灯びの系譜ー静寂なる闇に芽吹くもの

武内れい

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第5章:優しさの仮面

82、静寂の中の予兆(後半)

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 部屋の扉の向こうで、宮乃の小さな震えはなおも続いていた。

 それはまるで、細いろうそくの灯火が消えそうに揺れているかのようで、私はその儚さに胸が締めつけられた。

 扉の外から、倫の呼吸がわずかに聞こえる。

 その静かな息遣いが、まるで彼女を守ろうとするかのように響き、無言の約束を交わしている気がした。

 私は一歩踏み出そうとした。

 けれど、足は重く、身体は動かなかった。

 代わりに、心の中に嵐のようなざわめきが渦巻いた。

(なぜ、こんなにも静かなんだろう)
 心の奥で、問いかけが繰り返された。

 夕陽はさらに深く赤みを帯び、窓から差し込む光はもはや暖かさを失い、冷たい刃のように私の肌を刺した。

 その冷たさは、まるでこの先に待ち受ける暗闇の予告のようだった。

 目の前の廊下は、静まり返っている。

 しかし、私はその沈黙の中に、緊張と不安の鼓動を感じ取っていた。

 私は振り返り、ひとりぼっちの廊下に立つ自分の影を見つめた。

 その影は細く、ひどく長く伸びていた。

 それはまるで、私の不安が形となって伸びているかのようで、ぞっとした。

 宮乃の吐息は次第に弱まり、やがて一度止まったかと思うと、また小さく震え始める。

 私は胸の奥に手を当て、彼女の痛みが少しでも和らぐことを願った。

 けれど、祈りは空虚に響くだけだった。

 ふと、遠くから小鳥のさえずりが聞こえた。

 その軽やかな声は、まるでこの冷たい世界に差し込む小さな光のようで、一瞬だけ私の心を暖めた。

 しかしすぐに、現実は冷酷な沈黙を取り戻した。

 そのとき、私は彼らの声が遠ざかり、消えゆくことを知った。

 宮乃の決意が、私たちの前にひとつの境界線を引いたのだ。

 それは誰にも越えられない、壊れた命の深淵。

 扉の向こうの微かな物音が止み、室内は完全な静寂に包まれた。

 私はゆっくりと目を閉じ、深い呼吸をした。

 しかし、その呼吸は浅く、胸の痛みは収まらなかった。

 誰かの存在をこんなにも切望したことは、初めてだった。

 倫の顔が脳裏に浮かぶ。

 あの仮面のような微笑みの裏に隠された、壊れやすい心。

 彼が何を想い、何を恐れているのか、今なら少しだけ理解できる気がした。

 夕陽が最後の光を消し去り、夜の帳がゆっくりと降りてきた。

 廊下は闇に包まれ、私の影も溶けていく。

 それでも私は、動かなければならないと思った。

 宮乃のために。

 そして、自分自身のために。

 その時、遠くの方から微かな足音が聞こえた。

 それはまるで、何かが動き出した合図のようで、私の胸に小さな希望の火を灯した。

 私は震える手で扉の前に立ち、決意を新たにした。

 この静寂の中で芽生えた予兆を、見逃すわけにはいかない。

 未来の暗闇の中に、かすかな光を見つけるために。
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