幽縁ノ季楼守

儚方ノ堂

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第二章 廻る帰還

会合の終わり

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 そしてトウノサイが施術し、チグハグながらも移植は完了した。
 結果として、生命的には死なずに済んだけど、キミは死ぬよりも辛い苦痛を味わう羽目になったのは……言うまでもないね。

 ユメビシを家に送り届けた後、これ以上の被害を防ぐために、ワタシ達は対策を講じたよ。
 しかし一番の難問が、当主不在の穴をどう埋めるかだった。
 
 さっきユメビシは、何故もっと早くに代理を立てなかったのか、そう聞いたね? 
 本来ならば、当主が替わる際、『解任ノ儀』にて引き継ぎを行う必要があるんだ。
 つまり現当主と次期当主の両名が揃って、初めて成り立つ儀式でね。
 現当主が消息不明では、完全に詰んでいた訳さ。 
 
 無論ほかにも、いくつか手を打ったんだけど……良い成果を得られなくてね。
 結局、地道に開いてしまった抜け穴を塞いだり、リンシュウ尽力の元、庵の防衛戦を強化するので精一杯だった。
 
 こうして、あっという間に時は流れ……十年くらい経った頃。
 
 ユメビシは成長した姿で、ボクの前に現れた。
 実を言えば、キクの手が随分馴染んでいるのを見て、嫉妬してしまったんだ。
 
 ユメビシはあの時点で、季楼庵と微弱ながらも繋がりを持っていた。
 そうしたらね、無性に賭けをしたくなったのさ。
 戻ってこれないなら『その程度だった』、そう判断しようと。

 あの賭けはね、当主足り得る器があるか、という試練でもあったんだ。

 キミがどう過ごしたのかは、想像しかねるけど。
 ただクリア条件は単純明快さ。
 
 ――多くの妨害や誘惑に屈せず、『自分が誰なのか、思い出す』こと。
 そうすれば外に出られる。
 ユメビシはすんでのところで、戻って来られたようだけどね。
 ……誰かが、手助けでもしたかのな?
 
 それをクリアしたからには、僕はもう認めているんだ。
 ユメビシ。キミは今、最も当主に近い存在となった。
 
 蟠華ばんかの摘出をしただろ? 
 ならば当然、下位互換である寄生華きせいばなだって出来るはずさ。
 その力は季楼庵当主……ひいては、キクの才能によるところが大きいけど、それを扱えてるいるのは、一種の素質なのさ。
 
 
 ヨミトによる長い語りは、誰も口を挟む事なく、幕を下ろした。
 
 彼らにとては周知の事実であっても、俺からすれば驚きと困惑の連続だ。
 それにしても、何故俺の手が穢れを受けたのか――これは結局分からずじまいだった。
 もう当時のことは詳しく覚えてないから、ヨミト達が知らないんじゃ、お手上げだ。
 
「分かってもらえたかな? 当主は誰にでも務まるものじゃない。現当主スメラギが戻らない今、ユメビシ以上の適任者はいないんだ。やってくれるね?」
「それは……」 
 
 正直まだ、答えが出せなかった。
 当主が特別な存在……というのは今の話で分かったが、あくまで自分は仮初。
 期待された務めを果たせるとは、到底思えない。
  
「なら言い方を変えよう。ユメビシにも、目的があるだろう? 例えば『忘れてしまったことを思い出したい』とかね。いいね、ゆっくり思い出せばいいさ」
「急になんだ」
「その手伝いは出来ないけど、なら安全で不自由ない居場所を提供できる……当主代理として、振舞ってくれるならね」    

 悪戯っぽい表情で、ヨミトは笑う。
 当主代理をやりたくて、今ここにいる訳ではないが……記憶を取り戻す為には、ヨミトの提案は理に叶っている。
 そもそも70年近く経った外の世界に、自分の居場所はないだろうから。
 
「……分かったよ。具体的に、何をしたらいい?」 
「うんうん、いい返事だ。でも実際問題、ユメビシが何をどこまで出来るのかは、未知数なんだ。前例がないからね。一先ず、瞑之島での暮らしに慣れてほしい。まあ当主代理として必要な場面では遠慮なく、こき使わせて貰うけどね」   
「ここの暮らしに慣れる?」
「特にユメビシは久方振りの、娑婆の空気ってやつでしょ? 人里の感覚を取り戻した方がいいんじゃないかな」   
「なるほど……」 
 
 ――いや、閉じ込めた原因作ったの、お前だけどな!
 
 主人達はユメビシの代わりに、心の中で総ツッコミを入れた。
 
「とにかくよ。今後ユメビシに、当主の真似事をさせるってことだな」
「そゆこと。でもユメビシの一番大きな役割は、祭りの中心に立って貰うことにあるからね。あとは追々おいおい」 
「その度々聞く、祭りって?」
「あー、瞑之島はな、『主神祭』って催しをしなきゃいけない制約が存在するんだ。周期はバラバラなんだが、平均的には半世紀に一度くれぇか? 本当はとっくにやらなきゃいけないところを、誤魔化してここまで来ちまった。これ以上先延ばしにすると、きっと」 
 
 カナンのここで言う『季楼庵』は、妖のことを指しているのだろう。
 もし怒らせたら、どうなってしまうのか……。
 
「良い落とし所ではないですか? 我々にとっても、ユメビシ君にとっても」 
「私も異議ないわよ。面白そうだし」 
「ユメビシは乗り気じゃないだろうが、祭りが出来るのは有り難え! よろしくな!!」 

 おおむね、当主代理として賛成の色を示す中、シュンセイだけが険しい顔をしていた。
 
「シュンセイも、それでいいわね?」 
「……あ? あぁ。ヨミトの思い通りになってるのは、少々気になるが」
  
 リンシュウに促され、渋々といった形で了承するシュンセイ。
 これで主人全員から、ユメビシは当主代理として認められたことになる。
 中立者はこの思惑通りの結末を前に、満足げに頷き、するりと立ち上がった。

「ではでは、これにて。今回の会合はお開きとしよう」
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