「嘘から出たまこと、嘘はより強い真実によって打ち消される」

辻 欽一

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『好きならば、言葉に出して言ってみな!』

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 三学期、もうすぐクラス替えだ。

 運が悪ければ、彼女とも違うクラスになってしまい、
 多分、僕達の関係は「友達」のまま終わるだろう。

「いや、まて……そもそも、男女間に友情なんて感情はあるのか?」
「他の女子は、顔見知り程度だが、彼女はそれ以上の存在で、
 その感情は彼女だけに向けられている」
「今、友達だと想っている彼女とは、もう少し」
「いや、ずっと一緒にいたい」
「所詮、男と女の間には、好きか、そうじゃないかの二つに一つなのだろう」
「ならば、素直に告白してみるか?」
「でもな……」

 そんなことを自問自答していたが解決の糸口を見出せず、悪友に意見を聞いてみた。

 悪友曰く―――。

「じゃぁ、好きって、言っちまえばいいさ」
 それが云えれば、とっくに云ってるって、でも、想いが伝わらなかった時のことを
考えたら、気持ちが後退りするだろ。

「俺の見立てじゃ、お前達は両思いだ、大丈夫だよ……多分」
 お前、多分って、なぁ………。
「まぁ、どうしても不安ならコクった後に、な~んてね、とか言ってやればいいのさ」
 ………。なんだよそれ!?
「後は、お前が決めることだ、ちゃんと言えよ、言わないとお前達このままだぞ」

 その後も告白する決心がつかず、結局、想いを伝えたのは春休みに入ってからだった。
彼女は僕がスマホで公園に呼び出すと、何も聞かずに来てくれた。
 もうすぐ4月になるとはいえ、外はまだまだ寒い、彼女は僕の隣に腰掛けると
温かいココアをコンと一口飲み、息をホッと整え話しかけてくる。

「まだ、寒いよね……今日は、どうしたの?」
「うん、もうすぐ新学期だろ……」
「でさ、別別のクラスになっちゃうと、寂しいなと思って、話たくなった」
「そうだね……私も其れはイヤかな、進級しても一緒のクラスだといいよね」

 彼女はそう言うと僕の顔を見上げてくる。
その瞳はいつもと少し違って、何かを僕に期待しているようだった。
 僕は、その表情を見て、今まで心に留めていた想いを彼女に伝えた。

「あのだな……今日は俺の気持を、ちゃんと話しておきたくて」
「………うん」
「今の、俺たちの関係ってどう思う?」
「んっ―――友達で、いいの?」(激熱ですよ!!)
「……いや、俺はね、友達じゃ少しイヤかも」
「その、もう少し、特別な関係がいいんだよ。」
「あの、言いたい事は解るけど、でも、もっとはっきり伝えて欲しい……」

 なんとも意地悪いリクエストだ……。
すると、さっきから僕のことを見上げている彼女の透き徹った表情がフワリと桜色に変わっていく。

「そうだな、こんな言い方じゃ伝わらないよな」
「……あのな、俺はお前の事が、凄く好きなんだよ、多分、友達以上に想ってる」

 彼女は僕のその言葉を聞くと、笑みの花を咲かせて僕を見詰めてくる。
だが、僕は今、自分が云った言葉と、彼女の視線で急に恥ずかしくなり、
咄嗟に照れ隠しで前に悪友が言ってたことを思い出し、言ってしまう。

「なっ、なぁ~んてね♪」

 そう言った瞬間、彼女は俯きココアの缶を落とす。
耳が真っ赤になり再び僕のことを見上げた彼女の目は三角だった。
まさに「怒!」直後に激しい衝撃が僕の左頬を襲う。
彼女はそのまま立ち上がると「ばか!」と言って帰ってしまう。
「しまった!」と思った僕は彼女のスマホを鳴らすと、意外にも直ぐに出てくれた。

「なによ」
「御免なさい、さっきのは嘘です」
「どっちが?」
「な~んてね、の方です」
「そぉ―――」
「ねぇ………」
「私のこと、好き?」
「………好きだよ。」
「じゃぁ、許してあげる」そこで電話はプツリと切れた。

 翌日、僕達は友達以上の関係になって初めて二人だけの時を過ごしていた。
僕は其処で昨日の出来事を思い返す。
「嘘から出たまこと」これは無いよな。
「嘘のつもりで言ったことが、偶然、事実になる」
昨日のアレは、後から言った失言を「嘘」と表現し、
後に告げた本当の気持ちをさらに強調することになった。
そのとき「嘘」は打ち消され僕達の距離はさらに近づいた。

 そんな助言をしてくれた悪友に感謝しなければと、僕は思う。


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