幽縁ノ季楼守

儚方ノ堂

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第二章 廻る帰還

招かれた者たち(1)

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 浮遊感を纏う地面を踏み締め、進んでいく。
 この暗闇に目が慣れれば、なんて事はない。
 たった一筋……この浮き出た一本道を、光の灯る方へ辿るだけのようだ。
 
 相変わらず左右は真っ暗で、彩りなんてなかったが……ポツ、ポツ、と。
 道の上には時々、赤い花が落ちていた。
 これは――椿か。
 
「不思議でしょう? 島の何処にも、この花は咲いてないんですよ」
 
 これまで静かに俺の動向を見守っていたトオツグから、背中越しに声をかけられる。
 その穏やかな声色に振り返ろうとしたが、正面を向いたまま会話を続ける事にした。
 ……なんとなく、道を少しでも踏み外せば、奈落へ落っこちそうな不安に駆られたからだ。

「じゃあ、何処から来た椿なんです?」
「さあ。こういった神域への通路には、時々現れるみたいですよ。何かのメッセージか、誰かの趣味か」
「……そういうものですか」
「あぁでもね。これから大事な物事が起きる前触れだったりもします。良い会合になることを、祈ってますよ」

 話しているとあっという間に、目的地としていた灯りの元へ到着。
 光源の正体は、道を挟む様に立つ二つの灯籠で、後ろに建てられた木製の鳥居を、ぼんやりと照らしている。
 そしてその先には……途切れた道と、見通しの効かない背景。
 
 ――そう、つまり。

「ささ、間をくぐって下さい」
「いや、行き止まりじゃないですか。道違ってたなら教えて下さいよ!」
「いえいえ、合っていましたよ? ここがほぼゴールです。騙されたと思って、通ってみて」

 人を馬鹿にしたり、騙している様には見えない、あまりに眩しい表情。
 そういえば……昨日も、鳥居の騙し絵? の説明を受けたばかりだった。
 それと似たような事もあるかなと解釈し、一歩足を踏み込んだ。   

 ビュオオオ!
 
 くぐった瞬間、強い風が吹き荒れ、硬く瞳を閉じてやり過ごす。
 踏ん張り、強張った体を、トオツグがそっと隣で支えてくれる。
 
 ……ようやく風も落ち着いた頃。
 ゆっくり瞳を開けて、広がる光景に――絶句した。
 麗らかな陽の光、穏やかな陽気、鼻腔をくすぐる花の香り。
 
 呆気に取られたのは、決してそれだけではない。
 少し離れた大きな木の下で、賑やかに……いや。
 どんちゃん騒ぎしながら、酒を酌み交わしている集団に、だ。
 
「会合、というより宴会では……?」 
「久しぶりの会合ですから……茶室亭主人が集まると毎度こうでして。それと……」
 
 自然と漏れ出た疑問に、横から補足説明が入った。
 一度言葉を切ったトオツグは、腰を少し曲げ、耳打ちする姿勢をとる。
 俺も合わせて耳を寄せれば、至極真面目な声が鼓膜に響く。
 
「ユメビシ君。僕は立場上、これから先は何も手助け出来ませんが、油断してはいけませんよ。彼ら『茶室亭主人』とは、この季楼庵の心臓を司る、一応神様ですから」
「か、神様!? 嫌な予感がするんですけど、もしや会合って……?」 
「……その反応はヨミト、説明を怠りましたね。すみません、もっと早く言ってれば。会合とは『庵の重要事項を、によって取り決める、話し合い』を指します。それには招かれました」 
「君達って、」
 
「おやおや、内緒話ですか? 仲がよろしいですね」
 
 突然背後から声がし、両名が振り向くと、印象的な顔立ちの男が立っていた。
 何より目立つのは、好き好んで、その邪魔くさそうな装飾が付いた眼鏡をかけているところだ。
 顔の輪郭に沿って、鎖で繋がれた雫型のガラス細工が揺れている。
 その奥には、歌舞伎を連想させるような、特徴的な化粧に囲まれた穏やかな糸目。
 
「トウノサイ。珍しいですね、貴方が最後なんて」
「いやね、彼女が怖がるものですから……ほら。大丈夫ですよ、早くいらっしゃい」
 
 トウノサイと呼ばれた男は、俺達も通ってきた鳥居に向かい優しく声をかけた。
 こちらから見ても、それより先に空間がある様には見えない。
 しかし中からは、何やら揉めるような男女の声がするのだ。

「いつまでもお待たせするな! 庭師の俺様がいるから、こうして楽に、安全に行けるの。さっさとしな!」
「わ、分かりましたから、お、押さないで……わっ!」  

 突如、前のめりに姿を現した人物を受け止めながら、俺は目を見開いた。
 
「昨日の……!」 
「す、すすすみませんっ、て、あああっ! ユメビシさん!?」
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