分析能力で旅をする ~転生した理由を探すためにレインは世界を回る

しき

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第三章

第27話『乱戦』

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ひどく長い時間静寂と共に過ごし、小さく鳴り響き始めた虫の合唱で目を覚ました。地面の感触が寝袋越しに伝わり、起き上がると身体がちょっと凝り固まっていることがわかった。

テントから出ると、ほどよい冷たさの風が顔の頬を優しく撫でた。黄赤色きあかいろの西日が今にも沈みきろうとしている。東の地平線はすでに黒い空と同化して、引きずりこまれそうな夜がやってきていた。

暗視スキルを使うと、闇を纏った空間は一気に消し飛んでゆき、浅葱色あさぎいろの空へと変わっていった。頭上に海があるのかと錯覚してしまいそうだ。

さて白髪の女はどうしているのかと隣のテントを見ても姿はなく、置きっぱなしの折りたたみ椅子と、その上に上着のようなものだけが残っていた。テントの中にいる気配もない。

どこに行ってしまったのか気になるところだけど、今はするべきことをしよう。

ラーシャム湖沼の方向を見ると、一回り大きいカエルのような黄緑色の魔物がいた。多分、アレがポイズントードだろう。

マジックバッグを斜め掛けして、素材用のバッグを腰に付けた。そして片手に鉄の杖を引っ提げて、いざその魔物に近づいた。そして初めてその大きさを知った。カエルっぽい見た目だというのに、私と同じくらいの大きさなのだ。



【名称】ポイズントード
【種族】魔物-水棲
【体力】4,000/4,000
【魔力】500/500
【属性】地・水
【弱点】火・氷
【スキル】痲痹攻撃Lv1・痲痹耐性Lv1



火と氷が弱点って、すごい不思議な魔物だな。熱いのにも弱いし、冷たいのにも弱いってことなのか。

ギルドで聞いた痲痹攻撃もしっかりある。今回最も注意すべきスキルだ。どう攻撃してくるのかは不明だから、最初は常に回避できるような体勢をとるべきかもしれない。

ポイズントードは近づいてきた私に気付き、ゴロゴロと威嚇するような音を立てた。そして鳴嚢めいのうを膨らませると、私に向かって柳緑色りゅうりょくしょくの液体を吐き出してきた。予め体勢を整えていた私は横に回避して、また来るんじゃないかと身構えた。鳴嚢は元に戻っていて、同じ攻撃をしてくる気配はない。

なるほど、アレの膨らみで痲痹毒を吐き出すかどうかわかる、そして続け様に痲痹攻撃をしてはこない、と。

タイミングは理解した。あとはその合間に魔法を打ち込むだけだ。

<<フレイムサークル>>!!

火魔術を唱えると、ポイズントードの足元が円状に燃え始めた。周りに草木がないせいか、普段より燃え方が大人しいが、ポイズントードには覿面てきめんに効いているようで、ゴロゴロと低い悲鳴をあげていた。

燃え盛る炎は長い間渦巻いていたが、段々と小さくなっていった。するとポイズントードは私に向かって突進してきた。カエルというよりイヌやウマのような駆け方だった。

<<アイスクアッシュ>>!!

複数の氷のつぶてで迎撃した。氷属性が弱点というだけあって、突進の勢いを跳ね返すような威力で、正面から食らったポイズントードは仰け反っていた。

この調子なら勝てる、と思った。

ところが、逆に相手は勝てないと思ったのか、湖沼へと駆けていき、なんと水中に飛び込んだ。流石に水中に逃げられたら追うことはできない。濁っていてどこにいるのかもわからないわけで、攻撃を当てる方法もなかった。

さて、どうしたものか。上がってくるまで待つか?だとしても、相手がいつ陸に戻るのかわからない。たとえ戻ったとしても、また水中へ逃げられたら、こちらのほうがジリ貧になることに間違いはない。魔力が無くなれば相手に分がある。

すると水飛沫をあげながらポイズントードが再び出てきた。なんで上がってきたのかは分からないけれど、これは好都合だ。陸上となれば勝算はある。

しかしそのポイズントードに少し違和感を持った。さっきに比べて体色が黄ばんでいるような…。



【名称】ポイズントード
【種族】魔物-水棲
【体力】3,500/3,500
【魔力】400/400
【属性】地・水
【弱点】火・氷
【スキル】痲痹攻撃Lv1・痲痹耐性Lv1



さっき視たときに比べて体力と魔力に差があった。別のポイズントードか。察するに仲間が応援に来たというところだろう。

現状だと負ける要素自体はないけれど、同じようなことをしてもまた水中に逃げ込まれるだけだ。相手の動きを封じる手立てを考えるべきだ。急に痲痹攻撃というスキルが羨ましく思った。

すると、空から騒音けたたましい鳴き声が聞こえてきた。驚いて顔を上げると、タカのような鳥がこちらに向かって翔んできたのだった。

慌てて横っ飛びして奇襲を回避した。鳥は地面にぶつからず、直前で軌道を変えて低空飛行をした後に一回転をして、バサバサと羽撃はばたかせながらこちらの様子を窺っていた。



【名称】ナイトホーク
【種族】魔物-獣
【体力】8,725/12,000
【魔力】755/1,000
【属性】風・闇
【弱点】雷
【スキル】爪技Lv4・風魔術Lv4・暗視Lv1



ナイトホーク、今までで最も強そうな魔物だ。体力と魔力が私よりも高く、加えて高いスキルレベルを持ち合わせている。

って、なんで体力と魔力が減ってるんだ?どこかで戦った後とかなのかな。いや、まぁ削れている分にはいいんだけど。

しかし、この状況はよくない。例えポイズントードを倒せたとしても、その後このナイトホークにやられてしまう。それどころか、先にナイトホークにやられてしまう可能性まである。逃げるのも手だけど、この泥濘んだ足場じゃ逃げ切れるかどうかも怪しい。そもそもさっきのナイトホークの速度を見るに、この足場じゃなくても逃げるのは厳しい。

するとポイズントードが鳴嚢に痲痹毒を貯めてきた。まずい、まずはこれを避けないと。

ところがポイズントードが痲痹毒の液体を吐き散らしたのは、ナイトホークの方だった。空を翔んでいるナイトホークにとって、そんな攻撃容易く避けていたが、これはラッキーだ。そこで争っているうちにこの場から一度離れてしまおう。

魔物に背を向けないように、できるだけ早く後退りをした。逃げ切れるかどうかはおいといて、できるだけ一対一のほうが好ましい。

もう一度ポイズントードが痲痹毒を蓄えた。万が一ナイトホークに当たってくれれば逃げやすくなるし、もしかしたら漁夫の利で二体とも倒せるかもしれない。

しかしナイトホークはそれを見て、あろうことか痲痹毒が私に当たるような位置に移動してきた。

「ちょ、なんで!?」

ポイズントードが液体を、私に向かって吐き散らしてきた。不意を突かれたものの、間一髪で避けることができた。

しかし、よりによって最悪な状況になってしまった。前方にはポイズントード、後方にはナイトホーク。板挟みな状態になってしまった。これじゃあ逃げることも不可能だし、両方の攻撃をかわすことも難しい。

すると今度はナイトホークが鳴き声をあげて、なんと魔力を集め始めたのだ。間違いない、風魔術を使ってくる。すぐに避けないと。

「はぁぁぁぁ!!」

しかし、そこへナイトホークの翼を斬りかかる人間の姿があった。

あの白髪の女だった。



【名称】リンネ・バープル
【種族】人間
【性別】女
【年齢】16
【職業】戦士
【体力】1,436/3,200
【魔力】146/200
【属性】氷
【弱点】雷
【スキル】剣技Lv4・身体強化Lv3・ガードLv3・暗視Lv1・跳躍Lv1
【異常】-



ナイトホークは風魔術を唱えることができず、一度私から距離を取った。そして白髪の女は私とナイトホークの間に入るように位置取った。

「…ったく、面倒な場所に移動しやがって」

彼女はぼそりと呟くと、再びナイトホークに向かって突撃し、大剣を振りかざして真っ向斬りを仕掛けた。しかし、空を翔ぶ相手じゃなかなか攻撃は当たらない。ナイトホークは簡単に避けてしまう。

その戦いに加わろうとしたが、背後からゴロゴロという低い唸り声がした。カエルとタカも敵同士だというのに、妙な連携を見せてくる。

まずはコイツをなんとかしないと。

再びポイズントードと対峙した。後方で白髪の女の声とナイトホークの鳴き声がする以外は、戦い始めたときと変わらない状況だ。ただ、長期戦にすれば、応援に駆けつけるのが遅くなるのは明白だった。

<<フレイムサークル>>!!

素早く倒そうと先制攻撃を仕掛けた。ひたすら弱点を突いて、とにかく大きなダメージを与えないといけない。

しかし、このままいってもまた湖沼に飛び込まれるだけだ。動きを封じることはできなくとも、なんとか逃げられないようにしないと。

<<ホワイトアウト>>!!

氷魔術を放つと、白く濃い冷気がポイズントードを包んだ。視界を奪ってしまえば逃げ道を失い、こちらへの攻撃は当たりづらくなる。更にこちらの攻撃を避けるのが難しくなるだろう。

<<フレイムサークル>>!!

ポイズントードは私の火魔術に対して、避ける動作すらままならず、冷気の中で燃えていった。そして逃げ果せることもできず、反撃することもできずに、炎の渦の中で倒れていった。

よし、これで彼女の方へ加勢できる。

しかし、仲間の仇を討とうとしたのか、一匹のポイズントードが沼から飛び現れた。

そうだ、忘れていた。まだもう一匹いたんだった。



【名称】ポイズントード
【種族】魔物-水棲
【体力】1,350/4,000
【魔力】350/500
【属性】地・水
【弱点】火・氷
【スキル】痲痹攻撃Lv1・痲痹耐性Lv1



うん、三匹目とかではないな。

地響きのような低い唸り声をあげて、怒りに満ち満ちたポイズントードは、今までとは比べものにならないほどに鳴嚢を膨らませていた。やばい。これを吐き散らかされると、避けられないかもしれない。

<<アイスクアッシュ>>!!

すぐさま氷魔術を唱えて、風船のように膨らんだ鳴嚢に目掛けて、複数の氷の礫を放った。

それが全て直撃して、怯んだポイズントードは痲痹毒を吐き散らすことができずに、鳴嚢は萎んでいった。

今がチャンスだ。

<<フレイムサークル>>!!

トドメの火魔術を放つと、体力が限界なポイズントードでは逃げ切ることができず、炎の中の唸り声が小さくなっていった。

同時に、ここ一ヶ月ずっと使っていた鉄の杖が砕け散ってしまった。寿命が来たようだ。

一息ついた、という暇もなく、後方から白髪の女の声と、威嚇するようなナイトホークの雄叫びが聞こえてきた。私は急いで戦闘に加勢しに走った。



【名称】ナイトホーク
【体力】3,156/12,000
【魔力】675/1,000

【名称】リンネ・バープル
【体力】648/3,200
【魔力】146/200



先程視たときに比べて、双方共々互角の戦闘をしている。しかし、体力と地の利を鑑みるとナイトホークのほうが圧倒的に有利だ。

ふとアルガード学院での実技授業のことを想起した。今はまさにパーティ戦と言っても過言ではない。彼女は毛頭そんなつもりなさそうではあるけれど。

<<サンダー>>!!

私が唱えた雷魔術はコンマ数秒でナイトホークに命中し、羽撃いていた翼を数秒だけ止めた。それからすぐに翼を上下に動かし始めたが、殊更に大きくバサバサと翼を動かしているように見えた。実際に随分堪えたようで、さきほどよりも地面との距離が近い。

女はちらと私の方を見つつ、目の前の魔物を仕留めるチャンスだと再び斬り掛かった。宙に飛ぶナイトホークには分の悪い攻撃だが、動きが鈍っている今の相手では、避けるのに精一杯のようだ。

<<ホワイトアウト>>!!

濃い冷気でナイトホークを包むと、相手は霧払いをしようと更に大きく羽撃いた。しかし、纏わりつく冷気を吹き飛ばすことはできず、そこへまた女が追撃を狙った。視界を奪われたナイトホークは無論避けることはできず、今度は深い傷を負わせることができた。

それで自棄になったのか、ナイトホークは風魔術を唱えようと再び魔力を集め始めた。いくら魔法でも濃霧に包まれていながら敵を狙って放つのは難しい。

ただ不幸なことにナイトホークが放とうとしているのは私がいる方向だった。急いで横に走って風魔術が放たれた瞬間にダイブをした。間一髪で射線から外れたものの、切り裂くような空気は轟音とともに緩い地面を抉った。

もしも当たれば一溜まりもない魔法だ。が、私にとっては好機でもある。すぐに立ち上がり、反撃の魔法を唱えた。

<<エアロ>>!!

集まった魔力は鋭い空気となって、音速を超えて放たれて、ナイトホークはそれに気付くはずもなく、殴られたかのように吹き飛んだ。

その一撃を食らっても、まだ羽を動かすほどの体力はあるようだが、戦意喪失したようでこの場から逃げようとゆっくりと地上から離れていった。

そこへ女がナイトホークの真上から胴体を突き刺した。ナイトホークは一瞬だけビクッとなったが、すぐに力が無くなり、息絶えた。

「…はぁ、終わった」

私はそう呟きながら膝に手をついた。ポイズントードの討伐が、二体だとは思わず、加えて別の魔物が乱入してくるなんて予想だにしなかった。初めてこんなに長く戦って、いつにも増して疲れていた。

女はぴくりとも動かないナイトホークから剣を抜いて、転移宝石を置いて離れた。地面には魔法陣のようなものが描かれ、ナイトホークは光りに包まれながら消えていった。

女はそれを見届けると、そのままテントの方向へ、大剣を引き摺りながら歩いて行った。しかし、その身は随分とボロボロである。

私は躊躇うこと無く女を追い、話しかけた。

「ねぇ!大丈夫?」

彼女は答えず、何事もなかったかのように歩いていた。しかし、剣を持っていない左腕の袖には、鉤爪かぎづめで引っ掻かれたような跡があり、袖口から血が滴っている。

彼女の平然たる態度に対して、平気だとは思えず、彼女の後ろをついていった。
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