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3章 沖田畷の戦い
02 久貞(ひささだ)
しおりを挟む春の風が私の黒髪をさわさわと流す、冷たくて、とても心地よい。
それと、この星空だ。これだけは、これだけは、
どんなに現代が便利な物で溢れていても勝っている。
あー、携帯で写メ撮って未来に送れないかな……。などと、星空の情緒に浸っていたら
「くぅ――」と、腹がなった。
「やれやれ……」
「主よ、通力がもう空だぞ」
神様は人でいうところの空腹状態にはならない。
が、通力を使えば無くなるのはあたりまえ。
今回はとくに、死んでみたり、蘇ったり、時渡りをしたり、
人払いの術を使ったりと通力の消耗が激しかった。
なので、神としての食事をして気力を充実させなければいけないわけだ。
神様の食事とは……? まあ、よく分からん。
と、云うと「いい加減な」と思われるが、百の神がいれば百の方法があるのだ。
それは、信仰だったり、祈りだったり、供物だったり、
御神酒だったりするのだが、私は土地神ではないので、この手の手段では無理なのだ。
まあ、私を信じる者と杯を交わせば御神酒と同じ効果があるのだが……。
今は、そんな相手もいないので、生娘の精気を糧とすることになる。
こんな表現のしかただと、人喰いや吸血鬼みたいに思われるが、
そんなことはしない。せいぜい手をつないで精気を必要な分だけ分けて貰うだけだ。
それによって其の者の寿命が短くなるとか、そんなマイナス要素も一切ない。
あえていうのならば、私に精気を吸われている間に快楽を感じるくらい、
だからまあ、「気持ちいい」のだから良いだろう、なのだ。
いやまあ、一日くらいは倦怠感がのこるけど、
今は緊急時なのだからそのくらいは勘弁してほしい。
そんなわけで、私は屋敷の探索へ―――。
小梅は私の後ろをとぼとぼとついてきている。
幸いなことに、時刻は巳の刻(夜の十時)くらいだ、
「部屋の油が切れた」と云えば下女の一人も見つかろう。
屋敷の中を少し歩き回るが生娘には会えなかった。
これは、台所でも行かないと無理かな。
と思い、私は庭にでて井戸を捜した。井戸は館の西側にあり、
その側に小屋が二つ、両方とも薪をくべる所があった。
そして、手前の小屋からは薄明かりが零れている。「よし、人がいる」
私は、そそくさと小屋に近づき小窓から中を覗く―――。
「わっ……!!!」
「きゃ―――っ!!!」
なんと云うか……。そこは風呂だった。
そこに、華奢で小柄な小娘が沸かした湯で体を拭いていたのだ。
思わず声を出してしまったが離れだったので屋敷から誰か来る気配はなかった。
私は周囲を確認し、落ち着いて中の娘に声をかけた。
「すまぬが、部屋の油が切れてしまったのでな……」
「……はい」
「まだ、書き物などしたいから油を持ってきてくれぬか?」
「はい、かしこまりました」
私の声を聞いて娘も少し安心したのだろう、きちんと返事が返ってきた。
「では、部屋で待っている……、おぬし、名は?」
「はい、サクと申します……」
「では、サクおぬしが油を持ってきてくれ、侘びに菓子でもどうだ?」
「かしこまりました……、後ほど伺います」
部屋に戻り待つこと一刻(約一五分)
本当に真っ暗だったので襖を開けて月を眺めていると、
すっ、すっ、を静かな足音が此方に近づいてきた。
足音は私の部屋の手前で止まり、その主が小声で云った。
「久貞(ひささだ)さま、お待たせしました……」
私を久貞と呼んだのは、先程の娘…確かサクといったか。
「サクか……?」と確認すると「はい」と返事が返ってきた。
「夜分すまんな、見ての通り油皿の油が切れてしまって何も出来んのだ。
まあ、こんな月夜は酒でも呑んで寝てしまえばいいのだが、
まだ少しやることが残っていてな」
そう云うとサクは仕切り越しに姿を見せた。
サクは、油を足して明かりを灯すと、そそっと下がろうとしたが、
私は約束の菓子を渡すと言って手渡す。その時、軽く手を握り精気をすいとった。
サクは部屋を後にするとき少しふらついていたが問題は無いだろう。
「久貞(ひささだ)」それが此方での私が演ずる役目だ。
単に時を渡るといっても過去の時代に行って、
その時代に実在した誰かになるわけではない。
私自身も数十年前に読んだ書物で
『過去に戻り未来を変えることは、確実に不可能』と書いてあったのを覚えている。
といっても……私は何十回も縁を切りまた結び直している。
その際、元の世に戻って変わった事といえば、
私が縁を切った者の運命に僅かな変化をもたらすだけ。
今回も一九九五年以降の歴史に改変が起こる。
今回は、このサクという娘と川上忠堅の縁を結び直せば私の仕事は終わり。
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