幽縁ノ季楼守

儚方ノ堂

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第二章 廻る帰還

昔話を始めよう

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 ――季楼庵当主。
 表向きの顔はあくまで、組織としての季楼庵を束ねる、最高権力者。
 別に間違っちゃいない。しかし、実際はもっと込み入った裏事情が存在する。
 
 それが瞑之島みんのとうに憑いてる妖『季楼庵』と契約を交わした報酬……いや、代償に、時の理から外された人間を指す。
 寿命という枷を外されるんだ。まあ分かり安く言えば、疑似的な不老不死。
 庵の意志を聞いて代弁し、要望を形にするのが務めであり、あらゆる権限を委任されている存在だ。

 それを務めていた一人、前代当主のキクゴロウという男は人格者で、非常に優秀な翁だった。
 茶室主人や島民から絶大な支持があったし、ボクも彼のことはとても気に入っていたよ。
 永いこと当主を務めあげたのが、その証拠さ。

 でも、キクの後任で着いた当主は、少し曲者でね。
 ……名をスメラギ。
 それが一応現在の季楼庵当主で、消息を絶っている男の名だ。
 
 彼はある日、忽然と姿を消してしまった。
 それからだよ。島のあちこちで異変が起き始めたのは。
 その最たる被害が、境界の揺らぎによるものでね。
 
 全国各地にある幽世かくりよへ通づる境と、島の神域が意図せず繋がってしまい、招かれざるものが迷い込んできた。
 ――庵に敵意を持った、異形による襲撃さ。
 あの当時、門番はいなかったからね。
 そりゃもう、荒らされたものさ。
  
 季楼庵始まって以来の暗黒期を迎えた島は、神域の力が弱まり荒廃していった。
 そんな中、ついには人間の子供が迷い込んできた。
 ……ユメビシ、キミのことだ。 

『おや、迷い子がいるね』  
 
 最初に発見したのは、このボクだった。
 しかし子供とは、動きが予測出来なくてね。
 少し目を離した隙に、はぐれてしまったんだ。
 無論、ボクなりに必死で探したさ。
 
 ……でも一足遅かった。最悪の事態は、すでに起きていたんだ。
 
 ようやく見つけ出した時、ユメビシの手は何らかの穢れを受け、腐り落ちていた。
 正直あの時、何があったのか……残念ながらボクらには想像もつかない。
 ユメビシが覚えていないのなら、真相は迷宮入りだろう。
 まあ、もし何か思い出したら、教えて欲しい。
 
 あの現場には痛みに悶えるキミと、地面には何かが焦げた跡……そして埋葬されていたはずの、キクの両手が転がっていた。
 
 ――何故キクの手だと、分かったかって?
 指の刻印が、キク本人のものであると雄弁に語っていたし、後に棺桶を調べたら遺体が消えていたから間違いないよ。

 そのまま放っておけば、穢れは全身を汚染し、取り返しのつかない事態になるのは明白だった。
 ……さて。運良くそこには、手を失った少年と、手だけになってしまったキク。
  
 実を言うと、キミがかは、最初から分かっていた。
 季楼庵は老舗だからね、様々な情報網を持っている。
 ボクらはあくまで中立組織。無駄な戦争は好まない。
 故に今後を思えば、みすみす見殺しにも出来なかったという訳さ。
 
 とは言え……唯一助かる方法が、あまりに過酷な将来を告げていたからね。
 念の為、キミに尋ねたさ。

 『生きたい?』とね。
 
 キミは目に涙を溜めながら、『死にたくない』と応えたよ。
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