女装男子は学校一のイケメンからの溺愛を拒めない

紀本明

文字の大きさ
22 / 37

18

しおりを挟む
「みっくん、おはよー!」

 朝イチ、駅のホームで電車を待っていたら、今一番顔を合わせたくないヤツに会ってしまった。

「お、おはよう、ひより」

 うぅ……、ひよりの顔を直視できない……。

 視線を逸らした瞬間、中条との昨日のキスが鮮明に思い出されて、全身の血が勢いを増して体中を巡りだす。

 わー! ばかばか、思い出すな!

「みっくん、顔赤いけど、まだ風邪治ってないんじゃないの?」

 覗きこむ美少女から顔を背けて、俺は「治った治った」と言う。
 というか、なんで俺が風邪で休んだって知ってるんだ?

 疑問に思い聞けば、どうやら中条から聞いたとのこと。俺抜きで一体二人はどんな話をしたのか、なんだか無性に気になった。

「本当はお見舞いに行こうと思ったけど部活あって遅くなっちゃったから行けなくてごめんね」

 と、顔の前で両手を合わせて謝るひよりに、俺は「いや、見舞いなんかいらないって」と返した。

 中学から続けている美術部に入ったひよりは、毎日放課後せっせと部活に出ている。そのおかげで、俺は一緒に帰ろうと誘われることがなくなって一安心していた。

 それよりも、今はひよりに申し訳なくて、気まずい。
 非常に気まずい。

 なんだか、すごく悪いことをしているみたいな気持ちになった。

「……ねぇ、もしかして、イケメン先輩お見舞いに来た?」

「えっ」

 思わず動揺してしまった俺を見て、「あー! 来たんだ! ずるい!」と鼻息荒くするひより。

 やっぱり、中条が俺と会ってるのも気に入らないんだろう、自分も行けばよかったとひよりは地団太を踏み、学校に着くまでぶーぶー文句を言っていた。どうやら昨日も中条から塩対応を受けたらしく、それについての不満をつらつらと話すのを、俺は隣でうんうんと聞いていた。

 仕方ないんだよひより。中条は、好きな子にはツンツンしちゃうみたいだから。
 俺みたいなどうでもいい奴にはガンガン攻めてくるのにな……。その勢いをひより相手に少しでも出せればいいのに。

 まぁ、俺から中条の気持ちを伝えるわけにはいかないので、そこは心の中だけに留めておく。

「みっくんも、嫌なことは嫌って言っていいんだからね! 優しすぎるんだよ、みっくんは」
「う、うん、ごめん……」
「って、みっくんが謝ることじゃないっつーの! 悪いのはみっくんに付きまとうイケメン先輩なんだから!」

「――俺がなんだって?」

「うわっ」
「ぎゃぁっ!」

 昇降口の辺りで、突然声が降ってきて、俺とひよりは肩をビクつかせる。振り向くと、すぐ後ろに中条が立っていた。明るい茶髪は、朝陽を浴びてもはやミルクティーブラウンに輝いていて目に眩しい。

 なんでこう、タイミング悪く会いたくない人に会うんだろうか。
 目が合ったものの、俺は恥ずかしさに俯いて視線から逃れる。でも、恥ずかしがってることを中条に知られることも恥ずかしい。

「ちょっと、イケメン先輩! 風邪っぴきのみっくんの家に押しかけて抜け駆けするなんて卑怯者!」

 ん……?
 抜け駆け? 卑怯者?

 それって、俺の事じゃなくて?

 どういうことだ? 言い間違えか? と考えていれば、中条はそんなひよりをスルーして俺の肩に腕を回してきた。いつものあのいい匂いがして、どくんと胸が鳴る。

「尊、昨日は夕飯ごちそうさま。すっげー楽しかったぁ」
「うぇっ、ば、ばかっ」

 なんで、わざわざ言うんだよ、そんなこと!
 ひよりにヤキモチ焼いてもらいたいのか?

「はぁ? 夕飯まで食べていったの⁉ 病人の家に押しかけて⁉ なんて図々しい!」
「何とでも言え、イノシシ女。お前の出る幕はないんだよ」

 いやいや、中条も、いくら好きな子には意地悪しちゃう質だからって、そんな言い方はないんじゃないか?

「ひどい、私だっておばさんの手料理食べたいのにぃ……」
「ひ、ひより、そんな落ち込まなくても……。あ、じゃぁ、来週のどっかで来れば? 母さんもひよりに会いたがってたから喜ぶんじゃないかな」

 ひよりへの罪悪感から、とっさに誘ってしまっていた。

「行く! 絶対行く! やったぁ~!」

 ど、どうしよう……。中条からしたらあり得ない、よな……。

 恐る恐る隣を見れば、やっぱりぶすっとした顔で俺を睨みつけていて、心臓が冷え上がった俺は、

「あっ、そうだ! ね、姉ちゃんが、中条に試着してほしいとかなんとかって言ってたような……でも、忙しいなら無理にとは……」

 と口から出まかせが出ていた。

「ぜってー行くし。尊とこいつ、二人っきりにさせてたまるか」
「それ、こっちのセリフだから!」

 はぁ、めんどくさ、小学生か。
 俺にはもう、こいつらの思考回路が理解できない。

 疲れた俺は、二人きりにさせてあげようと、中条の腕を解いて一人で先を行く。

「あ、待ってよ尊。一緒に行こうぜ」

 なのに、すぐに中条が追いついてきた。ひよりは、クラスメイトと挨拶を交わしていて、付いてくることはなかった。

 上履きに履き替えて、それとなく並んで教室へと向かう。

 中条は、隣で「あー今日化学あんじゃん、だりー」とぶつぶつ言っている。

 俺は、その隣で胸がドキドキして、居心地が悪いったらない。

 さっきから俺の頭には、中条とのキスがずっとエンドレスにリピート再生されてしまっているんだ。もっと言えば、昨日中条と別れたあとからずっとで、おかげで眠た気がしない。

 映像だけじゃない、あの時の、中条の唇と舌の柔らかさ、湿った吐息、触れられたうなじの感覚、抱きしめられた腕の逞しさと熱を帯びた視線。

 まるで、たった今、中条に抱きしめられてキスされているような錯覚に陥りそうになるほど、あの時のすべてが俺を離してくれない。

 体がじんじんと熱く疼く。ともすれば反応してしまいそうになるくらいに。

 頭がおかしくなりそうだった。

「ホントに熱下がったのか?」

 声と一緒に、なにかが前髪をかき分けておでこに当てがわれ、それが中条の手だと気づいた瞬間、びくっと体が過剰反応してしまった。

 みぞおちの辺りから、ぶわっと放出されたなにかに体が支配されたように足がすくんで体が動かない。

「尊……? どうした、大丈夫か? やっぱり熱あるんじゃ……」

 硬直する俺を不思議に思った中条が、顔を覗き込んできた。

 おでこにあった手は頬に触れてから、するりと首に移動する。

 その肌をなぞる感覚に、体がぞくりと震えた。

「みこ……と……?」

 どうしよう。
 顔が、体が、熱い。
 真っ赤な顔を見て変に思われたに違いない。

 今すぐこいつのそばから逃げ出したいのに、体が言うことをきかない。

「わっ」

 唐突に手首を引っ張られて、そのままどこかに連れていかれた。ガチャリ、とドアを開ける音がしたと思えば眩しい日差しに晒され、外階段に来たのだと頭がぼんやりと理解する。

 そして、

「なか――」

 声を発した次の瞬間には、中条の腕の中にいた。

 驚きのあまり力の抜けた腕から通学鞄が落ちて、どさり、と音を立てる。

「はぁ……」

 中条のため息が俺の耳に触れる。

「……んっ」

 回された腕に、腰とうなじをなぞるように包まれて、声が出てしまった。

 うわ、はっず……。

 一人赤くなって身を固くしていると、腕が緩んで中条の体が離れた。けれど、腕は解かれることなく、距離は近いままで俺は恥ずかしくて顔をあげられない。

「もうさぁー……なんなのお前、ちょっと触られたくらいで、ビクついて顔真っ赤にするとか……」

 いや、ホント……、俺も自分で自分をどうにもできないんだよ。
 一人でドキドキして、過剰に反応して、発情期のオス猫か、俺は。

「可愛すぎなんだけど」
「は?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

マネージャー~お前を甲子園に連れて行ったら……野球部のエース♥マネージャー

夏目碧央
BL
 強豪校の野球部に入った相沢瀬那は、ベンチ入りを目指し、とにかくガッツを認めてもらおうと、グランド整備やボール磨きを頑張った。しかし、その結果は「マネージャーにならないか?」という監督からの言葉。瀬那は葛藤の末、マネージャーに転身する。  一方、才能溢れるピッチャーの戸田遼悠。瀬那は遼悠の才能を羨ましく思っていたが、マネージャーとして関わる内に、遼悠が文字通り血のにじむような努力をしている事を知る。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

処理中です...