「ギャアアアァアア!!!」




 慣性の法則は全く無く、急ブレーキをかけたはずなのに、荷車から落下する事も衝撃が来る事もなく止まった。

「はい、到着よ」
「あ、ありが、ががが」
「ユニ」

 ワッサンはユニに頷き、聖女に戻ったユニは、んーっと伸びをしてイクトを呆れた目で見た。荷車にしがみついてゼエゼエ肩で息をしているイクトは、安全装置の無いジェットコースターに乗ったらこうなるだろうと思って顔を白くしていた。

「プフーン?この程度でへばってちゃダンジョンで生き残れないわよ?」
「入れれば、だがな」

 腰に手を当ててダンジョンの入り口を呆れた顔で眺めているワッサンは鼻で笑った。


 谷底の崖に、大きな扉が付いているはずのダンジョンの入り口は、ゴツゴツした大岩で塞がれていた。

「なんで塞がれてんだ?」
「ブルルン、確かにこれは開かずって呼ばれそうだけど、退ければいいのに」
「へぇ、はふぅー。ポーチに入れれば良いでしょ」

 イクトはまだ顔が青白いが、震える脚をパシンと叩いて岩に触れた。しかし、岩は吸い込まれず、その場に残ったままになった。分からない時は神眼ジャッジ先生に聞いてみよう。

「ん?何でだ?神眼ジャッジ


【ラスボスゴーレム】
 ヒヒイロカネで創られたゴーレム。立てば6メートル級にもなるでー。
 ダンジョン最下層のラスボスとして生まれたんやが、強すぎる上にダンジョンリソース食うからっちゅーしょーもない理由でダンジョンに吐き出されたんやな。可哀想になぁ。戻りたいのに入り口小さ過ぎて入られへんのや。Sランク。


 生みの親であるダンジョンに捨てられて、家に帰れないんだなぁ。それなら…

「なぁ、こいつゴーレムなんだけど、ダンジョンが生み出して、ダンジョンに追い出されちまったんだって。仲間にしてもいいかな?」

 こいつまた何か言ってるよ、みたいな白けた目で見られてるけど、否定されないなら構わないだろう。

「ゴーレム。良かったらオレ達と一緒に暮らさないか?ゴーレムが何食べるか知らないけど、テイム出来ればお前の住む場所くらい用意出来るぞ」





 ゴーレムは意思や思考が無かった。ある日広場で立っていて、そこがダンジョンとは知らないが、広場に入ってきた者がいたら倒さなければならないと言うのは頭に刻み込まれていた。
 時間なんて分からないが、いつまで待っても誰も来ないでただ突っ立っているだけの日々。この先も変わらず永遠と誰かが来て戦うのを待つだけなのだと、感情も思考も無い頭で、扉を眺めて過ごしていた。

 そして、ある日ダンジョンの外に居た。それが外だとか今までダンジョンに居たとか分からないが、ここは不安で仕方無く、入り口の扉からは安心する空気を感じる。だから入り口から動こうとしないのだ。それが感情とも知らずに。
 

 ハンマーで殴られ、ピッケルで削られ、それでもその身がヒヒイロカネ製故に痛くも痒くもなく、欠片も損傷が無いのでずっと無視してきたが、ふわりと優しく触れられ、何か言葉を掛けられた。

「一緒に暮らさないか」

 その言葉が何を意味しているのか分からなかったが、惹かれるものがあった。
 ゴーレムはズズズンッと自身に触れている者を振り返り、それが矮小な存在であったと気付いた。倒すべき敵とは思えず、ただ、側に居たいと。



 ポーチから『テイムズワールド』が飛び出し、真っ白なページにゴーレムの絵とステータスが記された。


ステータス
 名前:ゴーレム
 種族:ゴーレム
 技能スキル:殴殺
 耐性:物理無効 魔法無効


 ページを確認し、凄いステータスに心躍ったが、浅葱のこれまでの経験から回復水を飲ませるなり掛けるなりすれば進化したので、同じ様にしようと思う。ポーチから回復水鍋を出して、コップに汲み、ゴーレムに渡す。
 ゴーレムのゴツゴツした手の平に乗せると、自分で顔まで持ち上げ、それを頭の上で落とし割った。
 三人の「あー」と言う声をBGMに、ゴーレムはみるみるうちに小さくなり、3メートルくらいまで縮小すると、ゴツゴツした身体はカットされた宝石のようにツルリと滑らかになり、黒や灰色の身体は黄金色となり、光の当たり具合で赤く光った。
 もう一度本を見ると、表記内容が少し変化していた。


ステータス
 名前:ゴーレム
 種族:アルティメットゴーレム
 技能スキル:殴殺 手加減 鉱物生成
 耐性︰物理無効 魔法無効 熱変動耐性


 ワッサンも触れるようになった本は、先程よりもとんでも無いぶっ壊れ性能ステータスを表示していた。ヤバイ奴が仲間入りしたので驚愕し、開いた口を無理やり閉じる。
 ゴーレムは入り口から離れて、オレ達に対ってペコリとお辞儀した。

「何この子礼儀正しい!」

 ゴーレムは言葉を理解出来るのか、緊張したようにおどおどした態度でオレ達を見ている。ユニもワッサンも、フッと笑って内心の思いを一致させた。

「俺はワッサンだ」
「アタシはユニよ。歓迎するわ」

 ユニとワッサンはそう言ってゴーレムを撫でた。


 
 それから若葉と浅葱も召喚して、守護獣同士で交流を始めた。ゴーレムは喋れないが頷いたり身振り手振りで会話をしている。可愛い。何より、指で地面に文字を書いて伝えてくれる。

「ゴーレム、と言うのも距離感があります。これからはレムちゃんと呼びましょう」
「ボクもレムちゃんでいいと思うの。レムちゃん、女の子みたいでカワイイの」
「“ありがとうございます。あたしも気に入りました”」
「ふふっ、イクト様。今度レムちゃんにテイムリングを付けてあげましょう」
「ボクとお揃いのボウシにしてー」
「人型ですし、リボンやチョーカーがよろしいかと」
「それならお洋服きせようよ」
「それは良いですね!ナイスですよ浅葱」
「えへへー。レムちゃんは何が良い?」
「“ユニ様の様なスカートタイプが良いです”」
「スカートか!うん、防具屋で探してみるよ」

 ゴーレムに性別があるとか可愛いものが好きとか、格好良いロボ的なイメージが崩れたので、それならそれで受け入れよう。

「さて、そろそろダンジョンに入ろうよ」
「ワッサンは入った事あるの?」
「無いな。まぁ、ここ以外の4つなら入った事あるし、最下層まで行ったからここも何とかなるだろ」

 ずっとソロ冒険者として活躍して、単独で最下層のボスも攻略してるのか。流石だと驚嘆した。

「ワッサン、ダンジョン攻略マニアなの?」
「フェンリルの血筋なら納得ね」
「普通だろ」

 絶対普通じゃないと思ったけど、ダンジョンは初めての二人なのでそういうものなのかと納得して扉に手を掛けた。

「あ、ずっと中に入れなかったのならダンジョンから魔物が溢れるスタンピードが起きるかも」
「え?」

 イクトが扉を開いた瞬間、内側からバンッと扉を引っ張られる感覚と沢山のゴーレムやガーゴイルが飛び出そうとした。オレは、潰される!と死を覚悟したその時、レムちゃんがオレを引き剥がして、自身の身体で入り口に立ち塞がるとスキルを発動した。

 中に向かって、手を組み上から真っ直ぐ振り下ろすと、外に出ようとしていた魔物達はレムちゃんの握り拳の打撃と衝撃波と吹き飛んでくる魔物にぶつかられて巻き添えを食らって更に吹き飛んだ。
 だが、奥から粉々に砕けた魔物の破片を踏み潰して、第二陣の魔物が迫って来た。それすらも分かっていたように、肩を引いて拳を握りしめ腰を落とした状態から接敵した瞬間に腕を振り抜いた。
 
 それから魔物が途切れるまでレムちゃんが無双してスタンピードを沈めた。





 倒されたダンジョンの魔物は一定時間経つと自然と消えてしまう。魔物ごとに持ち帰れる部位が決まっており、それを確保したとダンジョンが判定すると持ち帰れる部位を残して後は消えてなくなる。

「魔物の残骸でダンジョン内が溢れる事が無いから入れるけど、消えなかったら残骸と言えど鉱石取り放題だったかもね」
「使えない残骸なんぞクズ鉄以下だろ」
「解体の手間が省けて楽じゃないの」
「それはレムちゃんが粉砕してくれたからでしょ」

 その大活躍したレムちゃんは、繊細な指先で鉱石を抓んでオレの横に積み上げていた。若葉も浅葱も、みんなでオレに渡してくるから、ひたすらそれらをポーチに放り込む作業と化していた。鉱石の種類とかどれが不要なのかとか分からないので、本当に手当り次第だ。
 一段落して懐中時計で確認すると、20時を回っていた。

「うわっ…これから帰る?」
「もうこんな時間か…」
「ブルン!いっその事今日はダンジョン前で野営する?バリアハウスで一夜明かして、朝戻れば良いでしょう」
「だな。もう腕も足もパンパンだよ」
「ご主人しゃま大丈夫?」
「イクト様!私が揉んで差し上げましょうか!」
「いやいや、痛くないしそんな気分なだけだよ」

 バリアハウスは侵入される事は無いので、守護獣達を帰還させて、オレ達は回復水で身体を洗って、ポーチにストックしていたご飯を食べてその日は早めに就寝した。

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