下っ端宮女のひたむき後宮恋譚 ~前世の夢を追いかけていたらいつのまにか寵愛されていました~

紀本明

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嫌がらせ

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 私に特に執拗な嫌がらせをしてくる相手は、昭儀しょうぎさま付きの侍女たち。なんでも、昭儀さまは美に執着するあまり、美しいと評判の宮女には片っ端から嫌がらせをしているのだとか。
 中でも私は恰好のターゲットとなり、その嫌がらせはどんどんエスカレートするも、主犯格が正二品にあたる九嬪のトップに君臨する昭儀さまなだけに、周りも口をはさめずにいる。

 嫌がらせは、すれ違いざまに足を引っかけられたり、呼びつけられて雑用を押し付けられたり、イマドキ女子中学生でもしないような幼稚なものから、閉じ込められたり、食事に虫を入れられたりと悪質なものまで様々で、よくもまぁ色々と仕掛けてくるものだと感心してしまうほど。

 侍女たちは、昭儀さまがバックについているものだから、それはそれはもう虎の威を借りる狐よろしく強気に出てきて厄介だった。

「丁度いい所に来たわね、鈴風」

 朝、洗濯ものを干し終えて休憩しようとした所、侍女たちが私を待ち伏せしていた。そのうちの一人が、手に抱えた籠を私の前にドスンと置く。

「昭儀さまのお召し物よ、今日中に洗って頂戴」
「――ちょっと、洗濯は洗濯場に持っていくのが決まりよ!」

 雹華がそう言うと、「部外者は黙ってて」と一蹴されてしまう。

「昭儀さまは鈴風の洗濯の腕をお認めになってのご指名なのよ。光栄に思いなさい」

 私に断わるという選択肢は最初から無いので、「ありがとうございます」と籠を受け取った。

「良いこと、あんた一人でやるのよ」
「わかっていますのでご心配は不要です」

 そう言えば彼女たちはご機嫌で去っていった。

 はぁ、とため息が漏れる。
 こういう地味にしんどい嫌がらせは勘弁してほしいな。って、私には選べることじゃないんだけど。

「鈴風……」
「大丈夫よ、雹華。このくらいなら私一人でなんとかなるから。じゃぁ、私洗い場に行ってくるわね」

 後をついて来そうな雹華を振り切るように私は、籠を持って急ぎ足で洗い場へと向かう。さっさと洗おうと籠から一枚手に取った私はそのあり得ない汚さに目を疑った。

「まさか」

 嫌な予感は的中。
 襦袢や着物、スカートなど、籠の中の衣類すべてが無残にも汚されていた。
 どこからどう見ても人為的に汚されたそれに、空いた口が塞がらない。

「嘘でしょぉ」

 この世界には、電気もなければ水道もない。だからもちろん洗濯機がない。
 洗うのも洗濯板やたわしでこすって洗うし、絞るのだって手動だ。

 なんて、不便だろうか。前世を思い出す前はこれが当たり前だったからなんとも思わなかったのに……知らぬが仏とはこのことだった。

 ため息をつきそうになり、私は顔をぶんぶんを横に振った。
 ため息ついても、落ち込んでもこの洗濯物は綺麗にはならない。

「さ、洗うか!」

 私は無我夢中で洗濯ものを洗った。

 お昼ご飯には、雹華が差し入れてくれた粽子ちまきを口に放り込んで、昼下がりには干し終えるも、その後は通常業務をこなす。そして一日の仕事が終わり、どうにか乾いた昭儀さまの洗濯ものを畳んでお屋敷に届け終えた。

 やっと、解放される! と思ったのに、届けた先で侍女から嫌味と共に追加の洗濯ものを渡されてしまった。

「明日の朝には届けてちょうだい」

 身分や権力がすべてのこの世界で、今の私に抗う術はない。
 そして案の定、その洗濯ものも盛大に汚されていた。

「よっぽど暇なのね」

 私の嫌味は、もちろん誰の耳にも届くことなく、風に流された。

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