37 / 55
第二章 廻る帰還
封鎖
しおりを挟む「う、うそ……」
後ろから漏れた呟きは、今にも消え入りそうな程、弱々しかった。
バックミラー越しに映る少女は、両手で口を覆い、固まっている。
「コエビ君、もう一度お尋ねしますが……このトンネルを通らなければ、村には行けないんですね?」
「はい……なにぶん人口の少ない、小さな集落ですから」
僕らの前に広がる光景は、絶望的だった。
山間の間に伸びたトンネルの手前で、土砂崩れがあったらしく、荒削りの岩石により行手を阻まれてしまっている。
道中も何箇所か、ありとあらゆる理由により通行止めがされていた。
そこを地元民であるコエビ君の先導により、地図に載ってないような抜け道を使って、掻い潜ってきた訳ですが……。
「トオツグさん、どうします? 車一台分の隙間くらいなら、開けられると思いますけど」
コエビ君の隣に座るルコ君が、後部座席から身を乗り出し、正面の様子を見ている。
確かに彼女なら、出来てしまうだろう……しかし。
「やめておきましょう。何か作為的なものを感じます。コエビ君には申し訳ありませんが、また日を改めましょう」
『……そうしなさい。この数日間は、全国的な晴れ。その近辺で、土砂が崩れたなんてニュースも無さそうだ』
スマホのスピーカー越しに聞こえる上司の意向も、自分と同じようだった。
『コエビ、これが君の言う、祟りに該当するものか?』
「どうでしょう……村で起きてたものは、もっと小規模の……子供のイタズラに近しいものでした。それを祟りだって決めつけてたのは、一部の層だけで。私はそれより、村人の方が何かに憑かれてみたいな雰囲気でよっぽど……す、すみません脱線してしまって」
『いいや、参考になった。悪いが安全を第一に考えれば、今日はもう早急に全員撤収。ルコ、引き続き護衛は頼んだ。気を抜くなよ』
「は~い、シノさん。お任せあれ」
「では鞠月神社に戻ります」
『ん、ご苦労さん』
――プツ。
「残念だったわね、コエビちゃん……あらそうよ、なんで思いつかなかったのかしら! 私のスマホ貸すから、お家に連絡してみる?」
「ありがとうございます……でも、大丈夫なんです。実は母と二人暮らしだったんですけど、その母も昨年……。それに知り合いの電話番号は覚えてなくて」
所在なさげな笑顔を作ることしか出来ない私を、ルコさんは何も言わず、ただ優しく抱きしめてくれた。
ふわふわとした髪が頬を撫で、優しい香りに包まれる。
うっかり泣いてしまいそうになるのを、唇を噛み締め、グッと堪えた。
「きっと、また来ましょうね」
「はい。ありがとうございます……」
故郷に背を向け、車は静かに発進した。
陽は落ちかけているから、戻った頃には真夜中かな、と。
座席に身を預け、オレンジ色に染まる空を眺めた。
……なんとなく、暫くこの山には戻ってこない気がした。
それが不謹慎にも、やけにホッとする。
初めて故郷を離れ、疑惑が確信へと変わった。
どうやら私……ここが好きじゃなかったみたい。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
大正浪漫? 夫婦契約致しました ~暗闇の中、契約夫と密やかにはぐくむ愛~
佳乃こはる
キャラ文芸
老舗製糸屋・両口屋家のひとり娘、陽毬(17)は、父の事業失敗の責任を負う形で、成金の物産商・権藤家へ嫁いだ。
それは恋ではなく、家を救うための契約の婚姻。
しかも、夫となる権藤宿禰(26)は病のため人前に出られず、屋敷の地下で暗闇に閉ざされて暮らしているという。
不安と恐れを胸に、初めて対面した夜。
陽毬が出会ったのは、噂とはまるで違う、知的で誰より暖かい心を持つ夫だった。
契約から始まった夫婦は、言葉を交わし、寄り添い、少しずつ心を育んでいく。
これは、温かな闇の中で選び合う、切なくも、けなげな愛の物語。
背徳のミラールージュ(母と子 それぞれが年の差恋愛にのめり込んでいく鏡写し)
MisakiNonagase
恋愛
24歳の市役所職員・中村洋平には、自慢の恋人がいた。2歳年上の小学校教師、夏海。誰もが羨む「正解」の幸せの中にいたはずだった。
しかし、50歳になる母・美鈴が21歳の青年・翔吾と恋に落ちたとき、歯車は狂い出す。
母の恋路を「不潔だ」と蔑んでいた洋平だったが、気づけば自分もまた、抗えない引力に引き寄せられていた。
その相手は、母の恋人の母親であり、二回りも年上の柳田悦子。
純愛か、背徳か。4年付き合った恋人を捨ててまで、なぜ僕は「彼女」を求めてしまうのか。
交差する二組の親子。歪な四角関係の果てに、彼らが見つける愛の形とは――。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)その後
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合つまた。
その後、大学を卒業した祐輔(ユウスケ)の新たなストーリーが始まった。
全15話を予定
神木さんちのお兄ちゃん!
雪桜
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます!
神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。
美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者!
だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。
幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?!
そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。
だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった!
これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。
果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか?
これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。
***
イラストは、全て自作です。
カクヨムにて、先行連載中。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる