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断章 61年後の香調
消える物語(後編)
しおりを挟むこの状況で首を突っ込むなんて、よほど正義感が強いのか、おせっかいなのか。
全員が声の主を探すと、すぐそこの曲がり角に見知らぬ少年が立っていた。
自信なさげで憂いた雰囲気は、面倒ごとに関わってしまった、という罪悪感に苛まれてるような表情からくる。
本当……なんだって声をかけてきたんだろう?
――いや、それより……似ても似つかないのに、どうして。
この不思議な少年は、更に奇妙なところがあった。
彼からは、
……否、一番に行動を再開したのは、こちらの隙を見逃さなかった彼女の方。
「ジャ……マ、スルナ……!」
少年めがけて武器を振り下ろすが、意外にも彼は受け止めてしまった。
「っと……なんだよ、この人」
更に武器を軽々と取り上げ、容赦無く彼女の鳩尾を蹴り飛ばし、二人の間に物理的な距離が生まれる。
彼女はすぐには起き上がれないようで、地面に蹲り咽せていた。
呆気に取られていると、彼はこちらを振り返り、声を上げた。
「おい、そこのあんたら! 逃げるなら早くしてくれよ」
「……聞かせて、何故助けてくれたの?」
「いつもの悪い癖だ、気にしないでくれ」
「それなら……て、わっ、露命?!」
突然、露命に抱き抱えられ変な声が出てしまう。
「栞恩。気付いてないようだが、もう限界だ。ここは彼に任せよう」
「でも、」
「俺は構わないから。……それよりあんた、消えかけてる」
「……え?」
ここで初めて自分の体を確認する。
先ほど貫通された腹部から、ハラハラと崩壊が始まっていたのだ。
……彼女の攻撃は、全くの無傷なはずがなかったらしく、露命の悲しそうな吐息が目に沁みる。
「この近くに『鞠月神社』という信頼出来る神社があるらしい。俺も行く途中なんだ。当てがないなら其処に行くといい」
「そうだな、先に行ってるよ……すまない」
「……ま、待って! 最後に名前、教えてくれない?」
「え?」
「私は、シオン」
「……ユメビシ、そう呼ばれてる」
「そっか……ありがとう、ユメビシ君」
そのやり取りを皮切りに、露命は私を抱えたまま、この場を遠ざかる。
私は見えなくなるまで、少年の背中を見ていた。
……彼は最後まで彼女を足止めしていたのだ。
そんな義理なんてない、ただの通りすがりの筈なのに。
少年は自身をユメビシと名乗った。
当たり前だ、あの人のはずがない。
なのにずっと後ろ髪を引かれてるのは、どうしようもなく彼に××の存在を感じてしまったからだ。
それはなんの根拠もない、ただの違和感だった。
***
知らないことが多すぎる。
しかし残された時間はあまりにわずかで、知る術も、その意欲も、とうに無くなった。
今更知ったところで、彼女の消失は免れない。
それでも、望みがあるとすれば。
皮肉にも……これまで幽閉されていた、あの場所しかなかったのだ。
かつて栞恩を回復に導いた空間――だが、あそこにはもう、戻れない。
栞恩が出ることを決めた際、役目を果たした様に消滅していくのを、この目で確認した。
その上で、露命は来た道を引き返していた。
少年に言われるまでもなく、あの時も、そして恐らく今も。
――我々は鞠月神社を経由したのだから。
思えば、先程出てきた際に通った鳥居、あれは神社の敷地内にあったのだろう。
どうやら境内の奥に位置する林を抜けたらしい。
その道の途中で見覚えのある男と遭遇した。
それは半世紀ぶりの再会だったが、見た目に変化が見られない。
この男も……どうやら人間ではなかったらしい。
「おや。キミ達は……」
「……また栞恩を、捕らえますか?」
「ん? あぁ……いいんだ。そうか、コレの事だったのかなぁ。いやね、ボクはただ異変を感じて様子を見に来ただけなんだ。今更どうこうするつもりはないよ」
「……キクゴロウさんは、ご健在か?」
「死んだよ。キクはね、最期までキミ達二人の行方を秘密にしていたんだ。律儀な男だよね? ……だからボクも追求しない」
「そう、だったのか……」
「キクに代わって、せめてもの手向けだ。この先にちょっと特別な神域がある。そこで残りの時間を過ごすといい。大丈夫、ワタシが許可しよう。ただし、どんな結末を辿るかは、分かりかねるけどね」
「それでも有難い」
「そう? ならよかったよ」
「……もう一つ頼まれて欲しい。もし、ユメビシと名乗る少年が此処を訪れたら、礼を伝えてくれないか」
「え、なんだって? ユメビシ?」
「知り合いか? 向かう途中らしかったが」
「あの子が、ねぇ……うんうん、興味深いな。そっちも任せてくれていいよ」
こうして意外な人物の助力を得て、二人の長い旅路は終わりを告げようとしていた。
――61年。
少年との邂逅の真相は、闇に葬られた。
当事者の誰もが、気づけぬまま。
こうして一つの物語は、伝わる手段を持たず消えてしまった。
……消えるはずだった。
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