43 / 55
初仕事
43 舐めてない
しおりを挟む
「ところでエリック、ファーゼン」
「「はい?」」
ニードルが2人に声をかける。
「何でさっきは舐めたような真似をしたんだ?」
それは咎めるような口調だった。
「舐めているつもりはありません。実はエリックは『待った、ファーゼン』…… 何だよ?」
「俺の力はまだまだ未熟です。少し本気を出すだけで……」
エリックは自分の拳を見た。自分の力不足を嘆くように、悲しい目で。
「少し本気を出すだけで、体が耐えられず、倒れてしまいます。そんな状態で力試しなど、それこそ相手に失礼だと思ったからです」
ニードルはエリックを見る。先輩方の視線も自然とエリックに集まる。
(なるほど、強い目だ。それに恐らく、ヒュドラとの戦いの事だな)
鋭い洞察力だ。情報に早く、読みが鋭いニードルには何となく察しがついていた。さすがに、ヒュドラを1人で倒した、とまでは読みきれていかなったが。
この学院のクラブ長は、凡人には務まらない。ニードルも漏れなく有能な人物の一だ。
「分かった。どうやら本気のようだからな。皆、聞いての通りだ。この試合はいたって真剣そのもの。俺はこの試合に敬意を称し、一年生をクラブ対抗戦に出場させようと思う!」
うぉぉぉおおおお!
人数が少ない冒険者クラブと言えども、人数は50人は下らない。故に十分うるさかった。
ギーロとニゴルは傷を癒してもらい、歩ける位には回復していた。
「ふんっ…… 確かにふざけている訳じゃ無さそうだ。だが次は負けねーぞ、俺は強くなる。だから首洗ってまってろ」
「殺し合いじゃないんだから…… 全く」
「ハハハッ」
(何だ、ギーロたちも悪い人じゃないみたいね。オルバの言った通り、ちょっと真っ直ぐ過ぎるだけなのね)
そう言うと、ギーロたちは帰っていった。今日はもう休むそうだ。
今すぐ仲良くはなれないかもしれないが、もはや試合前の険悪な雰囲気は無く、わだかまりは無い。エリックとファーゼンは冒険者クラブに馴染めそうだ。アリサたちは、2人がまた浮いてしまうのではないか。密かに心配していたのだ。
「ニゴル。アイツらはいけ好かない奴だけど、実力は確かに本物だ。そして覚悟も」
「そうだね。しかも、恐らくだけどファーゼン君より、エリック君の方が強そうだったしね」
「ああ。だけど、俺らはあの2人を超えるぞ!」
2人はファーゼンと対峙して、己の無力と傲慢さが、身にしみてわかった。悔しい気持ちでいっぱいだった。だが同時に、後の英雄となるであろう者と戦えて、興奮もしていた。
口には出していないだけで、2人の実力の一端から、将来大物になると確信していたのだ。ファーゼンという強者と戦い、自分の課題が見えた。もっと強くなることが出来る。2人は早く特訓したくて仕方なかったのだ。
(強ぇ…… まるで次元が違った。だがそれだけじゃねぇ。ありゃ人間か?)
ギーロはファーゼンの正体に疑念を抱きつつあった。
「それでニードル様。クラブ対抗戦ってなんですか?」
「悪い悪い。まだ説明してなかったな。クラブ対抗戦はその名の通り、学年ごとに各クラブの代表者で、その年の1位を競い合うんだ。だがな…… あれはなかなか危険なんだ」
「そうなのよ。数年前の対抗戦で、うちのクラブ一年生が殺されちゃったらしいわ」
ノリアの言ったのは事実である。正確には6年前。冒険者クラブが全盛期を誇っていたはちょうどその時である。当時は、学院内でも指折りの生徒が集まっており、影響力も強かった。
しかし、他クラブはそれが気に喰わなかった。それだけでは無く、騎士系クラブの衰退は、国の方でも見逃せることではなかった。
その結果、国(というより貴族)がクラブで共謀し、対抗戦で一年生が命を落とす結果となった。
それからというもの、冒険者クラブに入ると殺されるという噂が広まり、冒険者クラブは衰退の一途をたどった。影響力は無くなり、部員も少なくなり、部長会議でも発言権を失ってしまった。
今では最底辺クラブとなってしまった冒険者クラブだが、それでもニードルはクラブの復権を目指していた。そこに現れたのがエリックとファーゼンであった。
「「はい?」」
ニードルが2人に声をかける。
「何でさっきは舐めたような真似をしたんだ?」
それは咎めるような口調だった。
「舐めているつもりはありません。実はエリックは『待った、ファーゼン』…… 何だよ?」
「俺の力はまだまだ未熟です。少し本気を出すだけで……」
エリックは自分の拳を見た。自分の力不足を嘆くように、悲しい目で。
「少し本気を出すだけで、体が耐えられず、倒れてしまいます。そんな状態で力試しなど、それこそ相手に失礼だと思ったからです」
ニードルはエリックを見る。先輩方の視線も自然とエリックに集まる。
(なるほど、強い目だ。それに恐らく、ヒュドラとの戦いの事だな)
鋭い洞察力だ。情報に早く、読みが鋭いニードルには何となく察しがついていた。さすがに、ヒュドラを1人で倒した、とまでは読みきれていかなったが。
この学院のクラブ長は、凡人には務まらない。ニードルも漏れなく有能な人物の一だ。
「分かった。どうやら本気のようだからな。皆、聞いての通りだ。この試合はいたって真剣そのもの。俺はこの試合に敬意を称し、一年生をクラブ対抗戦に出場させようと思う!」
うぉぉぉおおおお!
人数が少ない冒険者クラブと言えども、人数は50人は下らない。故に十分うるさかった。
ギーロとニゴルは傷を癒してもらい、歩ける位には回復していた。
「ふんっ…… 確かにふざけている訳じゃ無さそうだ。だが次は負けねーぞ、俺は強くなる。だから首洗ってまってろ」
「殺し合いじゃないんだから…… 全く」
「ハハハッ」
(何だ、ギーロたちも悪い人じゃないみたいね。オルバの言った通り、ちょっと真っ直ぐ過ぎるだけなのね)
そう言うと、ギーロたちは帰っていった。今日はもう休むそうだ。
今すぐ仲良くはなれないかもしれないが、もはや試合前の険悪な雰囲気は無く、わだかまりは無い。エリックとファーゼンは冒険者クラブに馴染めそうだ。アリサたちは、2人がまた浮いてしまうのではないか。密かに心配していたのだ。
「ニゴル。アイツらはいけ好かない奴だけど、実力は確かに本物だ。そして覚悟も」
「そうだね。しかも、恐らくだけどファーゼン君より、エリック君の方が強そうだったしね」
「ああ。だけど、俺らはあの2人を超えるぞ!」
2人はファーゼンと対峙して、己の無力と傲慢さが、身にしみてわかった。悔しい気持ちでいっぱいだった。だが同時に、後の英雄となるであろう者と戦えて、興奮もしていた。
口には出していないだけで、2人の実力の一端から、将来大物になると確信していたのだ。ファーゼンという強者と戦い、自分の課題が見えた。もっと強くなることが出来る。2人は早く特訓したくて仕方なかったのだ。
(強ぇ…… まるで次元が違った。だがそれだけじゃねぇ。ありゃ人間か?)
ギーロはファーゼンの正体に疑念を抱きつつあった。
「それでニードル様。クラブ対抗戦ってなんですか?」
「悪い悪い。まだ説明してなかったな。クラブ対抗戦はその名の通り、学年ごとに各クラブの代表者で、その年の1位を競い合うんだ。だがな…… あれはなかなか危険なんだ」
「そうなのよ。数年前の対抗戦で、うちのクラブ一年生が殺されちゃったらしいわ」
ノリアの言ったのは事実である。正確には6年前。冒険者クラブが全盛期を誇っていたはちょうどその時である。当時は、学院内でも指折りの生徒が集まっており、影響力も強かった。
しかし、他クラブはそれが気に喰わなかった。それだけでは無く、騎士系クラブの衰退は、国の方でも見逃せることではなかった。
その結果、国(というより貴族)がクラブで共謀し、対抗戦で一年生が命を落とす結果となった。
それからというもの、冒険者クラブに入ると殺されるという噂が広まり、冒険者クラブは衰退の一途をたどった。影響力は無くなり、部員も少なくなり、部長会議でも発言権を失ってしまった。
今では最底辺クラブとなってしまった冒険者クラブだが、それでもニードルはクラブの復権を目指していた。そこに現れたのがエリックとファーゼンであった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜
舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」
突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、
手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、
だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎
神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“
瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・
転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?
だが、死亡する原因には不可解な点が…
数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、
神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?
様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、
目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“
そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪
*神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw)
*投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい
*この作品は“小説家になろう“にも掲載しています
不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる
六志麻あさ
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。
強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。
死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。
再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。
※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。
※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる