【第2部開始】ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜

月森かれん

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第1部 第2章 供物問題解決編

27話 出発

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 3日後。無事に試験に合格した私は、自室で旅支度をしていた。

 「服とお金と、火打ち石とダガーと……」

 今回も革袋に詰め込んでいる。兄のレオによれば「丈夫で壊れにくいからオススメ」だと言われた。
とはいえ持って歩くので、できる限り少なくしたい。
それでも日用品と食料は分けるので、どうしても2つにはなってしまうけど。 

 今回は遠出することを皆が知っているので、コソコソする必要がなかった。
むしろ、使用人たちの方から要る物はないかと声をかけてくれるほどだ。

 一通り詰め込んで顔を上げると。棚に並べられたお手製のぬいぐるみたちが目に映る。
結局、父はぬいぐるみを取っておいてくれたのだ。
そもそも本当に勘当する気はなかったので、当然かもしれないけど。

視線を棚から壁際のテーブルに移す。
そこにちょこんと置かれている物を見て、思わず声をあげた。

 「あっ!ラディウスのぬいぐるみ!」

 翼のない白いドラゴンをモチーフにした手のひらサイズ。これは忘れちゃいけない。
今は空だけど「またぬいぐるみに入りたい」とか言われたら大変だから。

 「はっ!テネルのぬいぐるみも!」

 テネルはスライムの王様。あの時は布がなかったので急遽、草で作ったぬいぐるみで過ごしてもらったのだ。
 次に来る時に「ぬいぐるみを作ってくる」と約束したのを忘れていた。
 テネルは賢いので、忘れたなんて言ったら拗ねる。

 「危ない危ない。こんな大事なこと忘れるなんて」

 引き出しから、手のひらサイズの薄い黄色ぬいぐるみを取り出す。
勉強の合間に作った物で、素材は綿だからフワフワしている。テネルに気に入ってもらえそうな気がする。

 ついでに兄に「火打ち石とダガーの使い方を教えてほしい」と頼んだら、
快く引き受けてくれた。
 「シーラもサバイバルの楽しさがわかるようになったか!」って言ってたけど、それは違う。

 火打ち石はたくさん練習して、安定して火をつけられるようになったし、
ダガーでいろいろ切ったり、簡単にに護身もできるようになった。
もし何かしらのトラブルに見舞われても大丈夫……なはず。


 出発の日の朝、兄が港町ノレトスまで馬車で送ると言ってくれた。
 母、使用人たち。そして彼等より1歩前に出ている父。
 彼は優しい目で私を見ながら、ゆっくりと口を開く。
 
 「困ったら、いつでも戻ってきていいからな」
 
 「うん!
  お父様もお母様も、使用人の皆さんも健康にはお気をつけください!」

 改めて丁寧に挨拶をすると、全員が笑顔で頷いてくれた。

 「じゃあ、いってきま~す!」

 皆に見送られながら、勢いよく玄関を飛び出した。




 特にトラブルもなく順調に走って、昼頃にはノレトスに辿り着いてしまった。

 馬車、速い。

 「じゃあ、俺はここまでだからな。頑張れよ、シーラ」

 「うん!お兄ちゃんもね」

 手を振ると、兄は行者に指示を出してさっそうと来た道を戻っていった。
 私は前を向くと門をくぐる。

 「なんだか懐かしいな」
 
 石造りの道や赤レンガの家を見ながら呟く。 
 ほんの3か月前に訪れたのに、数年ぶりに来たように感じた。

 「あ、船って時間決まってるんだった!間に合うかな……」

 確か、1日に2回往復して、1回目が目的のヴァイスア大陸。2回目はロートア大陸。
 あの時は朝で、今は昼時……。

 「急がなきゃ!」

 姿勢を低くして全力で駆け出した。
今日乗れなかったら、ここで1日を過ごさないといけない。

 やっと町の奥、船着き場に辿り着いた。
マストが3本立っていて、相変わらずの立派さに思わず感嘆の声が漏れた。
 まだ桟橋に行列ができているので、間に合ったみたいだ。
 お金を用意してから、きちんと最後尾に並んで順番を待つ。

 「はい、銀貨2枚――って、あの時の嬢ちゃんじゃねぇか」
 
 「ど、どうも……。覚えてたんですね」

 頭に青いバンダナを巻き、いい具合に日焼けしたお兄さんが歯を見せて笑う。
 私は、初めて船に乗る時にいろいろ尋ねすぎて、後ろの人達を怒らせてしまったのだ。
 銀貨を渡しながらショックを受ける。私の顔が面白かったのか、お兄さんは少しニヤついていた。

 「そりゃあ、あれだけ騒げばなぁ……いいぜ、乗んな」

 「あ、ありがとうございます」 
 
 軽くお辞儀をして船に乗る。
 潮風が目にしみたけど、それのせいだけではなかった。
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