鬼神一刀列伝 零

Y.Itoda

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 打ち据えられた全身が、火傷のような熱を帯びていた。
 伊豆大島の浜には、今日も穏やかな波が寄せては返していたが、少年の耳に残るのは波音ではない。父の振るうかしの木刀が青い空を切る音と、己の肌を叩く乾いた音だけであった。
 稽古が終わると、父はいつも黙って刀を置いた。
 振り向かない。一言もない。
 ただその背中を見ていた。今日こそ、と思う。今日は十本、受け切った。一度も地に伏さなかった。だが父の目は、視線をすり抜けてどこか遠くへ流れるばかりで、ここには届かない。
 いつもそうだった。

「弥五郎、また泣いてる」

 呆れたような声と共に、濡れた手拭いが頬に当てられた。幼馴染のサヨである。

「砂が入っただけだ。俺はもう十三ぞ。いつまでもわらべではいられぬ」
 強がったが、その声は震えていた。

「でも、おじ様も酷い。弥五郎はこんなに優しいのに、なぜあんな人殺しの真似事ばかりさせるのだろう」

 サヨの言葉は、弥五郎の胸中のおりを代弁していた。弥五郎にとって、父、弥左衛門やざえもんの厳しさは狂気そのものに映った。
 この島は平和だ。村の衆は貧しくとも、麦を分け合い、助け合って生きている。それなのに父は、見えもしない敵に怯え、息子を修羅の道へ引きずり込もうとしている。
 噂によれば、京の都では覇者が現れ、乱世は終わろうとしているという。天下が治まるこのご時世に、剣などに何の意味があろう。父の瞳はいつもどこか虚ろだった。
 その冷徹な眼差しで、ただ暴力だけを押し付けてくる父親を、弥五郎は憎んですらいた。

「あんな奴、死ねばいい」

 そう吐き捨てた、その時である。
 腹に響く鐘の音が轟いた。半鐘の乱打。集落の方角から黒煙が昇り、潮風に混じって鉄の焦げる臭いと悲鳴が届く。海賊の襲来であった。
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