エイプリールフール

辻 欽一

文字の大きさ
1 / 1

メビウスのリボン

しおりを挟む

 去年、最後の合格発表の日に私の浪人は確定した。

 其の時、一番辛かったのは浪人確定という現実よりも、
彼にこの事を伝えなければならないこと。でも、少し嬉しいこともある。
それは、あと一年、少しの間だけど彼と一緒にいられること。
でもそれは切なく、とても辛いこと――。

 私は気がついていた。
もお何年も前に彼に対する気持ちが「憧れ」などという、フワフワ
としたものから「焦れ」に変わっていたことを。
言い訳になってしまうかもしれないが、受験の失敗もこの想いが影響しているのだろう。
その日、私は彼を部屋に呼び其の日の結果を伝える。

「御免なさい、駄目だった……」
 私はそのとき彼の顔を見ることができず。
「そう……で、まだ頑張れるかい……?」
 彼は優しく、そう声をかけてくれた。

 私はそのまま俯いてしまう、様々な想いが流れてゆくが
決まって最後には彼への想いが残るのだった。
私はもう「嘘」をつけない、そう想うと自然に言葉がでてしまった。

「うん、まだ大丈夫だよ……」
「でも、これだけは言わないと……もぉ、無理」
「……んっ!?」
「好きなの、すごく……」

 彼の答えを待っていると、南風がサワサワと部屋に舞いこむ。

「そっか、お前はえらいな。」
「………。」
「御免……でも今は、その想いに応えられないよ。」

 彼はそう言うと私の髪を纏めているリボンをはずし、
一回ひねるとホチキスでパチンと留めた。それを私に渡し、こう言ってくる。

「はい、コレ」
 私はソレを受け取るが、伝えた想いと、彼の答えと、彼の厚意がグルグル混ざり
 抑えきれなくなった想いが、涙となって零れだす。
 彼はそんな私をみて、私に渡したリボンの意味を説明をしてくれた。

「うぅ~ん、コレは二人の想いを形にしてみたつもりだけど」
「少し、難しかったかな?」
「んっ……」
「えっと、解んない?」

 私は頸を立てに振る。正直、今は物事を冷静に考えられる状況ではなかった。
すると、彼は、少し残念そうにこう言った。

「まぁ、しょうがないかな。」
「でも、今のやり取りで俺の気持ちが読み取れないと、現国でまた点取れないぞ」
「へっ……何で、なの?」
「解らないか……? 何だか少し残念だな。」

 えぇぇ、私ってば、想いを伝えて「ごめんなさい」されたうえに「残念な子」って
言われちゃうの……うぅ「なんだか、すごく悔しい!」
そう想って彼のことをじっと見ていると、私の視線に気づいた彼が話しかけてくる。

「そんな顔をしていると、考えてることが顔に出るよ。」
「でも、このリボンの意味、なんだか解らないんだけど……」
「そうかい?」

 そぉって、なにさ――!!

「だったら、勉強の合間でもいいから、リボンを指でなぞりながら色々なことを
 想ってみなよ、なにかが解ってくるから」
「答えは、来年の春に教えてあげるよ。」

 其の後の私の気持ちは意外にもスッキリしていた。
彼も今までどうりに接してくれてあの日、
私が言ったことなど気に掛けていないように思えた。

「私は、まだ気にかかってしょうがないのにっ!」そんな時は、
いつも机の上に置いてあるリボンを指でなぞり彼のことを考える。
指先はリボンを一周する間に裏と表の境界を渡り無限に流れていく――
そうしていると何故か気持ちが落ち着いたのだ。

 でも、この∞図形の意味は未だに理解できず、
そのまま第一志望の合格発表を迎える。
結果は「合格」だが彼は学校の用事とやらで、
結局、彼に結果を伝えたのは4月1日の午後になる。
今日はエイプリールフール、嘘をついてもいい日。
彼は私の顔を見るなり結果を聞いてきた。


「合格だっただろ?」
「うん……」
「まぁ、よかった。」
 ……まぁ、ってなによ!

「じゃぁ、もう一つは?」
「――へっ、何?」
「いや、リボンの意味だよ。解った?」
「えっと……西洋のお守りとか?」
「はぁぁ、だめか残念だ……」
 また残念って言った!

「コレはね、俺があの日、自分の気持ちに嘘をついてお前を傷つけたから、
 想いを形容して、リボンを渡したつもりだったんだけどなー」
「しょうがないねぇ、リボン持って隣においで」
「そしたら、お前は裏に指をあてて左回り、俺は表で右回りな、ハイやってみようか」

 そう言われて、スルスルと指を滑らせていくと数秒で彼の指が私の指に触れる。
「そうゆうことだ、俺もお前のことを女の子として見ていた。嘘じゃない。」
「でも、今日は嘘をついてもいい日でしょ?」
「ん……。それ時間切れだから、嘘をついて良いのは午前中までな」
「そぅなの?」
「そうだよ。」

 彼はそう言うと、リボンを私の髪に戻してくれた。
人に髪を触られて心地好いと思ったのはコレが初めてだろう。

 本当に、凄く、よかった―――。



しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

元夫をはじめ私から色々なものを奪う妹が牢獄に行ってから一年が経ちましたので、私が今幸せになっている手紙でも送ろうかしら

つちのこうや
恋愛
牢獄の妹に向けた手紙を書いてみる話です。 すきま時間でお読みいただける長さです!

逆ハーエンドということは。

竹 美津
恋愛
乙女ゲームの逆ハーレムエンドの、真のエンディングはこれだ!と思いました。 攻略対象者の家族が黙ってないよね、って。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

あんなにわかりやすく魅了にかかってる人初めて見た

しがついつか
恋愛
ミクシー・ラヴィ―が学園に入学してからたった一か月で、彼女の周囲には常に男子生徒が侍るようになっていた。 学年問わず、多くの男子生徒が彼女の虜となっていた。 彼女の周りを男子生徒が侍ることも、女子生徒達が冷ややかな目で遠巻きに見ていることも、最近では日常の風景となっていた。 そんな中、ナンシーの恋人であるレオナルドが、2か月の短期留学を終えて帰ってきた。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...